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特集「終わりのない原子力の安全性向上に向けて」 英国原子力規制庁(ONR) 主任検査官 R.A.サベジ氏

2017年2月27日

信頼される規制 独立性を保ち活動の透明性とオープンな対話が肝要
 - 新規建設など状況変化に対応し、安全性向上に不断の取組み

インタビューに答えるサベジ氏(右)とフィナーティ氏

 英国では、地球環境の視点から原子力計画を着実に進めている。新規建設から廃止措置まで幅広く原子力規制を統括する原子力規制庁(ONR)のR.A.サベジ主任検査官とM.フィナーティ副主任検査官が1月に日英原子力産業フォーラム出席のため来日。この機会をとらえ、ONRの安全性向上に向けた諸課題への取組みをお聞きした。
 両氏の話からは、海外事業者との連携など、状況変化に柔軟に対応する取組みがうかがえたほか、信頼される規制機関として、一般大衆などステークホルダーとの対話を通じ、意思決定における透明性確保に努めるとともに、安全性の向上に向けて、不断の改善努力を続けるONRの姿勢が浮き彫りとなった。

- まず、2014年正式に設立された原子力規制庁(ONR)の活動方針と取組みを強化されている点はどのようなものか。

 ONRは2014年にそれまで複数の組織が担ってきた原子力規制を統括して行い、また独立性を強化した特殊法人(Statutory Corporation)として設立された。設立にあたっては政府や業界からの影響を受けることなく規制に関する意思決定ができる点が重視された。英国のエネルギー法(Energy Act)の中でもONRの独立性を含めて設立の意図が示されている。独立性を確保したことで、原子力施設、放射性物質輸送に関する安全性、セキュリティの両方、原子力施設における安全と衛生についても統括的にみる立場をとり、より効率的な規制活動を可能とした。また原子力計画の進捗に応じて柔軟な対応ができ、現状では、原子力分野においてニーズの高い有能な人材を確保し維持することができている。
 一方、原子力開発計画の拡大が見込まれるなかで、今後とも優れた人材を維持していくことが必要と考えている。現在、ONRは350名の検査官を擁しているが、今後3年から5年以内に400名を超える検査官が必要となり、人材の確保は規制行政の展開にとって重要な課題である。

- ONRが暫定的に始動(2011年4月)した時期には、福島第一原子力発電所事故対応が並行しており、規制当局として安全性向上の指針や具体的な事業での対応がはかられたと聞いている。どのような取組みが行われたのか。

 福島第一の事故対応はONRの規制の在り方にも大きな影響を与えた。本来、英国では原子力に限らず、施設等の安全に責任をもつ事業者(Duty holder)は”できるだけ可能な限り合理的にリスクを低減する(as low as reasonably practicable)こと”が要件になっている。原子力については特にこの考え方が原則として求められている。ONRでは、事業者に対してやり方を指示するのではなく、あくまでも事業者側が安全を担保しながら活動できている旨を示すことを要件としている。
 福島の事故を受けての対応としては、ONRは規制当局として国際的な協力による知見の反映を含めて、非常に大がかりで真摯な取組みを現在も継続中だ。
 もう一つの原則として、事業者には10年に1回の定期的な安全審査(PSR)が求められている。これを実行することで、事業者が確実に良好事例を行う、また最新の技術水準に適合しているかを確認することができる。
 そのほか、福島事故後、2011年9月にまとめた政府の最終的な報告書に38件の勧告が盛り込まれた。規制に向けた勧告について細部まで評価した結果、ONRの体制は非常にしっかりしていると確認された。一方で安全評価については設計基準事故、あるいはシビアアクシデント解析等について強化が必要ということで2014年11月に安全原則が改訂された。原子力施設のセキュリティに関する安全原則も今年3月末までに改訂の予定としている。
 核燃料サイクルの関連施設については、レガシーポンドと呼ばれるセラフィールドにある使用済み燃料貯蔵プールや中レベル放射性廃棄物貯蔵サイロの老朽化にともない、安全面の改善が必要であることが認識された。これらも合理的に可能な限り対応することを目指して、修復を加速化するための基準の改定を行っている。
 総じて、これまでに政府および産業界に出された勧告の80%以上が満たされており、特に重要なものは網羅されていると認識している。そして必要な原子力発電所の追加的な安全対策などが実施されてきている。しかし、一番大切なことは、それらの対策に対して慢心しないことで、セラフィールドの施設に対する対応や、新設炉建設にあたっての規制活動にもそうした姿勢が反映されている。

- ONRは、昨年2016年に陣容を一新し、2020年までの新たな戦略計画を策定しているが、新体制が目指す方向性と、目標はどのようなものか。

 政府の方針により扉が開かれた新規建設をはじめ、既存の運転中の原子力施設及び国防に関わる施設、廃止措置、セキュリティの4分野の事業に取り組むため新体制を敷いた。新規建設とセラフィールドのリスク低減が特に優先度が高い。また改良型ガス冷却炉(AGR)など高経年炉の廃止措置への対応を進めている。(放射性廃棄物の)地層処分施設の建設許認可に関する対応は今後の重要な課題だ。
 その他、関連する最新技術やイノベーションへの目配りをしつつ、英国の倫理規定に基づく法令を遵守している企業の成長を促す立場での規制(Enabling Regulation:注参照)に取り組んでいる。このEnabling Regulationについては、規制を受ける企業などの行動規範に着目し、規制対象のレベルに応じ適切な規制が必要であると考えている。特にマグノックス炉については、廃止措置が終わった後の段階では相応の適切な規制の在り方が必要で、ONR以外の組織による規制を含めて対応を考えることにしている。14基のAGRについては、運転期間の末期に来ているが、運転延長を求めるところがあれば、それを支援していくことが必要となる。
 また、SMRについても開発が進んでいる。技術的課題もあるが、イノベーションへの挑戦についても理解し、新しい技術への正しい規制を進めることが求められる。特定の技術に偏ることなく、設計や技術に中立的に規制することで、イノベーションを育てることに繋がる。

- 現在、日本や中国など海外からの軽水炉の導入が進みつつあり、先般も中国の最新型の華龍1号の審査に入るという報道があった。海外の事業者の参入に対し、特にどのような点に配慮されているか。

 つい先日、政府から中国の華龍1号(HPR1000)についてのGDA(包括的設計審査)について依頼があった。GDAは4つの段階から構成されているが、第一段階が非常に重要で、いわば土台の部分にあたる。申請者が評価を受ける条件が整っているか確認し、また、その企業が、要求される英国の規制事項についてきちんと理解しているかの確認も必要となる。特定の設計についての審査は、ONRに専任のチームを設け、例えば日本で設計を行う技術者との会合も、何度も互いの国を行き来しつつ開催している。そういう中でONR側は設計についての理解を深め、日本側は英国が期待している内容や問題点についての理解を深めることになる。ONRにとって、専任チーム要員の能力が高いことが非常に優先度の高いものとなっている。
 なお、GDAは一般的な設計に関する審査であり、その他サイト固有の適性評価(SSA)を経て許認可付与に至る。ONRは事業者の能力などを評価するにあたって、国際的に規制当局との連携により、他国での新規建設における教訓や、問題点などについて情報を共有する多国間設計プログラム(MDEP)に参加し有益な知見を得ている。

- 福島第一原子力発電所では汚染水対策が課題となっている。多核種除去設備ではトリチウムが除去できず、漁業関係者らの風評被害を懸念する声から、処理水の海洋放出に至っていない。一方、英国ではトリチウムを含む水の放出を行っていると聞くが、規制の立場から住民に対する説明をどのようにされたのか。

 ONRは廃止措置中の原子力施設においては、運転停止した施設が段階的にリスクを下げながら、プロセスを進めていくことができるようにとの観点で規制を実施している。最終的な形と全体像を見据えて、様々なオプションの中で最適なものを見極めた上で規制を実施することが大切だ。
 中でも一番大事なのは全てのステークホルダーが参加して議論を行うことで、全てのオプションを洗い出し、十分に包括的な視点で捉えた上で最も総合的にベネフィットのあるものを見つけ出すことだ。ただ、一般公衆の人達がどう受け止めるのかというところが一番大切な要素になると思う。それにはオープンで透明性があることが必要となる。
 ONRが下した決断、規制の中身については、公表しなければならない。それは事業評価報告書という形で発表され、一般公衆に知らせる形をとっている。こうした透明性の確保により、一般公衆からの尊敬や信頼を得ることができる。
 また、施設が立地しているサイトごとにその地域のステークホルダーグループとの定期的な会合も持っている。そこでは、その地域ごとの問題について議論し、より戦略的な形では全国規模で活動しているNGOとも少なくとも年に1回、あるいはそれ以上のペースで対話の場を設けている。より効果的なアプローチを作っていくための継続的な努力を続けている。

- 最後に、福島第一原子力発電所での事故対応や停止中の原子力発電所の再稼働、核燃料サイクルなど多くの課題を抱える日本の原子力産業界などの関係者にメッセージをいただきたい。

 規制する立場として言えば、独立性が大事であること、特に意思決定が独立性を持つことが肝要だと申し上げる。ただし、独立というのは、他から切り離された孤立ではない。事業者をはじめステークホルダーにきちんと関わることが大事なこと。ステークホルダーには、一般公衆も含まれる。一般の人々に我々が出す判断をオープンで透明性を持って示していくことが求められる。我々は活動内容をきちんと開示することが求められているし、我々がそういう立場であることを明確に打ち出すことが必要となる。あくまでもセキュリティを担保した上でのことになるが、規制の役割は透明性をもった意思決定することで、信頼と尊敬を得るということだ。
 経験上、特に廃止措置については、すべてのステークホルダーが建設的な形で話し合い、交渉することが必要だった。最近セラフィールドについて取り組んだことでも言えるのだが、まず、優先度が高いものは何かについての合意を見ることが大事なことになる。プロセスよりも安全を担保して、こういう結果を出したいという目的について合意することが必要だ。お互いを信頼した中で「安全に向けてこういう結果に向けて取り組もう」という目的に向かって、各自の責任で取り組んでいくことが大事なことだ。