【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(45) ICRPでも組織幹細胞の機能に注目

これまで、低線量放射線発がんリスクを「組織幹細胞」に的を絞り論じてきました。国際放射線防護委員会(ICRP)が新勧告として準備中の「幹細胞放射線生物学」草案を紹介して結びとします。(引用先:http://www.ICRP.org/docs/TG75DraftForConsultation.pdf)

ゆりちゃん ICRPについて、簡単に歴史と役割を教えて下さい。

タクさん ICRPは、専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う民間の国際学術組織です。この組織の前身は、国際X線ラジウム防護委員会といって1928年につくられ、1950年に今の名称になりました。わが国は、この勧告を尊重して、放射線障害の防止に関する法令等を定めています(図参照)。

ゆりちゃん ICRPが準備している「幹細胞放射線生物学」の内容はどんなものですか。

タクさん ICRP勧告の文章は、かなり難解で、専門家でも分かりにくいという人が多くいます。ゆりちゃん少し我慢して聞いてください。先ず勧告案は、本文と附属書に分かれています。本文は、第1章の序に始まり、第2章では「組織内幹細胞の一般的な特徴」として、(1)成体組織における細胞分裂および分化、(2)組織幹細胞の機能の同定及び単離、(3)組織幹細胞の放射線感受性およびDNA損傷応答、(4)組織幹細胞の老化と枯渇、(5)組織幹細胞ニッチ、の説明がなされています。第3章では「放射線発がんにおける組織幹細胞の役割」として、(1)放射線発がんにおける幹細胞の役割、(2)放射線発がんにおける幹細胞と幹細胞ニッチ、(3)放射線発がんの線量率効果、(4)ヒトのデータを補完するための実験動物研究、(5)組織中の標的細胞の位置、(6)細胞ベースおよび組織ベースでの検討事項、(7)放射線発がんの年齢依存性、の説明がなされています。附属書では、造血組織、乳腺、甲状腺、消化管、肺、皮膚、骨の7つの組織と器官について幹細胞の特徴が詳細に説明されています。

ゆりちゃん 勧告の文章には、タクさんが本紙で論じた「幹細胞の話」について記載されているのですか。

タクさん そうです。たとえば、「臓器の正常な幹細胞は、放射線によって傷がつくと“がん幹細胞”になり、これが長期にわたってがん細胞を生産する。しかし、周囲の“正常な組織幹細胞”の攻撃を受けて多くは“幹細胞のすみか(ニッチ)”から追い出され、最後は組織から排除される」と書きましたが、ICRPでは、胎児被ばくに注目した項で、「染色体異常を有する胎児の“骨髄幹細胞”は、おそらく骨髄ニッチ内の滞留を巡る競合によって、胎児から新生児の段階において優先的に除去される。組織レベルの競合が、異常な骨髄幹細胞を除去する効果的なフィルターとして機能している可能性が高い」と述べています。放射線影響分野でも「組織幹細胞研究」はますます重要になるでしょう。

原産協会・人材育成部


お問い合わせは、政策・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで