【特別インタビュー】 坂田東一(さかたとういち)氏 国際社会が連携を ウクライナ問題 平和的解決にむけ

昨年10月まで駐ウクライナ特命全権大使をつとめた坂田東一氏(原産協会特任フェロー)に、ウクライナ情勢の国際的な影響や、平和解決にむけた日本の役割などについて伺った。身近に接してきたウクライナの人々の困難な状況に対し「一刻も早く平和な日々を回復してほしい」と率直な思いを語った。

ウクライナで何が・・

2013年11月以降、EUとの連合協定に署名を求める政権への抗議運動に端を発し、翌14年2月には革命的な政権交代につながった。同5月の大統領選挙で、EUとの統合を掲げたポロシェンコ大統領が選出。10月に行われた議会選挙でも議席の3分の2以上を確保した政権与党はEUとの連携を深めようとする勢力に。「それは民意を受けた結果だったのです。ウクライナの8割以上の人たちは欧州に行こうと決断したといえるのではないかと思います」と話す。

しかし、これらの動きはウクライナとロシアの対立の構図に質的な変化を及ぼし、住民投票でクリミアがロシアに併合される事態に。

「基本的に犠牲者はウクライナ人です。身近にウクライナの人々と接してきた者として、一刻も早く平和な日々を取り戻せるよう願っていますし、日本も責任ある役割を果たしていくことが大切です」と力を込める。

日本の姿勢と支援

「日本の姿勢は明確です。クリミアの併合という問題でも、国際法違反の問題があり、ウクライナの主権侵害でもあるため、ロシアの行為について容認できないという姿勢です」。昨年3月の時点で安倍首相が決断し、日本から1500億円規模の財政的な支援が決定、「経済状況の改善、民主主義の回復、国民の中での対話と統合の促進という3つの観点から支援を行っている」という。

「日本が立場を明確にし、政治的にサポートしているということが大事」とし、困難な状況に応じた経済支援も非常に重要と話す。同国の予算措置を支援しキエフ近郊の下水処理場の近代化の支援は現地のニーズが高い事業。国連機関を通じた避難民支援や損壊したインフラの復旧等にも支援の手を差し伸べている。

「ウクライナ国内ではEUとの統合に向かうべきと考えている人々が大半ですが、親ロシアの人々もいるのは事実です。重要なのは対立をあおることなく対話を進め、国民が統合に向かうように支援していくことです」とする。

国際社会が連携し対応を

クリミアをロシアが併合するのはウクライナの憲法にも国際法にも違反するもので、国際的な安全保障の秩序を乱す行為と認識し欧米と歩調をあわせる日本。「解決にはまだ時間がかかると思いますが、大事なのは話し合いを続けていくこと。難しいことですが、国際社会が取り組むべき問題です。日本はそのなかで責任あるプレーヤーです」と強調する。

重要な時期に赴任

赴任したのは福島第一の事故の半年後という重要な時期だった。事故対策をどうするか、ウクライナのチェルノブイリ事故の経験に学ぶ必要があった。日本から数多くの調査団が派遣され、現地対応に奔走する日々。原子力の専門家として力を尽くした。「チェルノブイリ発電所を視察し、政府機関や専門家、被災者と意見交換するなど、どんな場合でもウクライナ側はすべての日本の調査団に誠意をもって対応してくれました。とても感謝しています」と話す。「日本からの調査団のサポートを通じ、人の交流が広がり、福島第一事故後の対策に多くのことをいかすことができたと思います」と振り返る。

昨年の6月と11月には日本の大学等で開発された地球観測用の超小型衛星6機がウクライナのロケットにより無事に打ち上げられた。福島第一やチェルノブイリ発電所の周辺の環境の変化を観測できる体制ができ、データ比較などにより、今後の事後対応にいかされる。宇宙分野での行政手腕を発揮した同氏の経験がいかされた。

ウクライナはそもそも親日国、それがチェルノブイリ発電所、福島第一の事故で互いに支援し合う経験を通じ信頼関係を一段と深めてきた。「何かあったときに誠意をもち対応することが、良好な関係の礎になるのでしょう」とは現地での肌感覚を通しての実感だ。

平和と安定の大切さ

「はからずもこうした時期に赴任し、平和と安定の大切さを身にしみて感じました」。

目の前で起こった事態の成り行きは不幸なことに多くの犠牲者を出し現在も避難民が国の内外に100万人規模という。「ウクライナの人々と親しく接していた立場で、大変心が痛みます。一刻も早く平和な暮らしを取り戻すことを心から願っています」と率直な思いを語る。


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