【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(17) 放射線診断技術で医学分野に貢献

レントゲン博士による放射線(X線)の発見から百十余年が経過しました。その後、多くの研究者により放射線の特性が明らかにされ、今や医学分野における「診断」と「治療」に不可欠なものとなっています。今回は先ず放射線を利用する「診断技術」について紹介します。

ゆりちゃん 放射線を利用する診断技術にはどんなものがあるのですか?

タクさん それは2つに大別できます。1つはX線診断です。ゆりちゃんはレントゲン写真を撮ったことがあるでしょう。身体の外からX線をあてて写真を撮って胸や骨の異常を検査するのです。このX線診断に革命をもたらしたのが英国のハンスフィールドです。1972年に、人体を輪切り状にスライスした状態で観察する「画像処理診断技術」を発明し、X線CT(X線コンピューター断層撮影)と呼ばれる革新的なX線診断の礎を築いたのです。もう1つは核医学診断と呼ばれるものです。核医学では、体にごく微量の放射線をだす薬「放射性薬剤」を投与し、病気の診断や治療を行います。放射性薬剤は、体内に投与されると、特定の臓器・組織に取り込まれ、そこで放射線を出すので、それを身体の外に設置された放射線測定器で検出して疾患を調べることができるのです。がん診断に人気のPET(陽電子放出断層撮影)も核医学による診断技術の1つです。

ゆりちゃん PET診断についてもう少し詳しく教えてくれませんか。

タクさん PET診断はがんを検査する方法の1つです。がん細胞が、正常細胞に比べて3〜8倍のブドウ糖を取り込む、という性質を利用しています。診断では、放射性物質(フッ素‐18など)を組込んだブドウ糖に近いFDG(フルオロデオキシグルコース)を体内に注射し、しばらくしてから全身をPETで撮影します。するとブドウ糖(FDG)が多く集まるところがわかり、がんを発見する手がかりとなります。X線CTは体の外から放射線を当てるのに対してPETは、逆に、体の内側から外側に向かって放射線を出すのです。PET診断は、レントゲン検査やCT診断よりも小さながんを発見でき、早期の治療に有効と言われています。しかしPETも万能ではありません。胃や食道などの消化器官粘膜に発生するごく早期のがんや、ごく小さながん細胞(数ミリメートル以下)が散らばって存在するなど、発見の困難な場合があることを知っておかねばなりません。

ゆりちゃん がん以外の病気にもPET診断は利用されているのですか?

タクさん 今年の9月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発」で、アルツハイマー病等の患者の脳の病態を解明し、的確な治療につなげる「次世代PET診断システム」の開発に成功したというプレスリリースがありました。高齢化社会の到来に伴い、認知症、アルツハイマー病、躁うつ病等の精神疾患の増加は大きな問題となっています。PET診断のさらなる貢献が期待されています。

原産協会・人材育成部


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