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「福島で起こっている本当のこと」 東大・中川氏が台湾で講演、放射線影響に正しい理解を

2016年6月21日

 原子力災害被災地の産業復興に向け、国内外の風評被害払拭が求められている。近隣の台湾でも、日本の食品の輸入規制が依然解消されないなど、放射線について正しい理解が浸透しているとはいえない。実際、福島第一原子力発電所事故以降、台湾では、多くの風評やデマが飛び交い、原子力発電に異論を唱える人たちは事実と反することを吹聴している。「正しい認識が重要」と、台湾電力からの依頼を受け、このほど、放射線とがん治療に関する気鋭の研究者として知られる東京大学医学部付属病院准教授の中川恵一氏が講演を行い、「福島で起こっている本当のこと」を台湾の人たちに訴えかけた。

「福島の今」を訴えかける中川氏

「福島について正しい認識を」と訴えかける中川氏

全数調査をクリアした福島産米を自身も食べる、甲状腺がんの増加は「過剰診断」の影響
 福島県産の米や牛肉は、全数調査が実施されており、「欧米の12分の1以下の厳しい水準」をクリアしたものだけが出回っていると、さらに、自身も「福島産の米を食べている」として、中川氏はその安全性への理解を強く求めた。それゆえに、福島第一原子力発電所事故による住民の内部被ばくは、ほぼゼロに等しく、外部被ばくも最大3mSv/年に留まっているとしたほか、もとより、平均的日本人は「自然被ばくと医療被ばくで合計6mSv/年」を被ばくしており、原子力災害被災地の除染で長期的目標としている「1mSv/年」については、「人体影響の観点からは特段の意味はなく、こだわり過ぎると大量の避難民を出してしまう」と懸念する。
 そして、中川氏は、避難民の生活習慣悪化を指摘し、それにより引き起こされる糖尿病では、がん罹患リスクが20%も高くなるとして、「がんを避けるための避難が、結果的にがんを増やすことになりかねない」と、医学的見地から危惧する。また、「福島で子供の甲状腺がんが130名以上見つかった」という報道が流れていることについては、「過剰診断」といえると推察した上で、韓国の例を示し、近年乳がん検診と一緒に、甲状腺検査も行われるようになり、甲状腺がんの発見が20年で15倍に増えているにもかかわらず、がんによる死亡者は減っていないことをあげ、「もともと甲状腺がんで命を落とすことはほとんどない」とした。
 中川氏は、「わずかな被ばくを怖れて避難を続け、生活習慣の悪化からがん患者の増加が懸念され、無用の検査を続けた結果、既に小児では甲状腺がんの『過剰発見』が進んでいる」と、福島住民への健康影響を巡る「本当のこと」を訴えかけ、台湾の人たちに、福島第一原子力発電所事故から、放射線とがんを正しく理解する重要性に気付いて欲しいとして講演を締めくくった。

台湾では、福島第一・吉田所長の死因は「放射線の影響」との報道も

講演会には、台湾電力、政府関係から、約100名が参集した

講演会には、台湾電力、政府関係から、約100名が参集した

 聴衆から、福島第一原子力発電所で事故収束に当たった吉田所長が食道がんで亡くなったのは「放射線の影響」と、台湾のメディアは報じているとの声があがったのに対し、中川氏は、「事故から亡くなるまで2年半。食道がんはたった一つの細胞が不死化して発症するが、1cm程度の大きさになるまで少なくとも10年間はかかる。事故前から持っていたがんが発症したに過ぎない」と、関連性を否定した。
 さらに、広島・長崎の被爆や戦後日本の復興に関する発言もあり、中川氏は、「安い電力は人々を豊かにして長生きさせる」として、台湾の原子力への取組に対しエールを送ったが、講演会に参加した台湾電力の幹部は「現場をよくご存じの専門家である中川氏の講演は説得力があり非常に有意義だった」などと語っている。

日本も台湾も正しい認識を
 講演会を終えて、中川氏は、「福島の米を食べているというのも皆さん驚かれていた」と、福島産の食に対する誤解があまりにも甚大であったことを振り返った上で、「正しくないことを無理に進めようとすればどこかで破綻する。総合的にはマイナスになる。これは日本も台湾でも同じ」などと感想を述べた。