燃料挙動など貴重なデータ蓄積に貢献 運転再開したNSRR 福島第一事故の解明に一役 解析コード精度向上へ 溶融進展の理解にむけて

日本原子力研究開発機構(JAEA)は茨城県東海村の原子力科学研究所にあるNSRR(原子炉安全性研究炉)を昨年12月から運転再開している。運転開始30年を経て、シビアアクシデント時の炉心溶融進展過程を解明する実験準備を開始するなど、新たな役割も担い、貴重な実験データの蓄積に期待がかかる。

短時間だけ高い出力を発生するパルス出力運転ができる実験炉で、反応度事故による急速な出力上昇を安全に模擬できる。1975年の運転開始から30年を経て、最近では実質的に世界で唯一、この種の反応度事故を模擬できる原子炉となっている。この施設を利用して取得されたデータは国の安全基準の策定に活かされてきており、またこの施設の有する実験技術は福島第一原子力発電所の事故のようなシビアアクシデント時の炉心溶融進展過程の解明にも役立つものと期待されている。

原子炉が炉心溶融に至る過程を理解するには、シミュレーションのための解析コードを改良して精度向上をはかることが不可欠。現在国際的に使用されている解析コードには現象の取扱いに簡略化された部分があり、高い精度でシミュレーションを行うための知見が必要となっている。

そこで小規模ながら安全に燃料に関する事故模擬実験が可能なNSRRの特長を活かし燃料が溶融等に至るまでのデータが実験的に取得できるのではないかと着想した。以来、NSRRの実験計画の一環で実施するためこの実験について検討し、現在予備実験を実施中だ。今年度中に計3〜4回程度の予備実験を実施する予定で、実験の成立性を確認できれば、本実験として2〜3年かけて必要なデータを取得することにしている。

この実験は、既存の実験カプセルに実験燃料棒(全長約30cm。未照射燃料)を設置して行う。冷却材喪失状態を模擬するため燃料棒周囲に気相部を設ける。その実験カプセルをNSRR炉心に装荷して運転し実験燃料棒内の二酸化ウランペレットを加熱し、実験中の燃料棒の温度計測を行う。また実験後に燃料棒の詳細観察を行い、燃料が溶融を開始する条件と溶融挙動に関するデータ、知見を取得する。燃料棒周囲の雰囲気(水蒸気や空気等)、構造材と制御材との相互作用等の条件がパラメータとして考えられている。

また、今後の計画として、燃料の溶融進展過程を観察するための可視カプセルの開発も進めており、現在は技術的な成立性(とくに電子デバイスを炉心近傍で用いるための遮へい評価)について確認を行っている段階という。

NSRRは、東日本大震災の折に建屋等に軽微なヒビがみられたが、炉本体には影響がなかった。それらの補修とともに原子炉本体等の健全性確認が完了し、原子力規制委員会の施設定期検査を昨年末に合格し、運転を再開した。

従来から実施しているウラン燃料等の実験も順次再開、原子力を専攻する大学生の研修受け入れも再開することとしており、貴重なデータ取得とともに人材育成の観点からも貴重な学びの場を提供し続けることになる。


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