東大・研究グループ 事故時の避難行動解明 GPS携帯から解析し 周辺住民の動きなど

東京大学理学系研究科の早野龍五教授らは9日、福島第一原子力発電所事故に伴う周辺の人の流れを、GPS機能付き携帯電話による位置情報から解析し、推定結果を発表した。それによると、発電所から20km圏内では、事故前の人数は約7万6000人、放射性ヨウ素濃度が最も高かったとされる3月14日深夜から同15日深夜にかけての人数は最大でも約2000人であることがわかった。地図ナビゲーションアプリの提供サービスを行うゼンリンデータコムの協力により示されたもので、これまでの聴き取り調査や問診票など、記憶に基づくものではなく、客観的データを用いて事故当時の人の流れを明らかにしたのは初めてとみられる。

先般、福島県民の内部被ばく調査結果を発表した早野教授は、事故による初期被ばくの解明には、放射性物質の拡散シミュレーションと、各地点における滞在人数の把握が必要との考えから、携帯電話の位置情報による人数分布解析に着目し、ゼンリンデータコムの協力を得て、GPS付き携帯電話の利用者から許諾を得て提供を受けた位置情報を、同社の「混雑統計®」を用いて解析した。ゼンリンデータコムは、住宅地図で多くの実績を有するゼンリンの関連会社で、「混雑統計®」は、観光流動や交通流動などの解析に用いられている。

今回の調査手法では、GPS付き携帯電話の普及状況に留意し、250mメッシュ内の1時間ごとの人数推計値を求めることにより、福島第一発電所からの距離5km刻みの人数を、事故発生前日の3月10日から17日で、1時間ごとに算出した。早野教授によると、人数分布をドットで示した地図を「『パラパラマンガ』で見せるとわかりやすい」と話しているが、3月10日朝は発電所に向かって出勤する人たち、夕方には退勤する人たちの様子が、事故が発生し避難指示エリアが、11日の21時23分に3km圏内、12日の5時44分に10km圏内、同18時25分に20km圏内と順次拡大されるごとに、当該圏内の人数が減り、逆に、その外側の人数が増える様子が見られるなど、指示に従い、発電所から遠くへ避難する人の流れが読み取れるとしている。特に、福島第一発電所から20km圏内の人数を見ると、事故前の3月10日の朝の通勤、夕方の退勤、11日朝の通勤までは、通常とみられる変動を示すが、事故発生後、12日に日付が変わる頃から、15km圏内の人数が前日とは異なる大きな減少を見せる。また、15〜20km圏内では、20km圏内に避難指示の出された12日の夕方頃から人数の減少が見られる。同13〜14日は、停電等によりデータが収集できなかった時間もあるが、発電所直近を除く多くの地点で14日の日中にはデータ収集が再開されている。また、国勢調査結果と比較した人数の推計誤差は、1万人で約20%、1000人で約50%としている。

調査結果に関して、今回手法が事故時の避難行動の解明と、初期被ばくの影響評価に有用などと展望を示す一方で、放射性物質に感受性の強い乳幼児の分布・流動が不明であるほか、拡散シミュレーションの精度向上など、実際の健康指導等に用いるには、さらなる検討が必要としている。


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