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試験研究炉の早期の運転再開を

2015年10月2日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 高橋 明男

(試験研究炉は全て停止中)

新規制基準の運用開始以降、試験研究炉についても検査期間を迎えた炉は新規制基準への適合性が確認されるまで運転を再開できないため、現在国内の試験研究炉は11基(廃炉予定のものを除く)全てが停止している。炉を持つ大学や研究機関は、原子力規制委員会のヒアリング等を通じて課題を洗い出し、人手不足を補いながら懸命に対処しているものの、審査は長期化しており運転再開の見通しは立っていないのが現状である。

(停止の長期化は大きな損失)

―基礎科学研究の停滞―

試験研究炉は、生命科学や材料工学分野における構造解析、機能解明などの基礎科学研究をはじめ、放射性医薬品などの医療分野、ラジオアイソトープや高品質な半導体の製造などの産業分野、更には福島第一原子力発電所事故の分析研究においても利用されてきており、運転停止の影響は様々な分野に及ぶ。一方、運転スケジュールの不透明さから利用者に敬遠され、原子炉を使った研究や製造が海外施設へ移るなど他の手段に代替されてしまえば、適合性審査に合格しても有効活用されなくなってしまう恐れもあるだろう。発電以外の様々な分野においても試験研究炉はわが国の科学技術の発展に資するものであり、その利用が滞ることは大変な損失であると考える。

―原子力人材育成基盤の欠落―

また、試験研究炉の長期停止は原子力産業に関わる人材の育成にも影響を与えている。原子力専攻の学生に対して原子炉物理の基礎基盤知識を習得させ、その知識の深化を支えるためには、研究炉を使った分析、考察、体感、体得が欠かせない。近畿大学では連携している韓国の慶熙(キョンヒ)大学の研究炉で実習させてもらうなどの措置をとっているが、参加者は全員ではなく選抜メンバーのみであり、在籍期間中に実炉による実習の機会がない学生もでてくることが懸念される。原子力専攻の学生だけでなく、京都大学炉などでは全国の大学院生を対象として、近畿大学炉では教員を対象として、また材料試験炉(JMTR)などでは海外若手研究者・技術者を招聘して、原子炉を使った実験や研修会を実施してきたが、そうした取組みにも影響が出ている。国内外において原子力が今後もその役割を果たしていくためには、基盤となる技術や人材の育成が不可欠であることは言うまでもない。試験研究炉の停止により原子力人材育成基盤の欠落が長期に渡れば、技術の維持発展を支える人材の層が薄くなり、その結果として原子力産業の基盤が失われてゆくため、産業界としても無関心でいるわけにはいかない。

(早期の運転再開に向けて)

停止中の炉が早期に運転を再開できるよう、新規制基準への適合性審査は迅速に行われなければならない。原子力規制委員会は規模や形態が様々な試験研究炉に対してグレーデッドアプローチに取り組んでいるが、被規制者との更なる認識の共有に努め、共に最適な審査の在り方を探る意識を持って柔軟に取り組んで頂きたい。

また、研究機関や大学は、技術的な判断や人員などの面から必要であれば産業界に協力を求めることがあっても良いのではないか。我々原子力産業界は、原子力の安全確保や人材・技術の維持、科学や産業の発展に貢献するためにも、試験研究炉の有用性やニーズを発信すると共に早期の運転再開に向けて協力していかなければならない。

以 上

表: わが国の試験研究炉の状況(廃止予定のものを除く)

2015年10月2日現在

名称 熱出力 所有者 所在地 状況 適合性審査
申請日
原子炉安全性研究炉(NSRR) 300kW 日本原子力研究開発機構 東海 施設定期検査中
(2014.12.1~)
2015.3.31
JRR-3 20 MW 日本原子力研究開発機構 東海 施設定期検査中
(2010.11.20~)
2014.9.26
定常臨界実験装置(STACY) 200 W 日本原子力研究開発機構 東海 施設定期検査中
(2011.11.30~)
2015.3.31
高速炉臨界実験装置(FCA) 2 kW 日本原子力研究開発機構 東海 施設定期検査中
(2011.8.1~)
未申請
高温工学試験研究炉(HTTR) 30 MW 日本原子力研究開発機構 大洗 施設定期検査中
(2011.2.1~)
2014.11.26
材料試験炉(JMTR) 50 MW 日本原子力研究開発機構 大洗 施設定期検査中
(2006.9.1~)

※4年間の改修工事等を実施後停止中
2015.3.27
高速実験炉(常陽) 140MW 日本原子力研究開発機構 大洗 施設定期検査中
(2007.5.15~)

※燃料交換機能の復旧等を実施後停止中
未申請
東芝臨界実験装置(NCA) 200 W 東芝 川崎 施設定期検査中
(2014.6.17~)
未申請
近畿大学原子炉(UTR-KINKI) 1 W 近畿大学 東大阪 施設定期検査中
(2014.2.6~)
2014.10.20
京都大学炉(KUR) 5 MW 京都大学 熊取 施設定期検査中
(2014.5.26~)
2014.9.30
京都大学臨界実験装置(KUCA) 100 W 京都大学 熊取 施設定期検査中
(2014.3.10~)
2014.9.30

一般社団法人日本原子力産業協会調べ

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