サメの歯 原子構造可視化 東北大学 歯質強化への応用期待

東北大学原子分子材料科学高等研究機構は1月29日、東京医科歯科大学らと共同で、最先端の超高分解能走査透過型電子顕微鏡を用いて、生体材料として最高硬度を持つサメの歯の最表面に存在するエナメル質の原子構造を、世界に先駆けて可視化することに成功したと発表した。また、これに基づいて、スーパーコンピューターによる計算を行い、エナメル質内部に入り込んだフッ素が、強固な化学結合を形成することで、虫歯になりにくい構造が自己形成されていることを発見した。本成果は、人体の歯の研究にも応用し、歯質強化や虫歯予防に活かすことが期待できる。

歯磨きのCMでも知られるように、サメは、生物の中で最も健康的な歯を持っているといわれており、特に、歯の最表層は、エナメル質という生体材料の中で最も硬度の高い部分があり、小柱状のフッ化アパタイトの結晶が規則的に配列して、多結晶体を形成して存在している。歯学では、エナメル質内に存在するフッ素が歯質を強化し、脱灰(カルシウムが溶け出すこと)を阻止することで、虫歯予防に効果があるといわれているが、フッ素の役割は、経験則による理解にとどまっており、原子スケールでの直接的な挙動は解明されていなかった。

今回、東北大学他による研究グループでは、元素識別可能な球面収差補正器搭載走査透過型電子顕微鏡を用いて、サメの歯の最表面層であるエナメル質フッ化アパタイト結晶の原子構造解析を試みたところ、表面層の薄いエナメル質の領域にフッ素が局在し、表面層領域に極めて高密度で存在していることが判明した。このエナメル質の内部では、長さ数ミクロンサイズの柱状構造の結晶を持って、それぞれの長軸方向が平行になるように配列し、多くの結晶が集合した多結晶体を形成していることがわかり、また、最先端の電子顕微鏡の利点と裏腹に生じる収束電子ビームによる試料損傷の問題も克服し、このほど世界に先駆けて可視化することに成功した。

さらに、ここで得られた構造から、原子構造モデルを構築し、その化学結合状態の様子をスーパーコンピューターによる理論計算で解析した結果、カルシウム原子を形成する六角形の中心にフッ素原子が存在することで、フッ素が共有結合的な強固な化学結合を形成していることが明らかとなった。この共有結合の形成により、サメの歯が機械的強度を強固にしているだけでなく、脱灰を阻止し、虫歯を予防しているというメカニズムを導いた。


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