学会・標準委員会がまとめ 「深層防護の考え方」 WSの開催通じて コンセンサス醸成に努力

日本原子力学会の標準委員会は「原子力安全の基本的考え方について」を検討し、「第T編 原子力安全の目的と基本原則」を平成25年6月に発行した。引き続き、今年5月には、とくに重要で共通の認識が必要な「深層防護の考え方」を取り出し、別冊としてまとめ発刊した。そこで法政大学客員教授で長年、標準委員会委員長をつとめてこられた宮野廣氏にポイントをうかがった。

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「事故の後、原子力安全に向き合う姿勢に、専門家の間でも考え方がまちまちな面が見受けられたため、共通の考え方を作るために、特にこれからの原子力を担う世代の専門家を中心に検討し、“第T編 原子力安全の目的と基本原則”をまとめ、引き続き“深層防護の考え方”をまとめる活動を進めてきました」。

深層防護は、人と環境を守るという原子力の安全確保の目的を達成するための、具体的方策を構築するための考え方を定める基本概念であり、安全性向上にむけては、その考え方を適切に理解して、具体化に取り組むことが重要という。

「一般的に、5つの壁で説明されることがありますが、単にカベを多重にすればよいということではありません。重要なことは、それぞれの層が考え方の異なる対応で構成されているということです。すなわち多様性を持たせることで、一度に多くの層が役に立たなくなることを避け、どれかの層で安全が確保される仕組みとすることです。すなわち、事故のリスクを効果的に低減するために、各層にバランスよく役割を持たせることです」と説明する。

福島第一原子力発電所事故を教訓に、プラント側の対策から、住民のリスク低減という防災の領域にまで深層防護の考え方が有効に生かされる必要があり、その有効性をきちんと評価することが大切であるという。

そのため「リスクを尺度に、安全目標に対し深層防護の考え方に基づく対策の有効性を全体評価していくことが重要です」と、リスク評価の意義を強調する。

今回発刊された「深層防護の考え方」には、設計要求範囲と設計評価に関する整理や設計拡張状態(Design Extension Conditions)の持つ意義など、現時点における主要な論点について関連事項の整理がなされ、5つの論点に整理された。

「論点のなかで、設計基準を超える外的ハザードにどう対応するか、また原子力安全規制の中で深層防護をどう考えるかなどは今後とくに議論の必要な論点だと思いますので、今回まとめた考え方をベースにしてワークショップの開催などを通じて、関係者の間でコンセンサスを作っていくことが非常に重要と考えています」。

また、深層防護の考え方による対策が有効かつ妥当であることが社会に広く説明される必要がある。

「住民の方々をはじめ、一般の人たちに説明し、理解していただき、共に考えていく必要があります。学会として、役割を果たしていかなければなりません」と話す。

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日本原子力学会標準委員会では検討会を設け、「第T編 原子力安全の目的と基本原則」を平成25年6月に発行した。その議論中のなかで特に重要で、共通の認識が必要として「深層防護の考え方」を取り出してとりまとめ、別冊として発刊した。A4判73ページ。詳細は学会HP(http://www.aesj.or.jp/)に。


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