【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(33) 実効線量と吸収線量の違いに留意し評価

国連科学委員会(UNSCEAR)は4月2日、「東日本大震災後の原発事故による放射線被ばくのレベルとその影響(最終報告書)」を発表しました。今回は、福島第一原子力発電所の放射線環境下で作業した人達の「被ばく線量と健康影響」の評価結果について紹介します。

ゆりちゃん 現場で作業する人達の被ばく線量の制限値って決められているのですか。

タクさん 日本の規制で定められた放射線作業従事者の「実効線量限度(防護のための特別な線量)」は、5年間で100mSv、1年間で最高“50mSv”です。しかし、事故直後、“100mSv”に引き上げこれを「緊急時線量限度」とすることが決められました。さらに、2011年3月14日には“250mSv”まで引き上げられ、この状態が、同年12月16日(厚生労働省令第147号)まで続きました。ただ東電は、国が設定したレベルの遵守を保障するため、より低い“200mSv”を緊急時線量限度として採用しました。

ゆりちゃん 作業者の「被ばく線量と健康影響」はどのように評価されたのですか。

タクさん これは非常に大事な質問なので、放医研・酒井一夫放射線防護研究センター長に解説戴きました。同センター長は「国連科学委員会は全身への被ばくの影響を“実効線量(mSv)”、また甲状腺など臓器の被ばく線量を“吸収線量(mGy)”で評価」と前置きしてから、先ず、作業者の線量評価について「(1)2012年4月までの作業者2万1776人の被ばく線量の中で、最も高い実効線量は東電社員の679mSv、緊急時の線量限度(250mSv)を超えたケースが6件(図1参照)。また(2)内部被ばく測定の開始が遅れたため、I133のような短半減期の放射性核種は検出されなかった。これら短半減期核種による被ばくは、I131による被ばく線量の約20%であり、事故初期の被ばく線量を確実に把握するためには、さらなる解析作業が必要」と述べられました。次に、健康影響について「(1)放射線の影響による死亡や急性の健康影響は発生していない。(2)13人の作業者が、I131により2〜12Gyの甲状腺吸収線量を受けたと見られる。このような人達については、甲状腺機能低下症の起こる可能性は排除できないが、その確率は低い、心血管疾患のリスクは非常に低い、しかし白内障のリスクについては情報が不十分なため判断できない。(3)作業者の99.3%は、実効線量が低く(平均約10mSv)、放射線被ばくによる健康影響が識別可能なほど高くなることはない。(4)作業者の約0.7%(173人)は100mSv以上の実効線量を受けた。このグループではがんリスクの上昇が予測されるが、自然に発生するがんリスクと区別して診断できる可能性は低い。(5)約2000人が甲状腺吸収線量100mGyを超えたと推定される。100〜1000mGyの範囲で、成人期被ばくの甲状腺がんのリスク上昇の証拠はなく、甲状腺がんの発生率上昇が検出される可能性は低い。(6)甲状腺吸収線量が2〜12Gyの13人については、甲状腺がんのリスクは高いが、人数が少ないため、発生率の上昇を識別できないだろう」と話されました。国連科学委員会は今後さらに、事故初期の緊急作業従事者の作業履歴、放射性核種の環境中レベルの変化、作業場所・休憩場所の空間線量率、個人線量計を共有した際の信頼性、被ばく防護措置などの情報を収集・分析し、さらに詳細な福島事故の影響評価を継続して行います。

原産協会・人材育成部


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