トルコ シノップ知事関心高く 原産理事長、大使館で講演

トルコの「北アナトリア開発庁(KUZUKA)」の代表団26名が5月26日に約1週間の滞在予定で来日した。KUZUKAは、シノップ県、チャンキン県、カスタモヌ県の県知事、市長、商工会議所長等で構成されたが、今回の来日は黒海に面する北アナトリア地方の振興のため、日本の関連機関と、(1)投資促進(2)エネルギー(電力)確保と環境保全の両立の仕方(3)行動規範――等について話し合い、経済協力を促進することを目的としていた。団長はシノップ県のY.キョシュガー知事が務め、シノップ市長もこの団に参加していた。

漁業と引退者の保養地として知られるシノップでは、(ロシアとの協力によるアックユに次いで)トルコ第2番目の原発の建設が日仏土の3か国の協力で進められようとしており、団員の多くが「原子力発電と地元の共生、また環境保護」に強い関心があるとのことで、在日トルコ大使館から、当協会の服部理事長に日本の原子力発電の包括的な紹介の依頼があったため、5月26日の午後、服部理事長がトルコ大使館に出向き講演を行った。

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講演会の冒頭、キョシュガー団長は、「シノップ原発プロジェクトは、シノップ県のみならず北アナトリア経済全体にとり重要なものとなっている。このプロジェクトは規模も巨大であり、日本がもたらす経済効果に加え、それ以外の効果も大いに期待している。一方トルコの世論は、福島原発事故もあって、原子力発電の安全性に懐疑的になっている。特に、原子力発電事業が地域をどのように変え、何をもたらすのかに強い関心がある。またわれわれはこれから何をどう準備すべきかを、多くの経験をもつ日本から学びたい」と述べた。

服部理事長は、日本にとってのエネルギー確保の重要性、原子力発電開発の歴史、福島原発事故の概要・影響また今後の取組、国際社会への日本の原子力産業の責務について講演した。特に、福島原発事故の自戒も込めて、安全文化とその達成のための人材育成の重要性を強調し、地域住民の理解を得るためには透明性のある利害関係者の参加が不可欠であることを訴えた。

これに対し、キョシュガー団長は、福島原発事故のさらに詳細な説明を求め、津波の想定の甘さ、現在の福島第一原発での汚染水の発生状況とその対策、住民の帰還に関する制限、また新規原発導入国にとっての放射性廃棄物や使用済核燃料の処理・処分の選択肢等について尋ねた。

また、他の参加者からは、「福島原発事故で、過去に日本が原子力発電から享受したメリットを上回るくらいの損失が出たのではないか?」との問いかけがあり、服部理事長は、「原子力はリスクがあっても利用する価値のある人類共通の財産である。リスクを最小限にするために世界の叡智を結集して使いこなすことがわれわれの使命だと思う」と答えた。

さらに、「シノップの原発プロジェクトの可否を住民自らが決める観点からは住民投票が必要と思うが…」との問いかけもあった。これについて、服部理事長は、「私見ながら、住民投票が住民の声を一番正当に代表するかどうかは、その国やコミュニティの社会制度や文化の成熟度によっても異なるから、それは当事者が決めるべきで外部の人間がとやかく言うべきことではない」とした上で、「投票でものごとの白黒をつけるやり方については、個人の短期的な好き嫌いと国や経済の長期的なリスク・メリットの比較ができる、ある程度の知識や判断力がないとポピュリズムに陥る危険性もある。争点の単純な問いかけで判断したことが、複雑で深刻な影響となることがあるので注意が必要と思う」と危惧した。

また、キョシュガー団長から、シノップ地方では原発プロジェクトに対してどういう備えをすべきであるかについての質問もあった。

プロジェクトの今後に向けて、服部理事長は、「自治体としての運営を考えるならば、将来の廃炉や万一の事故に備えて、原子力発電に100%依存することは避けることが望ましく、持続可能な発展ができるような産業の育成が必要と思う。大まかには、原発の計画から運転まで15年、運転期間を60年、低レベル廃棄物の減衰期間を300年とすれば、原子力発電を手がけるということは100年オーダーの真剣な取組が必要になる」と述べた。

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なお、大使館によれば、代表団は、日本滞在中に発電所、化学工場、エコロジー施設、重電工場の視察も行い、関西新空港から韓国に向かう予定とのことであった。(中杉秀夫記者)


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