原子力は対温暖化の一要素 米エネ省・モニッツ長官が講演

米エネルギー省(DOE)のE.モニッツ長官(=写真)がアジア太平洋諸国歴訪の一環として日本を訪れ、福島第一原発の視察に先立つ10月31日に都内で「エネルギー安全保障と政策=日米協力の将来」と題する講演を行った。

笹川平和財団の主催によるもので、150名の観衆を前に同長官は、気候変動対策の一構成要素と位置付けた原子力を信頼できるクリーンなベースロード電源として確保していく必要性を強調。福島での廃炉と除染に対する支援も含め、日本と同じ太平洋国家である米国がエネルギー・環境・セキュリティの分野で特に日本との協力を深め、一層良い将来を作り上げていきたいとの抱負を述べた。

モニッツ長官はまず、気候変動はすでに現段階で深刻な影響をもたらしている問題であり、環境上の影響のみならず国家安全保障上の脅威と見なされると指摘した。これに対する米国の取り組みとしてオバマ大統領が6月に公表した「気候変動行動計画」に言及し、同計画の3本柱である(1)温室効果ガスの排出抑制を通じて、その影響を「緩和」(2)その影響に「適応」したエネルギー・インフラの整備(3)「国際協力」により共同歩調で解決を図る――について説明した。その上で、低炭素経済への移行で重要なすべての分野――石炭、ガス、原子力、再生可能エネルギー、エネルギー効率化において技術開発の方向性を示すと共に、それらの燃料源が低炭素市場で競争力を発揮できるよう、積極的に努力していくとの考えを示した。

日本政府の取り組み姿勢を評価

現在、米国では原子力が低炭素電源による発電電力の6割を供給。受動的安全性を備えた第3世代の設計も含めて5基の計画に建設許可が発給されおり、その中のボーグル計画にはDOEが80億ドル相当の融資保証を適用していると説明した。

一方、日本の原子力情勢に関しては、福一事故直後に提供した即時的な支援に加え、今後は廃炉・除染という部分でも東電と日本政府に専門家の派遣などの支援を継続していくと表明。その関連で日米両政府が昨年、民生用原子力協力に関する二国間委員会を起ち上げた事に触れ、日本政府が福島第一の除染問題解決に直接関与していくと決定したことを歓迎。汚染水処理について世界に支援を求めるという日本の姿勢を評価すると述べた。

また、1979年にTMI事故を経験した米国では、その教訓を全体的な規制のアプローチの中に統合していくことを学んだと述べ、優先行動の順位付けや再稼働の検討といった経験を経て、原子力に対する世論の信頼が高まるという道が日本でも見られることを確信していると明言した。

核不拡散に関して長官は、プルトニウムの分離と消費のバランスを取ることが重要だとし、日本は核拡散防止における世界のリーダーとして、その原則に準拠する取り組みを見せてきたと賞賛。今後は日本が原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)を締結するよう要請しており、それにより福島への支援も容易になるとの見通しを示している。

操業コストでLNGに勝る原子力

質疑応答では、シェールガス革命など資源の豊かな米国であっても将来型の原子力技術開発でリーダー的役割を果たすべきではないかとの質問があった。モニッツ長官はこれに対し、石炭火力をLNGで代替したことにより、米国では20年の炭素排出量を05年実績比で17%削減するという目標の2分の1を実現したと指摘。その上で、原子力も含めた低炭素技術のミックス構築は重要であるとし、将来性のある小型モジュール炉(SMR)の設計認証を5億ドルの支援プログラムで積極的に進めていると強調した。

大型原子炉の建設ファイナンスに対する疑念に対しては、「経済性の重要な部分というのは資本コストだけではなく、操業コストがどの程度であるかだ」と断言。確かに既存原発のkWh当たりのコストはLNGの6倍近くと割高だが、原発は常時発電・配電できる。一方、LNGには燃料価格が変動するというリスクがあり、効率性の高いLNGプラントでも平均41%しか操業できなかったとの試算を紹介した。

大型炉の10分の1規模というSMRの場合はさらに、リスクマネーを10億ドル程度に抑えることが可能。電源の多様化を図るという点で良い投資であり、技術、経済性、スケジュールを考えた時にそれなりの存在価値はあるとの考えを示している。


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