【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(41)線量率が下がると発がんリスクも下がる

住み慣れた地域に帰還したいという思いと、放射線による健康被害を受けるところには戻りたくないという思いとの間で葛藤している福島県住民の方々からは、特に、避難指示解除の要件「年間20ミリシーベルト以下の低線量」が妥当なのかどうか、わかりやすい説明が求められています。

ゆりちゃん 低線量というのはどれくらいの線量なのですか。

タクさん 国際放射線防護委員会(ICRP)では100ミリシーベルト(mSv)以下を「低線量」と定義しています。この線量域では、原爆被爆生存者の約50年間にわたる寿命調査(LSS)において、発がんリスクの上昇は認められていません。ICRPは、放射線防護の立場から「100mSv以下の低線量でも、被ばく線量と影響(リスク)の間にはしきい値がないという仮説(LNTモデル)」を採用しています。しかし、「このLNTモデルは、放射線管理の目的のためにのみ用いるべきである。低線量放射線のリスク評価に用いるのは適切でない」とも述べています。

ゆりちゃん 放射線の影響(リスク)の大きさは「線量率」にも関係するのですか。

タクさん これはとても重要な質問です。線量率が下がると放射線の影響も下がるという現象は、細胞レベルでの細胞死や染色体異常、さらには突然変異を指標にして広く観察されており、動物実験でも、低線量率での照射では「発がんリスクが下がる効果」が確かめられています。低線量率の定義もいろいろありますが、国連科学委員会(UNSCEAR)は「3.6mSv/時間以下」を低線量率としています。福島第一原発20km以遠の現在の放射線レベルは、UNSCEARの示す数値よりもさらに1000分の1以上低く、明らかに低線量率の環境です。低線量率で発がんリスクの下がる理由は「細胞、およびDNAの傷の良好な修復にある」と考えられています。低線量であることや、低線量率による低減効果を合わせれば、避難先からの帰還基準(20mSv/年)は妥当な判断といえるでしょう。もちろん将来的には「1mSv/年を目指す」ことを忘れてはなりません。

ゆりちゃん 20mSv/年について実験した例はありませんか。

タクさん 財団法人「環境科学技術研究所」が、寿命に及ぼす影響を指標として、マウスを使った大規模な低線量・低線量率影響研究を行い、その結果を2002年に報告しています。実験には、オス、メス合わせて4000匹のマウスを使い、3つの異なる線量率((1)20mSv/日、(2)1mSv/日、(3)0.05mSv/日、)で400日間連続照射し、寿命の変化を観察しました。それによると、(1)および(2)の条件ではマウスに有意な寿命短縮が見られましたが、(3)の条件ではオス、メスともに有意な寿命短縮は観察されませんでした。帰還基準(20mSv/年)の妥当性を裏付けるひとつの実験結果といえるでしょう。

原産協会・人材育成部


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