食品照射処理、ベトナムで急激な伸び 民間主体で事業拡大 成長分野 施設整備も急ピッチ

高成長の続くアジアにおいて、特にベトナムでは最近、食品安全の観点から放射線を照射して殺菌や殺虫をする、食品照射が産業として急成長をみせている。輸出用の冷凍魚介類やフルーツが2005年に1万トン強だったが、2011年には7万トン超に達するなど、民間を中心にめざましい伸びを続けている。

そもそも中国、インド、インドネシアなどアジア諸国での食品照射は普及しており、処理量は2005年から2010年の5年間に10万トン超の増加、28万5000トンとなっている。

ベトナム原子力機構の原子力技術工業応用センターで、プロジェクトコンサルタントとして技術的な助言等を行っている久米民和氏によると、ベトナムの食品照射は民間が中心になって照射施設を整備し、米国向けの輸出で処理量を伸ばしているのだという。最近ではフルーツについても、ドラゴンフルーツが2010年に850トンだったものが、2011年に2000トンと急伸。民間が事業性を見込んで照射施設を建設し、処理量が年々急ピッチに拡大しているためで、成長性が高い分野といえる。

ベトナムでは1982年に最初の照射装置としてガンマセルがダラット原子力研究所(NRI)に設置されて基礎研究が始まった。その後91年にパイロット試験用の照射施設がハノイ照射センターに設置、本格的な食品照射試験が開始された。99年には実用規模の照射施設がホーチミン市の放射線技術開発センター(VINAGAMMA)に設置され、本格的な食品照射事業が開始。

この施設での事業の成功によって、民間が主体の食品照射用施設の建設が相次ぎ具体化。API社が2005年、2006年と相次ぎコバルト・ガンマ線照射施設を2基設置して冷凍魚介類やドラゴンフルーツなどの商業照射を開始している。

さらにメコンデルタ地域に2010年、TaiSon社、2011年にAPI社が照射施設を建設・操業させている。

このほか、医療用施設として、PET/CT用のサイクルトロンを2009年から3基稼働し、さらにダナンの病院で韓国製のサイクロトロンが設置を進めている途上にある。

食品ばかりでなく医療用の照射施設も整備されつつあるベトナム。その進展度合いはアジア諸国のなかでも特に顕著で、成長産業や福祉向上に放射線の利用技術が大きな役割を果たしていることがうかがえる。

アジア諸国のなかでは、処理量でみれば中国(2010年時点で20万トン)とベトナム(同6万6000トン)が突出しているが、フルーツは近年放射線照射で検疫処理し、米国中心に輸出を開始、あるいは、そのための準備をする国が相次いでいる。たとえばマレーシア(パパイアとランブータンの放射線殺虫)、パキスタン(輸出用マンゴーへの照射)、フィリピン(輸出用マンゴーへの照射)など。今後マーケットとしての発展性が見込まれることから、アジア各国が注目している分野のひとつといえそうだ。

一方で日本は食品に関しては馬鈴薯への照射がおこなわれているのみだ。処理量は2005年から2010年の間でみると、5000トンから8000トンの間で推移しており、他のアジア諸国と対照的だ。

こうした現状を素直にみれば、食品安全のための放射線照射に関して、アジア諸国の積極的な動きのなかで、日本は明らかに例外的な国といってよいだろう。

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「雨期から乾期にかけては1週間に1回は計画停電ですよ」と苦笑する久米氏。

高成長が続くベトナムの電力事情は不安定だが、照射施設などの重要電源は工夫してやりくりする日々という。

電力の安定供給が国の高い成長を支える諸産業の発展には欠かせないだけに、原子力発電を含め、電力インフラの整備が同国にとって最も重要な課題になるのは、至極当然のことといえるだろう。


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