人類の繁栄に対する貢献を確かにするために新たな決意を 原子力委員会委員長 近藤 駿介

60年前、アイゼンハワー米国大統領は国連総会で概略次のように演説した。

「核兵器はもはや米国だけが有するものではない。現在は数カ国しか有していないその知見もいずれ多くの国が有することになろう。その結果、勿論米国は圧倒的な反撃能力を維持するが、不意討ちによる物的・人的損害の発生を完全に防止できるとはいえない。米国が攻撃国を焦土化できることに疑いをもつべきではないが、それは米国の意図や希望の正しい表現ではない。そこに止まっていては、震える世界を挟んで核兵器国が睨み合いを続けるという絶望的終末像や、人類が文明を破滅させ、再び立ち直りを図るという歴史を繰り返すことになる確率を受け入れることになる。

米国は、そうではなくて、どの国の人々も自らの生き方を選択できる自由を大事にする建設者でありたい。だから、多くの国々が望んでいる平和と繁栄の実現のためにできることはなんでも挑戦したい。実際、米国は欧州やアジアで既にそのような取組を行なってきている。

米国は、本総会の軍縮委員会に対する最近の要請に応え、世界の生存に影を投げかけている核兵器開発競争に関し、受け入れ可能な解決をめざす主要国との対話を直ちに始めたい。しかし、米国は、核兵器を兵士の手から取り上げるだけでは十分ではなく、その核燃料物質を平和の技術に応用できる人々に渡したいと思っている。巨大な破壊力を有する原子力を世界の科学技術者の創造力に委ねれば、人類の福祉の向上に大きく寄与できる成果が生まれると知っているからだ。

そこで私は、新たな国際機関(IAEAと仮称)を創設し、そこに主要国が核燃料物質を継続的に拠出することを提案したい。IAEAには、これを誤用されることの無いように管理しつつ志のある科学者、技術者に提供し、原子炉を通じて農業や医療等における平和的利用が効果的に推進されるようにしてほしい。特に注目するべきは、原子力発電により電力不足の地域に電力を供給することである。原子力をして、人類の恐怖にではなく、ニーズに応えることに貢献させるのである」。

当時主要国は核兵器開発に注力していたから、国連の軍縮委員会はなんら成果を生まず、核保有国は増大していった。しかし、IAEAの設立や平和利用のために知識や資源を世界に提供する提言は国連の進めるところとなり、翌年7月に第1回ジュネーブ会議が開催されて原子力情報が公開され、57年にはIAEAが発足し、各国で研究用原子炉が設置され、放射線利用や原子力発電の準備が進められていった。

60年後のいま、核兵器の偶発的使用はなお人類が直面している終末論的未来であるが、人類はもうひとつ、温室効果ガスの大気中濃度の上昇による気候変動の激化という終末論的未来を抱えている。前者に関しては、次のNPT検討会議において、保有国がその廃絶を目指しての段階的削減に強くコミットするよう働きかけるべきであり、後者に関しては、安全かつ経済的なエネルギー供給を安定的に確保しつつ、人間活動に伴う温室効果ガス排出量を大幅に削減してその大気中濃度の上昇を抑制する時間との戦いに、各国が科学技術を総動員して参加するべきである。

世界では、声高に倫理を口にし、人の健康や環境に重大な影響を及ぼす恐れがある技術は規制されるべきと唱える国も含めて、温室効果ガスのみならず健康に有害な廃棄物も大気中に排出する石炭火力をいまなお利用している国が少なくない。その結果、欧州だけでも毎年1万人を超える早期死亡者が発生しているという推定が広く知られているにもかかわらずである。他方、石油危機を契機に研究開発に巨費が投じられてきた再生可能エネルギーが力をつけてきて、発電過程で温室効果ガスを発生しない原子力発電とともに、この戦いに大きく貢献し始めている。

この演説から60年目の今日、原子力発電に携わる人々は、そこにある希望に改めて思いを致し、福島の人々の苦しみを片時も忘れず、事故からの復旧・復興を目指すオフサイト・オンサイトの取組に全力を尽くすとともに、当時は知られていなかった気候変動という人為の重大な脅威を克服する取組の一翼を原子力発電に担わせたいとする諸国において、これが事故からの教訓を活かし、欠点を克服して人類の持続可能な発展に貢献するよう力を尽くすことを改めて決意するべきである。求められて個人的意見を述べた。


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