【原子力ワンポイント】日本の放射線・放射能基準 −−福島第一原発事故〈番外編24〉 日本人の年間自然被ばく線量は?

日本における自然の放射線による被ばく線量はこれまで年1.5ミリシーベルト(mSv)と言われてきました。しかし、最近の資料を見ますと、食品からの内部被ばく線量が0.59mSv増え、年2.1mSvに変更されていることがわかります。その変更された理由を探ってみたいと思います。

ゲンくん 僕はこれまで、放射線医学総合研究所が福島第一原子力発電所事故直後の2011年4月に作成した「放射線被ばくの早見図」を見て、日本人は自然放射線から毎年、「約1.5 mSv」被ばくしていると思っていたんだ。でも、早見図の最新版(2013年5月)では、「約2.1mSv」と変更されているよね。どういうこと?

カワさん ゲンくんは、自然放射線の起源が主に、(1)宇宙線、(2)大地放射性物質、(3)気中に浮遊する天然の放射性物質(主にラドンなど)、(4)食品中に含まれる放射性物質(主にポロニウム210(Po210)など)にあることを知っていますか。(1)と(2)の放射線は、体の外側から人々を照射して「外部被ばく」を、(3)と(4)の放射線は体の内側から人々を照射して「内部被ばく」を生じます。日本人の自然放射線による年間の被ばく線量は、これら4つの影響を足し合わせたもので、「原子力安全研究協会編:生活環境放射線(国民線量の算定)」(下表参照)によってその時々の数値が公表されてきました。1.5 mSvという数値は、今から約20年前の「1992年版」に載っていたものです。その後、人々の生活状況が変化し、国民線量の見直しが必要になり、詳細な調査が進められ、2011年12月に「新版 生活環境放射線(国民線量の算定)」が刊行(2012年11月に一部修正)されました。2.1 mSvという数値はこの新しい公表値です。新旧の公表値を比べると、特に食品中放射性物質からの線量が増えたことがわかります。この食品からの被ばく線量の変動が主な理由だったのです。

ゲンくん どうして食品からの影響がそんなに増えたの?原発事故で食品が汚染されたのではないの?

カワさん 国民線量の算定に関する新版が刊行された時期を考えると、ゲンくんのように「福島事故の影響」が原因と思う人が少なくないでしょうね。でも本当は、(1)食品影響の調査が、事故の起こる6年も前の2005年に日本分析センターによって行われていたこと、(2)食品からの放射線の大部分が、天然に存在する「Po210」による(その年間の被ばく量は0.8mSv)ことが知られており、原発事故とは全く関係がないのです。それでは何故でしょう。実はその主な原因は、Po210が放出する放射線が、実は透過力の小さな「アルファ線」だったからです。もう少し具体的に言いますと、2005年の報告では、「臓器の外から放射線測定して体内のPo210濃度を求め、被ばく線量を計算」していたため、十分な検出感度が得られませんでした。一方、新しい報告では、「食品に含まれるPo210の濃度を直接測定」して被ばく線量を計算したので、高い検出感度が得られました。この測定法の違いが新旧の被ばく線量に大きな変化を生じたのです。Po210からの被ばくは年0.8mSvと見直されましたが、これは世界でも高い値です。Po210が魚介類に多く含まれているためで、日本人の「魚好き」が自然な内部被ばくを高めているというわけです。

自然放射線の情報は人の放射線影響を考える上で基本となる量の1つであり、内容の正確な理解がまずなされるべきことと思います。

原産協会・人材育成部


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