賛否決めかねる国民が増加 仏電力の原子力世論調査

総発電電力量の75%を原子力で賄う仏国は自他ともに認める原子力大国だが、2012年の選挙では反原子力的な立場のF.オランド氏が大統領に当選した。同国の原子力世論はどう変わりつつあるのか、仏国唯一の発電事業者である仏電力(EDF)が1975年から実施してきた意識調査の概要が9日、原産協会を訪問した同社の公共機関・議員・政党等対応部門のD.ビトコウスキー主任研究員らによって、次のように紹介された。

EDFでは世論調査の専門家9名がチームを組み、どのようなメッセージを何に注意して発するべきか明確にするため、エネルギー、特に原子力に対する国民の意識調査を毎年行っている。対象となるのは一般国民とそのオピニオン・リーダー達で、それぞれについて(1)19の原発サイトの半径15km圏内の住民(2)仏国全土(3)原子力を重要視する欧州の6か国――の3レベルで実施。サイト・レベルの調査は150名に電話で聴き取りしており、テーマは(1)発電所の印象(2)サイトの安全性(3)サイトやその活動に関して提供されている情報レベル(4)EDF職員や下請け会社職員の印象――などとなっている。

調査で判明した点

原子力に対する昨年12月までの意識調査では「強く反対」から「少し反対」までの3選択肢をすべて反対派に分類する一方、「少し賛成」から「強く賛成」までの3つを一括りに賛成派と判断。この手法ではチェルノブイリ事故以降、2006年頃まで、反対派が賛成派を上回っていた。しかし近年は、意見が中間的で賛否のどちらとも決断できない人々が増えていることから、今年2月の調査では(1)賛成(2)反対(3)躊躇している(4)意見なし――の4つの選択肢を用意。(3)を選んだ人々が25%に達していることから、仏国民は必ずしも反原子力でないと言えるだろう。

過去10年ほどの賛否の推移を見ると、福島第一原発事故後に急落した支持派の割合が約1年という非常に短い期間で回復した。これは同事故後に仏国内でエネルギー問題に関する大々的な議論が起き、関連情報が大量に行き渡った結果と見ている。しかし、12年の大統領選挙で左派の大統領が選ばれ、仏国の政界で何十年も存在していた「原子力はやるべきだ」とのコンセンサスが崩れた。国民の中にも混乱が生じ、昨年末の結果では無回答の割合が増えた一方、支持派は少なくなっている。

興味深い点は、仏国と同じ安全レベルと考えていた日本の原発で事故が起きたことにより、「国内の原発を信頼しているが、絶対に事故が起こらないとは言い切れない」というアンビバレンツ(二律背反)な考え方が増えてきたこと。また、政治家がどのような立場を表明するかが国民にも大きく影響しており、明確な意見を持たない人々は主流派の意見に従う傾向があるということだ。

情報はただ提供すればいいというものではなく、受け取り手は誰が発信したかで判断する。従って、大規模な啓蒙活動をEDFの仕事とは考えておらず、全国レベルで原子力に肯定的な情報を発信してもらうためには、皆が認める科学者や政府当局者などが必要と考えている。


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