[インタビュー] 秋津 裕氏 元幼稚園主任教諭 子どもたちを信頼して 放射線の理解促進 正しく伝える環境を

日常生活のなかで身近にある放射線のことを知るということは大人にとっても子どもにとっても大切なことだが、子どもと同じ目線でどう伝えるか、となるとなかなか難しい問題だ。元幼稚園主任教諭の経験から出前授業などを通じ、この問題に取り組む秋津裕さんにお話しをうかがった。

社会のなかで、子どもは必ず一人立ちしていく一個の人間、その準備として生活に必要なことは伝える。放射線もそのひとつと考える。出前授業や、放射線に初めて出会うきっかけとして幼児向け放射線学習絵本「はじめまして ほうしゃせん」製作に携わるなど、子どもの好奇心に応え学ぶ力を信じて、向き合い続けている。

先日、福島県白河市の小学校で1、2年生を対象に専門家による放射線の授業が行われた。この授業を参観したあとに小学校や幼稚園の先生方との会合に参加し率直な質問や悩みを聞き、自身の経験を分かち合った。

「事故から2年半もたつと、白河市では放射線のことがほとんど話題にならなくなったとのことでした。とはいえ、子どもたちが水遊びの時、素足で泥の中に入っても大丈夫なのか、ちょっと傷があった時はどうなのだろう?と担任教諭としては放射能のことが頭をよぎることがあるとおっしゃっていました。その様なときにはこう判断するという指針があるわけでもなく、その都度専門家にアドバイスを頂くタイミングも掴めずにきた、と胸に秘めたお話しを聞きました。校長先生もこの様な懇談の場があったからこそ初めて先生方の心のうちを知ることができたとおっしゃっていました」。

日常生活のなかで、頭をよぎる放射線、放射能のこと。今でも「小さい棘のように皆様の心にささっていると感じられました」と話す。

白河市の汚染は比較的少なかったが、原発事故の後1年くらいは風評被害の影響があり、食べ物のこと、外出のことなど日常生活での汚染に対する悩みは一様であったという。

その様な状況のなかで白河市と徳島大学が震災復興に向けた連携・協力の協定を結んだのが昨年の5月だった。以降、住民の不安を軽減するための放射線講習会などが開かれている。子どもたちを対象にした放射線教育もその一環として実施され、徳島大学の復興支援チームによる授業や、カリキュラム・教材についての話し合いなどが重ねられてきた。日頃の不安に対して専門家が相談に応じる取組みは効果を上げている。

「徳島大学の先生の教え方がとてもかわいらしくて、子どもたちの様子を見ながら、しっかりと心をつかみ授業を進めていらしたので、子どもたちは最後までよく聞いていました。特に2年生の児童の姿に大変感心させられました。授業中にノートを広げてメモをとっていたのです。後で見せてもらったら、『昔から放射線は身の回りにある、洗い流せば落ちる、外から帰ったら手洗いをしよう』と箇条書きにまとめられていました。講師が伝えたかったことがしっかりと記録されているのです」。

教える側が、実は多くのことを子どもたちから教えられる。「子どもたちは大人が想像する以上に色々なことを見聞きし感じているし、多くのことを吸収しています。そして、大人の期待に応えようと一生懸命です。だからこそ放射線の姿を正しく伝える環境を整える必要がある」という。

「放射線には様々なアプローチの方法があります。たとえば家庭科がご専門の先生が食の側面から放射線授業を作っていらっしゃいました。先生ご自身が導入しやすいところから授業を始めることでいいと思います。子ども達に放射線を正しく伝えたい思いさえあればいくらでも教材はあると感じました」とも。専門家の助けを借りながら、教師が工夫して放射線教育に取り組むことの意味は大きいと実感した。

ただ福島県下でも自治体の姿勢などに温度差があるのが現実、全国レベルとなればまだまだ取り組むべき問題が多い。「原子力を保有する国としてひとりひとりの放射線リテラシーを向上させることは大切。とくに世の中のムーブメントを生み出す首都圏にはしっかりと勉強してほしい」と指摘する。


お問い合わせは、政策・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで