子どもの被ばく影響研究 放医研の研究Gr 大人と違うメカニズムも

子どもの放射線影響は、とくに福島第一原子力発電所の事故後、関心が高まっている。

放射線医学総合研究所では「発達期被ばく影響研究プログラム」という子どもの放射線影響を調べる研究を進めている。マウス等の動物を使い、胎児期から成体にいたるまでのさまざまな発達段階での放射線影響を研究するもので、重粒子線治療にともなう被ばくの影響を調べるのがねらい。これまでの研究では個体レベルで(1)臓器ごとに放射線発がん感受性時期が異なり、腸・肝臓は子ども、骨髄は大人の時に被ばくするとがん化リスクが比較的高いこと、また細胞レベルで(2)子どもと大人では放射線応答が異なり、子どもは細胞を修復し生存させる傾向のあること―の2点がわかってきた。

このうち放射線応答の違いとしては、大人で頻繁にみられるアポトーシス(細胞死)が子どもには見られないことが、生体組織の中でも特に放射線感受性の高い腸管を調べてわかったもの。子どもの場合、がん抑制遺伝子で司令を出す役目のp21というタンパクの蓄積によって細胞死は起こらず、細胞は修復・生存する。従来言われている「子どもは細胞活動が盛んなので、発がんのリスクが高い」というだけでは説明できないメカニズム(イメージ)があるという。

重粒子線がん治療研究は放医研が中核となって進めており、骨のがんなど他の治療法で難しいがんを外科手術なしで、“切らずに治せる”注目の先端医療だ。ピンポイント(線量を集中)でパンチ力(高い治療効果)があるのが特長だが、部位によっては、人体に照射するので重粒子線の影響をよく調べておく必要がある。子どもへの影響はまだわからないことがあり、安全な治療に見通しを得るには、こうした研究の積み重ねが必要だ。現在まだ重粒子線が実施されていない小児がんへの適用にも道が開ければ、重粒子線治療で子どもを含め、より多くの患者を救うことにつながる。

研究は1期5年を終え2期目に入った。スタッフが交替でマウス1万匹もの世話をしながら、“年中無休”の研究を続けている。スタッフには連携大学院制度で、首都大学東京や東邦大学等から医学部、理学部などの学生も参加。マウスの世話や分析、論文執筆と、50名超のチームが一丸となり、毎日の研究を支えている。学生の参画は関連分野の技術者や研究者育成など人材面の意義も大きい。

研究の一方で、福島第一原子力発電所の事故後以降、放医研が開始した「放射線被ばくの健康相談窓口(電話相談)」や、講演会などに説明役として関わり、一般の人たちの率直な声に応えることも重要な仕事になっている。低線量域を含めた放射線影響について、一般の人たちの不安に答えるためにも、低線量域を含む放射線影響の研究は、その社会的な意義が高まっている。


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