【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(24) 次の強い刺激に備える力「適応応答」

STAP細胞発見者の小保方晴子理化学研究所ユニットリーダーが「私たちの細胞もストレスがかかると何とかして生き延びようとするメカニズムが働くのでは」と語っています。少量の放射線は、次に来る多量の放射線に備え抵抗力を高める「適応応答」という働きをします。

ゆりちゃん 放射線の「適応応答」って何ですか。

タクさん 今から15年程前ですが、生島隆司博士(当時京都教育大学教授)が染色体をヒト(人)にみなして面白い説明をしていました。すなわち、「染色体のA君とB君は大の仲良しだ。ある時、A君は少量の放射線を浴びて、足に軽い怪我(DNAに軽度な損傷)をした。A君は仕方がないので好きなゴルフを止めて、沢山の本を読んでいた。その間、B君はゴルフばかりしていた。しばらくして、今度は2人とも、多量の放射線を浴びてしまった。B君は、足の骨が折れてしまい(DNAを切断)、好きなゴルフもできずに、泣いてばかりいた。A君もB君のように足の骨が折れてしまったが、あっという間に治ってしまった。A君は益々元気に暮らしている」、というのです。あらかじめ弱い放射線(刺激)を受けておくと、その後に受ける強い刺激に対して「抵抗する力」が生まれることを「放射線適応応答」と言います。適応応答を示すものとしては、放射線以外でも「におい」、「熱」、「味覚」、などがよく知られています。

ゆりちゃん 実際に動物実験でも「放射線適応応答」は確かめられているのですか。

タクさん 放射線適応応答の現象は、1982年、当時カリフォルニア大学の教授であったウォルフ博士が、人のリンパ球を使って見出しました。でも人々は、細胞ではなく、動物でも起こるのかどうか知りたくなりました。これに応えたのが米澤司郎博士(元大阪府立大学教授)です。生まれてから6週間経ったマウス(一群は約60匹)に対して、一方は少量のX線(50ミリシーベルト)を事前に全身、胴体(体幹部)および頭部の3箇所に分けて照射した群(照射群)、他方は事前照射しない群(対照群)に分け、2か月後に8000ミリシーベルトの多量の放射線をそれぞれに再照射し、その後の生存率を観察しました。実験結果の一例を図1に示します。健常なマウスの全身に8000ミリシーベルトの放射線を照射すると30日後には約70%が死亡します。しかし、事前に少量の放射線を全身に当てておくと生存率は有意に増えます。この実験結果は「放射線の影響はどんなに少量でも悪い」とする一般的な考え方をもう一度見直すきっかけを与えているのではないでしょうか。

原産協会・人材育成部


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