【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(46) 応用広がる宇宙からの放射線「ミュー粒子」

福島原発事故で溶けた核燃料の位置や大きさを宇宙からの放射線「ミュー粒子」で探る技術が話題になっています。今回はこの技術についてタクさんが紹介します。

ゆりちゃん 「ミュー粒子」って何ですか?

タクさん 日本原子力文化振興財団発行の月刊誌「原子力文化(2014年3月号)」には、「ミュー粒子は、宇宙から飛んできた宇宙線が、大気中の酸素や窒素などの原子と衝突するときに発生する放射線の1つです。日々、地上に降り注いでおり、その量は1平方センチメートルに1分間で1個ほど、一晩寝ている間に人の体を100万個ほどが通り抜けている」と書かれています。このミュー粒子は、物質中での相互作用が少なく、透過能力に優れています。例えば電子や陽子といった粒子は、水中を1メートルくらいしか進みませんが、ミュー粒子は数千メートルも進みます。その一方で、ウランなどの密度が高い物質にぶつかると、(1)吸収されたり、(2)進む方向が変わったりする性質があります。この2通りの性質を利用して、上空から降り注ぐミュー粒子を原子炉建屋の周囲で一定期間、観測すれば、溶けた核燃料(デブリ)の位置や大きさを予測・評価できるのです。

ゆりちゃん ミュー粒子を利用しての予測・評価は、具体的にはどうするのですか。

タクさん (1)の性質を利用する方法は「透過法」と呼ばれています。体を透過したX線でレントゲン撮影をするように、ミュー粒子が原子炉を透過してくる量を写真乾板や光ファイバーを使って測定し、画像処理する方法です。一方、(2)の性質を利用する方法は「散乱法」と呼ばれていて、米国ロスアラモス国立研究所と東芝、東電の日米共同チームが2012年に開発しました。原子炉の両側から挟むように検出器を2台置き、ミュー粒子が原子炉に入る前と出た後の粒子の軌跡を解析すると、燃料の位置や形が立体的にわかる仕組みになっています(図参照)。福島第一原子力発電所の廃炉で、国際廃炉研究開発機構(IRID)のプレスリリース(2014年12月25日)によれば、燃料がほとんど残っていないと推定されている1号機には「透過法」、炉心部にも燃料が残っている可能性がある2号機には「散乱法」を適用し、1号機は早ければ2015年2月頃、2号機は同年10月頃、測定を開始する見込みです。

ゆりちゃん ミュー粒子を利用して測定することは初めてなのですか。

タクさん ミュー粒子の利用事例として誰もが最初に挙げるのは、ノーベル賞物理学者アルヴァレズらが1970年、エジプト・ギザ大地のピラミッドの中で行った未知の空間の探索でしょう。また、東大地震研究所田中宏幸教授(当時は助教)は2007年、浅間山でミュー粒子を原子核乾板で観測し、マグマの通り道である「火道」の可視化に成功しています。宇宙からの放射線を利用する古くて新しい研究分野は魅力的であり、その応用範囲はさらに広がっていくことでしょう。

原産協会・人材育成部


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