シリーズ 英国Q&A (4)英国の原子力損害賠償法(後半)

英国現行法の改正案は?

2011年にエネルギー・気候変動省(DECC)は、改正パリ条約とブラッセル補足条約・追加議定書に従い「1965年原子力施設法」の改正案を公開審議に付しました。主な改正点は、原子力損害対象領域の追加、地理的な原賠法対象範囲の拡大、被許可者/運転者の賠償責任限度額引き上げに関するものです。法改正案を整理すると以下の通りです。

(1)原子力損害対象領域の追加

新たに、以下が原子力損害の対象に追加されます。▽財産損失や人身障害による経済的損失▽損なわれた環境の復旧対策費▽環境利用または享受における直接の経済的利益から生じる収入の損失▽予防対策費

(2)地理的な対象範囲

現行法の賠償対象は、他のパリ条約締結国で発生した原子力損害を含みます。法改正案では、以下のようにパリ条約締結国以外で発生した場合にも適用されるとしています。▽ウィーン条約およびジョイント・プロトコル(ウィーン条約及びパリ条約の適用に関する共同議定書)加盟国▽原子力施設を持たない国▽英国と同等の原子力損害賠償制度を持つ国

(3)賠償責任限度額引き上げ

改正案は被許可者/運転者の賠償責任額の上限を、現行の1事故あたり約1億6000万ユーロ(2億2000万米ドル)から、1事故あたり12億ユーロ(16億米ドル)へ大幅に引き上げています。賠償総額は7億ユーロを起点に、年額1億ユーロずつ5年間にわたって増加されます。この限度額引き上げ案を整理すると以下の表になります。

改正法はいつ施行されますか?

欧州の締約国は、改正パリ条約とブラッセル補足条約・追加議定書を同時に批准することに同意しているため、英国の改正法が施行される正確なタイミングは不明です。ですが締約国は今年前半に批准すると見込まれており、同改正法もほどなく施行される予定です。

改正法は英国市場に参入する日本企業にどのような影響を与えますか?

DECCの法改正案の中には、以下のような未解決問題があります。

▽原子力保険=DECCは、改正パリ条約とブラッセル補足条約・追加議定書そして本法改正案に規定されたあらゆる賠償責任をカバーできる営利保険市場が、現状では存在しないことを認識している。但し、今のところ、入手可能な営利保険とのギャップをどう埋めるかの解決策はない。

▽英国外で発生した賠償請求=本法改正案が英国外で蒙った原子力損害をカバーし、また損害賠償請求の裁判管轄権がパリ条約で定められた通りに外国の裁判所で排他的に行使されることを保証しているかが不明確。

英国の原子力損害賠償制度は現在流動的であり、法改正案にも未解決な問題が残されています。したがって投資契約、サプライ契約、サービス供給契約等には、英国市場への参入に伴う原子力賠償リスクから自社を保護する適確な条項を盛り込み、これら不確実性に対処する必要があります。

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回答者 ジョージ・ボロヴァス(ピルズベリー・ウィンスロップ・ショー・ピットマン外国法事務弁護士事務所・パートナー、国際原子力プロジェクト長)、ヘレン・クック(同シニア・アソシエイツ、原子力部門所属)

  (構成 石井敬之

(本Q&Aは一般的な情報提供を目的としたものであり、同弁護士事務所の法的意見や法律面での助言として提供しているものではありません)


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