医学用の放射性アイソト?プ99Mo/99mTcの安定供給どのように確保するか(日本アイソトープ協会主催、第46回アイソトープ・放射線 研究発表会を傍聴して)

2009年7月7日

  日本アイソトープ協会(RI協会)が2009年7月1日に開いた「第46回アイソトープ・放射線 研究発表会」から、パネル討論「99Mo/99mTcの安定供給をどのように確保したらよいか??世界の状況と国内の対策‐(座長:井戸RI協会常務理事)」を傍聴した。


 カナダの研究炉NRUで5月に起こったトラブルのため、画像診断など医学用に最も幅広く使われている放射性アイソト?プ(RI)であるテクネチウム(99mTc)/モリブデン99(99Mo)の供給に障害が起こっていること、また国産化の可能性などについて、とりまとめた。


(文責:原産協会・政策推進部 桐原 正美)


 


座長挨拶:


 99Moの供給体制が、製造炉の老朽化等により危機的状況になっている。日本の99Moは、100%輸入に頼っており、先日、カナダの99Mo製造炉が停止したことにより、緊急事態になっている。本日は、今後の99Moの安定供給について、どのようにしたら可能になるかを議論したい。


 


1.    世界における99Mo 供給体制の問題点  (RI協会・中村 吉秀氏)


 日本で薬事承認を受けた最初の99mTcの診断薬は米国から輸入された99Mo/99mTcジェネレーターで、販売が開始されたのは1965年のこと。99mTcは、1970年には、放射性医薬品の核種別販売数量(放射能の数量)の第1位となり、2008年度の販売実績では、全インビボ放射性医薬品の約84%(放射能の数量)を占めている。


 現在販売されている99mTc製品は全て国産であるが、原料の99Moは100%海外からの輸入である。よって、原料製造側にトラブルがあると、医薬品の安定供給に支障が生じる。99Mo製造炉はカナダ、オランダ、南アフリカ、ベルギー、フランスの5つの原子炉で、世界の需要の98%が賄われているが、これらの原子炉は全て稼動開始から40?50年と老朽化し、大きな修繕をしないまま運転している。


 また、今後は、核不拡散の問題から、高濃縮ウランが使えなくなる。現在、カナダの炉も止まっていて、安定供給に支障が出ている。カナダでは、NRU炉の後を継ぐものとして、医療用RIの製造専用にMaple炉を建設し、稼動を計画していたが、2008年5月に技術的問題と資金不足から計画を中止した。現在、オーストラリアのANSTOのOPAL炉で、低濃縮ウランを使った99Moの製造が行われ、平成21年7月に試作品が完成する予定。これが成功すれば、世界初の低濃縮ウランからのMo99の製造となる。


 この危機的状況にカナダ政府からの提案もあり、OECD/NEAが動き、平成21年1月にワークショップの開催をし、6月17日、18日には、ハイレベルグループによる電話会合も持たれた。この会議には、99Mo 製造国の6カ国と日本と米国が参加している。世界的なネットワークを立ち上げようということになっている。


 米国に次いで核医学診断が普及し、世界で生産される99Mo原料の14%を消費し、かつその100%を輸入に依存している日本にとって、99Mo原料の安定的確保は最重要課題であり、国際的にも国内的にも緊急対応が迫られている。


 


2.    99Mo 製造のためのJMTR照射施設  (JAEA・河村 弘氏)


 ? JMTRの概要?JMTRの製造と99Moの製造?99Moの国産化について説明する。


 文部科学省の方針として、JMTRは、廃止するのではなく、改修し再運転することとなった。医療用RIの製造については、事業者であるユーザーの意見を良く聴き、国庫に依存しない運営をという方針が出された。


 JMTRは元々、軽水炉の安全研究のための施設であり、RI製造のためというわけではなかった。改修といっても、ほとんどは、屋根がぼろぼろになったものをきれいにしたり、更新するのみ。改修後、20年間は運転するようにとの方針になっている。新JMTRでは、?軽水炉利用の長期化対策、?科学技術の向上、?産業利用の拡大+99Moの製造?原子力人材育成。


 99Moの製造方法は、核分裂法(濃縮ウランを中性子照射し、核分裂を起こした後の核分裂生成物より99Moを抽出。(n,f)法ともいう。)と中性子放射化法(98Moの中性子照射により生成した99Moを抽出。(n,γ)法ともいう。)があるが、(n,f)法は、核不拡散上の問題等もあり、JMTRでは、(n,γ)法で製造する予定。


 JMTRでの99Moの製造により、国内での需要の20%を製造予定。製造は、1,000Ci/週、製造予定。99Moの製造のための追加施設に10億円の経費が必要。これは、ユーザー側で負担していただくことを考えている。また、(n,γ)法による製造の際には、比放射能が低いので、吸着剤として高性能Mo吸着剤PZC(注)を使用する。そのPZCの有効性に関しては、今、インドネシアのBATANと共同研究している。


(注)PZCは、日本で開発された無機高分子化合物で、Moに対する吸着力が従来の100倍以上というもの。アジア原子力協力フォーラム(FNCA)のプロジェクトのひとつとして実用化、普及にむけた研究が進められていた。


 


3.99Moの製造と99mTcジェネレーターの開発 (千代田テクノル・山林 尚道氏)


 99Moの製造法の紹介と世界の製造の現状について説明。


 以前、日本でも原研にて99Mo を750Ci/週、程度製造していた。しかし、99Moを海外からの輸入に依存してきた結果、国内での99Mo大量製造技術は継承されず、開発に関与した研究者・技術者も退職し、核化学、放射化学関連の人材も激減した。


 週1,000Ci以上の99Moを出荷するには、原子炉や加速器の照射場の整備、化学処理プラントの稼動、99mTcジェネレーターの開発、医薬品としての品質管理、輸送キャスクの整備や各規制対応などはもとより、全体を通しての研究者・技術者、放射線従事者の教育および育成が最も早急かつ重要な課題である。また、国内生産の確保には、採算性も考慮した総合的な観点から学術会議、核医学界、原子力委員会はもとより、国の機関による支援体制が求められる。


4.放射性医薬品メーカーが99Mo原料の国産化に期待すること 富士フィルムRIファーマ(株)森川 康昌氏


 当社では、以前は100%カナダから99Moを輸入していた。しかし、9.11のテロ事件以来、オランダや南アフリカからも輸入することにした。現在約11,000Ci/週の輸入をしている。
 99Moの安定供給の課題は、?原子炉の問題?輸送の問題?輸送容器の問題がある。現状、99Mo は100%輸入に頼っており、半減期は66時間である。現在、日本でも国産化が検討されているが、その際には、?現在と同品質の99Moが得られるか?1年を通し、安定した供給が得られるか?現状と同等の原料コストにできるのかの3点が課題。



5.核医学専門医から見た99Mo/99mTcの重要性と今後の展望 


                             (防衛医科大学校 小須田 茂氏)
 今回、カナダの炉が停止し、臨床現場では、打撃を受けた。日本での核医学診療を行っているインビボ核医学施設は、約1,300施設で、年間140万件を超える検査が行われている。このうち、約68%が99mTc標識放射性医薬品である。
 日本での99mTc製剤の使用は、10%減少した。理由は、?PET検査の普及?CT,MRIの発達?2003年日本独自の包括評価制度であるDPC(注)の導入が原因。しかし、世界の需要は、OECD/NEAの会合で、現在の1.5倍になると予測されている。


 


(注)DPCとは、入院患者の診療報酬額について、従来の出来高払いではなく、診断群分類に従った定額払いをする包括評価制度で、米国の例をもとに大学病院など特定機能病院に2003年から導入、実施されているもの。


 


質疑応答:


Q:ロシアからはなぜ輸入しないのか?(フロアから)
A:(富士フィルムRIファーマ(株)森川氏)以前は、品質の面で問題があったので、ロシアは国内の需要のみに対応している。しかし、最近は、ロシアも市場がどのようなものを求めているかにきちんと配慮するようになり、今後はロシア製品の輸入も検討する可能性もある。


 


Q:100%輸入に頼っているが、なぜ日本ではできないのか?(座長)
A:(JAEA・河村氏)元々JMTRは、RIの製造のための炉ではなかったが、文部科学省の方針で、RI製造もやりなさいといわれてやっている。99Moの製造には、3年間で10億円の資金が必要。技術的に出来ないのではなく、お金さえあればできる。日本では、トイレットペーパーや米がなくなると大騒ぎするが、Moがなくても誰も、マスコミも大騒ぎしない。大騒ぎしているのは販売している供給側のみで、使用している医療の先生方も旗を持って厚生労働省に要望に行く人もいない。おかしな話である。


 


Q:ニーズはどうか?(座長)
A:(防衛医科大学校 小須田氏)大病院と中小規模の病院とでは、少し状況が違ったかもしれない。大病院の場合、優遇された面もあり、今回のカナダからの輸入停止に関しても、あまり打撃がなかったが、中規模の病院では、99Mo の供給が停止し、乳がんの手術ができないと憤慨していた。安定供給は重要である。


 


Q:JMTRでは、(n,γ)法で99Moを製造するが、照射後の化学処理等に関して、山林さんから説明してほしい。(座長)
A:(千代田テクノル・山林氏)(n,f)法では、93%の高濃縮ウランを使用する。今後、高濃縮ウランが使えなくなると、20%の低濃縮ウランを使用する場合、同じ(n,f)法でも、溶融、化学分離の際には、全部ラインを変えなければならない。ロシアでは、液体燃料による製造法も研究されていた。日本では、軽水炉で使用された酸化ウランを利用して製造した経験もある。現在の課題は、「技術的には可能」ということであるが、実は、研究者はいるが、技術者がいないのが現状である。照射後の化学処理を行う技術者がいないので、その点に関しては、「今すぐやれ」と言われても困るのが現状。


 


Q:99Moの輸送に関しては、非常に苦労されているようであるが。(座長)
A:(富士フィルムRIファーマ(株)森川氏)現在は、様々な省庁に協力いただき、輸送している。新しいルートの開発も検討したい。


 


(所感(桐原まとめ))


 99Mo の製造に関しては、国産化が検討されているが、様々な課題があることが分かった。


 主に印象に残った課題は、?費用負担の問題(10億円の初期投資をどうするか)、?ユーザーからのニーズがはっきりしない、?国の考え方が不明確(国の支援の有無)、?技術者の人材問題?技術的な問題(PZCの有効性等)??の5つである。


 今回のパネル・ディスカッションでも、JAEAの河村氏からの発言の通り、供給側が大騒ぎしていて、ユーザー側のニーズがはっきりしていない。「誰が必要なのか」ということがきちんと形になってはっきりしないまま、国の支援もなく、民間のみで10億円を負担してプロジェクトを行った場合、失敗した際には、その資金負担はどうなるのか、疑問が残る。


 OECD/NEAの会合でも、他国はきちんと国の立場の人が参加して議論していたはずであるが、日本からは、国の立場の人の参加はなかった。今回のパネル・ディスカッションでも、国の立場の人が出ていなかった。民間のみで国産化をするのか、国の支援を得てやるのかという大きな方針が定まっていない印象を受けた。


 また、国産化する場合も、国内需要の20%のみの製造で、今後の安定供給を保てるのか?製薬会社は、輸入と国産との両方に対応することになり、また、コスト面に関しても国産のものは採算が取れるかという懸念がある。他の国は、どの程度国が関与しているのか?初期投資が大きいが、万が一製造できなかった場合、初期投資分はどこが負担するのか等々に関しても知りたいと思った。


 現在、日本では国内需要の20%分を製造するということを目標にしているが、今後は、高濃縮ウランが使えなくなることも考えると、今計画されているJMTRでの(n,γ)法による(高濃縮ウランを使用せずに製造する方法)により実証し、将来的には、国内需要の100%製造と海外への輸出も可能となれば、現在世界の供給の14%を使用している日本としても、今後は国際貢献できるのではないかと思った。



以 上



協会からのお知らせ一覧へ戻る