[インタビュー] 田中 伸男 氏 前IEA事務局長 日本エネルギー経済研究所特別顧問 「多く場数を踏むこと」 豊富な経験踏まえ 後進育成に熱意


「夢を心に目を外に」

大学生のとき、アイセック(AIESEC)という大学生が運営する国際機関の委員長をつとめ、海外企業への研修生の派遣・受入れに携わった。国内外に多くの友人を得て、貴重な経験をしたことが国際舞台で活躍する出発点になった。

それだけに、最近の日本の若い世代が心配だ。

「若い人たちはあまり外国に行きたがらないとか内向きと、海外の友人からよく言われるが、日本は資源が少ないし、少子高齢化も進む。日本が国際的に尊敬を得て存在感をもち続けるには、外に出ていくしかない」。

資源もエネルギーも海外に依存する日本にとって、良好な国際関係をとりもつ人材こそ資源。それだけに、後進に自らの経験を伝え、国際的に活躍できる人材を育てようとする熱意は人一倍だ。

「若い世代にできるだけ機会を与え、トレーニングすることが大事だ。言葉のハンディだけではない。学識や経験などいろいろなことを手助けしていく必要がある」。

国際機関への道筋には、博士課程を取得するなど資格要件のハードルもあり、「能力のある人材なのに、入口で苦労する」現状を変えねばならないとも話す。またEUのように各国が協調し、政策を立案する必要のあるところでは、必然的に若手人材が鍛えられるという地域事情の違いもある。

「油断」は大敵

それにしても原油の大半を依存する中東情勢は予断を許さない。

「中東をめぐる問題は非常に深刻で、アラブの春といいながら不安定な状態が続いている。サウジなどの一部産油国の安定も楽観してばかりはいられない。石油については多層化する努力は従来よりはるかに重要になってきている」と強調する。

情勢をみれば、「米国発のシェールガス革命は同国の産業競争力を高め日本にも福音になろう。中国もシェールガス開発の可能性が指摘されており、さらに原子力、再生可能エネルギーの開発に余念がない。欧州では天然ガスを北アフリカから入れるなど供給多様化をはかり「油断なく」資源確保をはかっている」状況だ。

それだけに「日本もできるだけ安定的なエネルギー源を確保する必要がある。多様化だけでは足りない。準国産エネルギーである原子力、また風力や太陽光をできるだけ安定的に、合理的な価格で手に入れることが大切だ」。

直近も、日本のエネルギー安全保障をめぐる不穏なニュースは絶えない。「シリア問題も、米ロ中心に化学兵器の国際管理を進めているが、米国は軍事行動を排除しておらず、楽観できない。イランとイスラエルの関係も目が離せない」現状にある。

「ホルムズ海峡を経由して原油の大半が、一部天然ガスが、日本に運ばれている現実がある。それが万一途絶するという最悪のシナリオも想定しておくべき」とする。「油断」がそのまま日本の経済危機に直結するからだ。

「福島第一原子力発電所の事故については、その原因をきちんと反省し、国民の理解を得ることが大前提だが、安全を確認した原子力発電所は速やかに再稼働することが必要だ。政治判断を遅らせている余裕は今の日本にはない」と、万一の”油断”への備えを強調する。

存在感のある顔に

顔のない外交などと揶揄されることもある日本だが、「国際的な場で、相手にわかるように発言できないと存在を認められないし、主張は伝わらない。どうすればいいかといえば、それは場数を踏むことだ」と話す。

「存在感を発揮して意見を伝えるには場数を踏むことしかない。クラブのメンバーとして顔が知られるようになることが第一だ」とは、長年の経験からくる言葉だ。

「日本人には能力があるのに場数が足りない。どんどん外に出ていって発言する経験を積むこと」が不可欠。その後押しになればと、自らの経験を本にまとめ、大学で教える。「夢を心に目を外に」の初心のまま、今後も多忙な毎日が続きそうだ。

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「あなたは日本人ではない」と、よく外国の友人から言われるという。それは日本を客観的に見ることができる、という意味だと解し「あっちこっちで思い切ったことを言ってますよ」と笑う。

海外の友人と付き合うことで深まる経験、何より人生を面白くする。

そんな原点を伝えたいと考えて1冊の本にまとめたのが、近刊「『油断』への警鐘」(エネルギーフォーラム刊)だ。


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