「3月11日」から3年を経て 日本原子力産業協会 理事長 服部拓也

東京電力福島第一原子力発電所の事故から、3年が経過しました。今なお14万人近くの方々が不自由な避難生活を余儀なくされていることに、あらためて心からお見舞いを申し上げます。

この1年では、「帰還に向けた避難指示区域の見直し」、「福島第一原子力発電所に係る廃止措置への国の関与」など、国が前面に立ち、諸課題に向けた対応を進めている姿勢は、評価できると思います。しかしながら、被災者の方々の視点に立ちますと、課題は山積されており、中でも、被災地域の復旧・復興の進展と事故の処理・安定化は、重要な課題となっています。復旧・復興がさらに進んでいくには、放射線による健康影響に関する不安の解消が不可欠であり、加えて廃止措置を円滑かつ着実に進捗させることが求められます。

当協会としてもこれまでの活動を踏まえながら、以下の活動に全力を挙げてまいります。

○帰還に向けた放射線に対する理解活動

復興庁を始めとする関係府省庁は、「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」をこの2月に取り纏めました。

この取組が、除染、中間貯蔵施設の建設、帰還、並びに風評被害の防止など被災地の復旧・復興に向けた課題の解決の礎になることから、関係府省庁や市町村等が、リスクコミュニケーションを通じ、福島県民を始め、広く国民に放射線による健康影響等に関する知見や考え方を分かり易く発信することが不可欠です。

当協会では、被災地域の方々の放射線勉強会の活動を支援する一方、川内村の取組も紹介しながら、チェルノブイリ事故で被災したウクライナ、ベラルーシでの事例を参考にした住民主体の放射線理解活動の普及と広報を進めてきました。この取組は、今回の国の施策にも同様の趣旨のものが含まれており、被災された住民の方々の目線に立ったきめ細かい施策の具体化・実践を期待したいと思います。当協会においても、地域に寄り添い、地元自治体の方々、被災された住民の方々との対話と交流を積み重ねながら、今後も活動を継続してまいります。

○廃止措置に係る課題解決に向けた取組

福島第一原子力発電所内では、4号機使用済燃料プールからの燃料搬出が昨年の11月から開始され、廃炉に向けたロードマップの第2ステップに進み、作業に一定の進捗が見られます。その一方で、汚染水問題は現場の懸命な取組にもかかわらず、トラブルが相次ぎ、改善の兆しが見えない状況が続いています。

40年もの長期に亘る廃炉作業が、日々安全に管理された環境で進められることが被災された地域の方々の帰還、復興の条件であることに間違いありません。従って、汚染水が適切に管理された状態を作り出すことが喫緊の課題です。

汚染水問題は、当面はタンクの監視強化・漏えい対策が不可欠ですが、貯蔵タンクを増やし続けることが根本的な汚染水対策ではないことは明らかです。国、原子力規制委員会は、多核種除去設備で放射性物質を除去した処理水の扱いについて議論を進め、漁業関係者を始めとする福島県民や国民への丁寧な説明と国際社会への情報発信に努めなければなりません。このことにより1日も早く、海洋放出による拡散希釈への道筋を示すことが必要です。

世界でも初めての極めて技術的に困難な廃止措置を円滑に進めるためには、国が前面に立ってオールジャパンでこれに取り組む新たな体制として、このほど設置が決定された「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が、国内のみならず世界の叡智と経験を結集して取り組む必要があります。また、本年4月から東京電力では新しい体制で廃止措置に取り組むとしていますが、同機構との協調・連携が廃止措置を着実に進めるための鍵となります。そして日々変化し、錯綜する現場状況を適切に把握し、現場のニーズを踏まえた廃炉関連技術の研究開発を進めながら、潜在的なリスクを管理して、安全に作業を進める体制作りが求められます。その際、現場優先の考え方を関係者間で共有し、徹底させることが重要で、総力を挙げて現場を支援する体制が整って初めて、廃止措置の円滑な進捗が期待できることを認識すべきです。

福島の再生と復興が進むまで、事故を決して風化させることがないよう、被災者の方々の視点に立って、現場作業の進捗状況を適切に情報発信し、地域住民の方々を始め、国民の皆様、国際社会の安心へと繋がねばなりません。

当協会では、長年培った海外諸国や国内機関との協力のもと、様々な機会を活用して、これからも活きた情報をわかり易く国内外に発信してまいります。


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