【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(25) わずかずつ長期間被ばくなら影響現れず

同じ量の放射線を浴びても、短時間で一挙に被ばくした場合と、長い時間をかけてわずかずつ受けた場合とでは、影響に違いのあることが分かってきました。放射線の影響評価には「線量」よりも「線量率」の重要性を指摘する声が高まっています。

ゆりちゃん 線量率の重要性って良く分かりません。例を示して教えてください。

タクさん 世界には日本よりも数倍〜数十倍、自然放射線レベルが高くて多くの人が住む地域があります。このような場所を「高自然放射線地域」と呼んでいます。代表的な地域の1つとしてインド南西端ケララ州のアラビア海に面した海岸地帯があり、約40万人が暮らしています。1990年に入ってから、当時トリバンドラム地域がんセンターの所長であったMK Nair博士の指導の下で住民の健康調査が進められ、それは現在も続いています。Nair博士等は2009年までのデータを解析してその結果を米国「ヘルス・フィジックス」誌に発表しました。その中で、「最も多く被ばくした人々の線量は、生まれてからこれまでの累積で600ミリSvを超えていましたが明確な発がんリスクの増加は確認されませんでした」と述べ、放射線防護の専門家を驚かせました。一方、短時間で被ばくした広島・長崎の健康調査では、同じ線量(600ミリSv)を超えて被ばくした人々に、明確なリスク上昇が確認されています。同じ量の放射線を浴びても、何十年と言う長い時間をかけてじわじわ被ばくした場合には影響が現れないのです。

ゆりちゃん 「線量」と「線量率」で放射線影響を予測できるのですか。

タクさん 電力中央研究所が月刊エネルギー(2006年)で「放射線影響の線量・線量率マップ(=図1)」を紹介しています。さまざまな研究機関の研究成果をもとに、線量(縦軸)と線量率(横軸)の関係について整理しています。この図から言えることは、放射線の影響には、(1)障害が明瞭に見られる領域、(2)照射によって何も影響が見られない領域、(3)免疫力などの生体の防御機能を刺激して生理的に有益と思われる効果を生じる領域――の3つの領域がありそうだということです。同図上で、インド南西部ケララ州で注目された線量(600ミリSv)の位置を横軸に沿って目で追っていきますと、線量率が「10ミリSv/時」を超えた辺りから有害な領域に入ることが分かります。一方、自然放射線に相当する線量率の領域であれば「線量」がいくら増えていっても有害な領域は現れません。このことからも放射線の影響は「線量率」によって決められそうだということが分かります。放射線影響は、従来、線量で評価されてきました。そして、放射線はわずかでも生体に悪い影響を及ぼすと考えられてきましたが、「線量」よりも「線量率」の重要性を指摘する声が高まっています。

原産協会・人材育成部


お問い合わせは、政策・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで