[Special Interview]草間朋子氏 東京医療保健大学副学長 放射線看護教育を 医療現場の最前線 信頼される役割を果たすために

「医療の最前線で働く看護師さんや保健師さんたちに、放射線被ばくや健康影響についてきちんと理解してもらうことが大切」と、現在も各地の看護協会の求めに応じ、講師として全国をまわっている。

「東日本大震災を経験してつくづく思ったのは、みなさんやはり被ばくの問題を心配されていますよね。でも本来、放射線の健康影響について一番知っていなければいけない医療従事者(看護師、保健師など)の知識があまりにも不足していたのです」。

「少なくとも健康影響やリスクなどについては保健師など医療従事者の役割が重要で、地域の人たちから信頼されないといけません。そのためには中途半端な知識ではなく、信頼されるにたる知識を持つべきで、体系的な教育が重要です」。

看護職というと、一番はじめに思い浮かぶのは看護師だが、保健師、助産師の3つの職があって、それぞれに放射線被ばくと健康影響の正しい知識を持つべき大切な役割があるという。

「医療の最前線で患者に向き合う看護師、被ばくの影響を心配する住民の心のケアに中心になっていただくのは地域の保健師、胎児の被ばくを心配されるお母さんも多いだけに助産師さんの役割も大切なのです」。

日本看護協会では、阪神淡路大震災をきっかけに災害支援ナースとして被災地に派遣し被災者の生活支援をする制度を作った。東日本大震災の後、被災地の宮城、岩手に派遣され、医療現場を支えたが、福島には派遣できなかった。

「救急医療などの対応は専門でも、放射線の被ばくや健康影響の知識は十分とは言えませんでした。ボランタリーな制度でもあったから、派遣できなかった」。その反省を活かさねばらない。

体系的な放射線看護教育の充実・強化を訴えるのも、看護師など対象とした講習会に出かけるのも、その強い思いがあったからだった。

受講した看護師さんからは、「初めて自分たちが患者さんにどう答えるべきか、どこから専門家に任せるべきかを学んだ」との声が聞かれ、手ごたえを感じている。

目に見えない放射線をわかりやすく説明するため、ポータブルのエックス線撮影装置を使うなどして、必ず計測を体験できるよう授業の内容に工夫を重ねている。

「今後、看護基礎教育のなかに放射線防護に関する系統的な教育を取り入れていくことが不可欠です」と力を込める。

看護の領域に本格的に関わったのは平成10年から。大分県立看護科学大学の学長として14年間、大きな、そして困難な仕事に取り組んだ。

「看護を良くすることが、医療を良くすること」と信じ、医療の高度化や複雑化などの現状に応じて、プライドを持って自律した職業としての看護職を確立するため奔走。従来より高度な、特定の医行為を行える看護師の制度化にこぎつけようとしている。当初、「新人、奇人、変人などと言われた」ことも。多くの苦労があったが、まもなく研修制度の形で、その苦労が身を結ぶところまで来た。

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強い思いを持ち、粘り強く着実に進む姿勢は一貫している。過去東京大学の医学教室の時代に培った“あまえない” “あきらめない” “あせらない”研究者としての姿勢が原点だ。日々の健康管理はそもそも専門だが、パワーの源泉は「食事のバランスに気を付けること、毎朝のウォーキング、それと、銭湯ですかね」と笑う。


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