【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(21) がん発症までには生体防御の4つの砦

前回の本紙「原子力ワンポイント」では人類が、長い進化の過程を経て、「がん」を抑制する何重もの生体防御システムを構築した歴史をまとめてみました。今回は、この防御システムの実際の構成と機能について紹介します。

ゆりちゃん がんが怖い病気なのは常識ですが、そもそもがんとは何ですか。謎だらけです。

タクさん がんとは、体の主要な構成要素である「たんぱく質」の設計図である「遺伝子」が傷ついて、正しく情報が伝わらず、分裂・増殖の制御機能を失った細胞が生み出され、この数がさらに増えることで無限に増殖し、死に至る場合もある怖い病気です。遺伝子が傷つくには多くの原因が知られていますが、その中に放射線も含まれています。人の遺伝子の数は2万〜2万5千個と言われています。しかし、どの遺伝子が傷ついても、がんになるというわけではありません。細胞の増殖を促進する「がん遺伝子」と、逆に細胞の増殖を抑制する「がん抑制遺伝子」と呼ばれる2つのグループが、深く関係しているのです。これらはちょうど車のアクセルとブレーキの関係にあり、遺伝子に傷が付いて異常な細胞に変異し、両者のバランスが崩れたとき、無限に増殖する「がん」という病気になる可能性が出てくるのです。でも、がんが検査で見つかるのは1〜10グラム程度、1億〜10億個のがん細胞になった時です。最初に1つのがんの元になる細胞ができてから、がんが発症するまでには、早くても数年、遅い場合には30年以上の時間が必要です。

ゆりちゃん がんの元になる細胞ができたら、誰でもいつかは、がんになるのですか。

タクさん いいえ、そんなことはありません。生命の進化の過程で構築された「生体防御システム」が有効に働いて、低線量放射線(100ミリシーベルト以下)であれば、心配することはないと考えられています。図1を見てください。放射線には、遺伝子と衝突して直接傷をつける場合(直接作用)と、細胞内の水分子と反応して生じる活性酸素が傷をつける場合(間接作用)があります。生体防御システムの第1段目では、抗酸化物質と呼ばれる物質を使って「活性酸素を除去」します。第2段目は「傷を受けた遺伝子を修復」する仕組みです。遺伝子の傷はここでほとんどが正しく修復されますが、それをすり抜け、増殖を繰り返す細胞が残る可能性があります。この場合の第3段目が、増殖途中の細胞を自殺に追い込む「アポトーシスの仕組み」です。次は第4段目の「免疫」です。免疫は、外部からの異物を処理する仕組みですが、身体の中に生じた変異細胞が少しでも残っていた場合に備えた最後の砦と言えるでしょう。さらに、ルイ・パストゥール医学研究センターの宇野賀津子先生は、「緑黄色野菜や果物をしっかり摂取すると、生体防御システムの機能が高まり、低線量放射線の害をより効果的に克服できる」と説いています。

原産協会・人材育成部


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