【原子力ワンポイント】日本の放射線・放射能基準 −−福島第一原発事故〈番外編23〉 被ばく線量の表し方は2種類あるので注意

「内部被ばく」を議論する際には、通常、「甲状腺等価線量」が使われます。一方、がんリスクに基づいて放射線防護基準を論ずる時には、「実効線量」が使われます。これまでの新聞報道を見ると、2つを区別して報道された例は極めて少なく、人々に無用な誤解や不安を生じさせているようです。

ゲンくん つい最近、新聞(5月28日付)で「福島第一原発事故によって、避難区域内の当時1歳だった子が、事故後1年間に受けた甲状腺の最大被ばく線量は、82ミリシーベルト(mSv)」、と書かれた記事を読んだよ。ぼくたち日本人が日常生活で受ける被ばく線量は、約2.1mSv(1年間)と言われているから、これより約40倍も大きな量の被ばくを受けていたなんて、本当にびっくりしたよ。

カワさん その記事を読んだ多くの人は、ゲンくんと同じようにびっくりするでしょうね。新聞記事に掲載された線量と日常生活で受ける線量が、同じ単位(mSv)が使われていたら、単純に割り算をして影響が大きいとか小さいとか言ってしまいますよね。でも実際はそれほど単純ではないのです。新聞に書かれていた被ばく線量は、甲状腺という(放射線に敏感で大事だけれど)小さな1つの臓器のみへの被ばくの影響を表しています。それに対して、日常生活で受ける被ばく線量は、全身への被ばくに関わる量ですから、話が全然ちがうのです。

ゲンくん どういうこと?

カワさん それは、臓器によって放射線の影響を受ける程度が違うということです。この違いを考慮して、国際放射線防護委員会(ICRP)が、「甲状腺等価線量」を「実効線量」に換算するための係数(組織加重係数といいます)を勧告したのです。この係数はもともと「がんによる死亡リスク」を表すものだったのですが、今は「損害の大きさ」を表すものとなっています。基本的には死亡リスクですが、甲状腺がんのようにめったに死なないがんでも「生活の質」が下がるので、そういう場合でも「損害」を考慮しておこうというのです。

ゲンくん そうすると、新聞に載っていた甲状腺等価線量で82mSvは、実効線量ではどのような数値になるの。

カワさん 繰り返しになりますが、実効線量は、甲状腺等価線量にICRPが勧告した「組織加重係数」をかけることによって換算(厳密に言いますと、実効線量は、生殖腺や肺など他の臓器についても同じように等価線量を求めて、その後に足し合わせたものと定義されるのですが、放射性ヨウ素は甲状腺に溜まる性質があるので、他の臓器の影響は無視)できます。ICRPの最新の勧告(2007年)によれば、甲状腺に対する組織加重係数は、0.04となっています。そうすると、甲状腺等価線量で82mSvという数値は、実効線量で3.28(=82×0.04)mSvという数値に書き換えることができるのです。

(原産協会・政策推進部)


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