エンジ協会、川崎地質、原子力機構 ミューオンで炉内可視化 廃炉へ、技術結集し成果

福島第一原子力発電所の事故炉を廃炉するには炉内の状況把握がまず必要となる。そのため宇宙線ミューオンを利用して炉内の燃料デブリなどの状況を把握しようという共同技術開発が進んでいる。宇宙線ミューオンによる地質探査技術を開発、多くの実績をもつエンジニアリング協会と川崎地質の技術をベースに、日本原子力研究開発機構(原子力機構)の原子力技術を合わせ、このほど基本技術の成立性を確認した。

宇宙線ミューオンは、普通に宇宙から降り注いでいる自然放射線。人体には無害だが、ガンマ線に比べ地盤の透過距離が格段に大きい。このミューオンを計測して下水道など地下内部の状況を3次元画像にする技術をエンジニアリング協会と川崎地質が確立している。公共インフラのメンテナンスや更新が見込まれるなかで、これからのニーズ増が期待されるという。ちなみにこの技術は過去にエジプトのピラミッド内部の状況把握にも試験的に適用されたことがある。一方、原子力機構は、震災前から高温工学試験研究炉(HTTR)の出力分布の測定、および(使用済み)燃料の検査などに使えないかと検討していた。例えば、原子炉(炉心)から燃料を取り出さず、原子炉圧力容器の外側から炉内の状況を可視化するという、新しい計測・検査技術の開発のために、このミューオンを用いた技術に着目して予備試験などを進め、鉄、鉛、黒鉛を識別できることを確認しており、福島第一の事故後は事故炉への応用を着想した。以降、三者が協力して事故炉の内部を把握する技術開発に取り組んでいる。

HTTR向けの予備試験では、炉心、生体遮へい(コンクリート)等を判別することができ、炉内の可視化は可能と確認されている。原子炉建屋内ではなく、建屋周辺でも計測できることや、ノイズを判別し必要な鮮明さを持つ3次元画像が得られるというメリットが確認されている。

今後の課題は主に計測の精度向上と可視画像の鮮明化をはかること。自然放射線を使うので、可視画像を構成するだけのミューオン(平均1000個)を多角的(5地点、22方向)に計測するには時間がかかる。現状の計測時間3か月を2週間に短縮することと、燃料デブリの状況を把握するために、画像の鮮明化に必要な空間分解能を現状の1mから20cm以下にする改善に取り組んでいる。「かなり野心的な目標」というが、新たな技術を要するものではないため、改良と工夫の積み重ねで目標の性能を達成する考え。

この技術のメリットは現地への計測システム搬入と設置が容易なこと。一般的なコンテナのひとつに計測システム全体を収め、原子炉建屋の近い場所に設置することを考えている。計測のためのミューオン受光システムは基本的にシンプルな構造だが、今後光ファイバを用いて高性能化するなどの課題に取り組む。また作業員の被ばく低減にむけた計測の自動化や遮へいなど、現地計測装備などの準備も進めて、現実的な技術提案に仕上げる方針。今回の技術開発は技術者の発想とチームワークで優れた技術が結集された結果、重要な技術開発に結び付いた好例といえ、今後の進展に期待がかかる。


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