【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(30) 家屋や滞在時間など反映した「場の線量」

原子力規制委員会は、「帰還後の住民の被ばく線量の評価は、胸につけた個人線量計で測定された被ばく線量(個人線量と定義する)を用いるべし」と述べていますが、「個人線量計は低い数値が出やすい」と反対する人がいます。

ゆりちゃん 「数値が低く出やすい個人線量計」って本当ですか。

タクさん 毎日新聞(2013年9月5日)に、「原子力規制委員会は先月28日、避難者の帰還を促すための検討チームを設置。空間線量の推計値に比べ、数値が低く出やすい個人線量計のデータを集めて避難者を安心させる…」という記事が掲載されていました。でもこれは明らかに間違いです。個人線量計は「数値が低く出やすい」のではありません。個人線量計の値の方が、実際に個人が浴びている実効線量により近いのです。

ゆりちゃん 「場の線量」の求め方をもう少し詳しく教えて下さい。

タクさん 図1を見て下さい。内閣府原子力被災者生活支援チームは、住民の生活パターンや家屋の遮蔽率を一律と仮定して、先ず(1)航空機サーベイによる空間線量率の実測値(X)から1時間当たりの自然寄与分(0.04マイクロシーベルト)を差し引いて事故による上昇分(Y)を計算。次に(2)屋内外の滞在時間(屋外8時間、屋内16時間)、および家屋の遮蔽等による低減係数(1〜2階建の木造家屋の場合0.4)を考慮して1日(24時間)当たりの被ばく線量を計算。最後に(3)365日を掛けて1年間累積の「場の線量」を推定・評価しています。

ゆりちゃん 「場の線量」と「個人線量」に違いが生じる理由を教えて下さい。

タクさん 航空機サーベイによる実測値は、約600m圏内の測定値を平均化したもので、個々人の被ばく線量を表すものではありません。また、滞在時間は個人によって大きく変化します。さらに、低減係数は家屋(木造、ブロック、レンガ造り)によって大きく変動します。これらを一律と仮定することには無理があります。もう1つ大事なことは、個人線量計は本来、航空機サーベイと同じように「空間線量率」を測定するように校正されているのですが、放射性セシウムが広く分布した現在の福島地域の環境中では、人の体の遮蔽効果によって偶然ですが、普通では測定できない「実効線量」に相当する線量が、数値的には表示されるのです。住民の本格的な帰還に備えて「放射線の被ばくに用いられる実効線量が測定できる被ばく管理システムの構築」の重要性がさらに高まることでしょう。(原子力学会誌「アトモス」第55巻・第2号「放射線防護に用いられる線量概念」参照)。

原産協会・人材育成部


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