国連科学委、福島第一原発事故影響で報告書 一般市民への健康影響予想せず

原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は2日、「東日本大震災後の原子力発電所事故による放射線被ばくのレベルと影響」と題する報告書を公表し、一般市民の線量は概して低いか、非常に低く、認識できるレベルで健康への影響が増えるとは予想できないとの評価結果を明らかにした。また、子供は大人と比べ、概して甲状腺がんにかかるリスクが高まったと推測されるものの、甲状腺に100mGyの線量を受けた可能性のある幼児の人数が不明確であることから、標準値を超える罹患数の増加はモデル計算で見積もるしかないとの考えを示している。

この調査は2011年9月の国連事務総長による加盟国への呼びかけを受け、同年12月の国連総会決議でUNSCEARが行うことが承認された。加盟18か国から80名以上の専門家が参加し、日本政府に依頼したデータセットや加盟国による計測評価データ、CTBTO(包括的核実験禁止条約機関)や国際原子力機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)などのデータセットを活用して分析評価を実施。対象物質はヨウ素131とセシウム137に絞る一方、被ばくした人のカテゴリーは一般大衆のほかに福島第一原発での作業従事者、現地内外で救急活動に当たった人員に分類した。

事故直後、日本政府の避難勧告により、被ばくは本来受けるはずだったレベルの10分の1まで大幅に低減されたと同報告書は指摘。また、UNSCEARの審査情報に基づいて、大気中に放出されたヨウ素131とセシウム137の量はそれぞれ、100〜500P(ペタ)ベクレルと6〜20Pベクレルと見られ、チェルノブイリ事故の際と比べ、それぞれ10分の1と5分の1の低さだったとしている。

被ばく線量の影響

こうした被ばくによる健康影響について、UNSCEARはまず、事故による放射線を浴びた一般大衆や作業員の中に放射線に起因する死亡者や急性疾患発病の例がなかったと強調。その上で、一般市民が受けた線量は最初の1年間および一生涯の見積量でも概して低い、あるいは非常に低く、被ばくした一般市民とその子孫達に放射線による健康影響が認識できるレベルで増加発生することは予想できないとした。

最も重要な健康影響は、彼らのメンタル面および事故後の社会福祉面におけるもので、地震と津波、および原発事故による多大な影響、電離放射線の被ばくリスクを負ったことへの恐怖に関連すると説明した。

具体的な数値は、福島県在住の大人が最初の1年に受けた線量は平均で4mSv、同県に生涯住み続けても平均実効線量は10mSv程度かそれ以下だと推定され、現時点では放射線に起因する認識可能ながんの発生増加は予想出来ないとしている。

一方、2012年10月末までに福島第一原発サイトでは2万5000人の作業員が事故影響の緩和活動等に従事。記録によると事故後最初の19か月間にこれらの人々が受けた平均実効線量は約12mSvだった。このうち約35%の作業員がこの期間に合計10mSv以上を浴びた一方、0.7%の作業員が受けた量は100mSv以上にのぼった。また、最も多量に被ばくした12人の内部被ばくデータを検証したところ、彼らは主にヨウ素131により、甲状腺に2〜12Gyの吸入線量を受けたことが確認されたとしている。

これらの12人については甲状腺がんの発症リスクが高まったほか、100mSv以上の外部被ばくがあった作業員約160人も、将来的にがんにかかるリスクはあると指摘。ただし、このグループでも通常の罹患統計に対する発症件数の差を確認することは難しく、増加を見分けることはできないとの認識を示している。


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