HLW処分 「信頼の醸成が大切」 秋庭原子力委員が講演会

高レベル放射性廃棄物(HLW)の処分は原子力発電利用国共通の悩みであり、日本では原子力発電環境整備機構(NUMO)が2002年から地層処分施設の文献調査地点に関心を持つ自治体を公募しているが、市町村レベルの関心表明が県の反対に阻まれるなど進展は難しい状況にある。

昨年9月、原子力委員会の依頼を受けた日本学術会議がHLWの処分取組における国民に対する説明や情報提供の在り方に関する提言を発表。原子力委ではそれらを踏まえつつ今後の取組の在り方を昨年12月に見解文として発表している。

同委の秋庭悦子委員(=写真)は特に、国民全員が使うエネルギーについて考えるに際し、処分問題は真剣な取組が必要と認識。委員就任以前からこの課題に精力的に取り組んでおり、今年3月には処分場計画が順調に進むフィンランド、2市が関心表明したにも拘わらず州議会の否決でプロセスが頓挫した英国の実情を調査するべく両国を訪問した。

13日にはその結果を日本の今後の議論のきっかけに提供する講演会が原産協会で開かれ、同委員が現地の関係者から直接聴取した成功の決め手や失敗の原因など、日本の活動にとって有益な情報が詳細に披露された。

フィンランド=規制当局への国民の厚い信頼

フィンランドではティオリスーデン・ボイマ社(TVO)のオルキルオト原発が立地するエウラヨキ市に使用済み燃料を直接処分するため、昨年12月に実施主体のポシヴァ社が最終処分場の建設許可申請を雇用経済省に申請した。サイトの精密調査のため、同社が2004年に着工した地下特性調査施設(ONKALO)は大部分が完成しており、現在は操業に向けた準備中である。

原発の固定資産税の税率が高い同国での新設は人気があるが、理解促進活動の一環としてTVOもポシヴァ社も年に3回程度、地元の協力グループとの会合を欠かさないほか、福島事故直後には安全性に関するQ&A集をウェブサイトにアップするなど即応性を重視している。

最終処分場については、研究開発と審査の経費を除く総コストを約33億ユーロと見積もった。受け入れには安全性と公開性が重要で、地元自治体がリスクとメリットを理解できるよう、討論の場を設けて十分な情報を提供。自治体はまた、拒否権を有しており、県は自治体に意見を出すことはできても賛否を言うことはできない。

さらに、厳格でオープンな放射線・原子力安全センター(STUK)が安全性を厳しくチェックしているため、国民の信頼は厚い。STUKは予算も許認可審査料で50%を賄うなど独立性も高く、このような信頼や、透明性、独立性が成功のキーワードであると判明した。

英国=直接対話による信頼醸成が大切

英国ではカンブリア州のコープランド市とアラデール市が最終処分場の誘致に関心表明していたが、サイト選定プロセスを次の段階に進めようと考えていた昨年春、州議会から「早すぎる」とのコメントがあった。今年1月末の評決を待つまでの間、賛成派の地質学者が州内の具体的な適地を公表してしまい、それが反対派によるロビー活動の激化と州議会での否決につながった。州と市の両方の賛成が条件になっていたため、プロセスは終了せざるを得ず、現在はプロセスの見直し中だ。

一番の失敗は、サイレントマジョリティを巻き込めなかったこと。文献調査に入る第四段階の前の段階ではあったものの、ステークホルダー代表者による「パートナーシップ」を設立して理解活動を行っていた。しかし、同パートナーシップが正式なものになる前では、誘致に伴う雇用や投資効果など具体的な利益を地元に明確に伝えることができず、規制当局も住民の質問に積極的に答えることができなかった。

必要なのは独立の専門家や科学者など、政治家以外で賛成意見を一般大衆に上手く伝えられる人材。また、法的な裏付けのない建設前の撤退権について、カンブリア州から信用されなかったことも失敗要因の1つであり、中央政府や原子力デコミッショニング機構(NDA)、規制当局、議会など、役割りの明確化と信頼関係も検討される必要があった。こうした点から、直接対話による信頼の醸成が何よりも大切であると学んだ。


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