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特集「震災から5年~福島の復興と再生に向けて」 鈴木茂和福島工業高等専門学校機械工学科准教授・博士(工学)

2016年4月27日

 インタビューシリーズ3回目では、鈴木茂和福島工業高等専門学校機械工学科准教授に、同高専の取り組みについて伺った。鈴木准教授は4月10日と11日にいわき市で開催された第1回福島第一廃炉国際フォーラム廃炉技術展で、学生とともにパネル説明を実施しておられ、その現場でのインタビューとなった。

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Q: 今回のパネル展示では福島高専の女子学生5人が説明を行っていた。福島高専ではどのような学生が学んでいるのか。
A:今回は、福島高専の校長が廃炉国際フォーラムの実行委員会メンバーであることもあって原子力損害賠償・廃炉等支援機構からパネル出展について打診があった。フォーラム開催地のいわき市は福島高専の地元であり、今回人材育成プログラムが文科省に採択されたこともあって、是非やらせてほしいと快諾した。パネル展示ではなるべく学生が前面に出て説明できるよう、インターンシップの報告などを中心として発表している。
 パネル説明を行っている高専生は、いわき市、楢葉町、広野町、会津から来ており、全員が福島出身だ。1人は以前スポーツの大会で中国に遠征したことがあり、その時に福島の状況などを聞かれて正しく説明できなかったことが心残りだという。コミュニケーション情報学科という文系の学科に所属しているが、その経験をきっかけとして、専門的なことを正確に勉強したいと思い、廃炉の授業を受けることにしたそうだ。福島高専生にとって、福島第一原子力発電所事故は身近な問題なので、きちんと勉強して知りたいと興味を持つ学生が多い。
 東日本大震災の時、自身は担任していた5年生の卒業判定の会議中であったが、当時はこれほどひどい状況になるとは想像できなかった。結局その年は卒業式もできないまま今まで来てしまった。津波に流されそうになり、家の柱につかまって助かったという学生はいるが、福島高専では、亡くなった学生がいないということが唯一の救いだ。

Q:福島第一原子力発電所事故から6年目を迎え、貴校ではどのような取り組みを行っているのか。
A:福島高専では、廃炉に携わる人材を育成することに力を入れている。環境回復といったオフサイトに関係する面でも、多岐にわたる人材を育成していきたい。最初は廃炉そのものに力点を置いていたが、状況を聞いていく中で、環境回復の重要性が大きいことがわかり、少しずつこうした方向へ向けて準備を始めている。
 当初は地域復興人材育成事業として、再生可能エネルギー、原子力安全、防災・減災工学の3分野に関する専攻科授業を立ち上げ、大学や研究所から専門の講師を呼んで授業を行った。事業としては2015年度で終了したが、この取り組みはその後も継続している。特に原子力安全については、今後も廃炉と向き合っていくための重要な分野として、文部科学省「廃止措置研究・人材育成等強化プログラム」に応募し、2014年度の事前調査事業(FS)に採択され、2015年度に正式な採択となった。
 2014年度には福島高専が中心となって、全国の高専をはじめ、大学、企業、自治体など約120名で構成される「廃止措置人材育成高専等連携協議会」を設立し、研究と人材育成を進めている。福島高専だけでは学生の人数が限られてしまうが、現在全国には51の高専があり、1学年あたりでは約9400人が学んでいる。その中の一部でも原子力や廃炉に興味を持ってもらえれば相当な人数になる。

Q:廃炉を新たな学びの機会として活かすために、どのような工夫をしているのか。
A:2015年度採択の文部科学省「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」の一環として、全国の高専を対象とする「廃炉創造ロボットコンテスト」を楢葉町の楢葉遠隔技術開発センターで2016年12月に開催する。NHKでも「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」を行っているが、より社会に役立つコンテストという形で行いたいと考えている。ロボットに興味を持っている高専生は多い。学生が考えて作った案を企業が評価して採用し、それが製品化されれば学生の就職につながるかもしれない。これをきっかけとして、いろいろな学生が廃炉や原子力に興味を持つようになればいいと思う。廃炉に関する人材育成を、もっと全国の高専に広めていきたい。
 学生のうちは学外に行ったり学外の人と話したりする機会はあまり多くないものだが、福島高専では、授業を通じてなるべく外部の講師とディスカッションを行ったり現場を見学する機会を作ることが大事だと思っている。経験することがいかに大事か、「座学で学んだだけではバレーボールはできないが、実際にボールを触ってみればルールもわかってくる」とよく学生に言っている。
 授業やインターンシップなど地道に取り組んでいくことで、今までは原子力に対するイメージがあまり沸いてこなかった学生も、技術的または科学的な側面から見て、福島第一原子力発電所の仕事はものすごくやりがいがあるということに気付くのではないか。「ここで使われる技術は世界初」という場面が沢山出てくる。全く状況の分からない建屋の中に入っていくことになるので、宇宙開発と同じだ。せっかく高専で工学を学んでいるのだから、技術的・科学的な視点から廃炉と向き合い、自分の考えで意思決定できる学生を育てたいと思う。

Q:福島高専は産業界や自治体などとの連携にも意欲的だと伺っている。
A:東京電力をはじめとする各企業や日本原子力研究開発機構(JAEA)など、原子力関連の産業や団体とのつながりは深い。それぞれ講師を派遣していただくなど、大変ありがたく思っている。
 環境省から講師を招いた時にはワークショップを行った。除染や食品の放射線量など3~4の課題について、各キーワードに関するイメージや問題点、解決方法について1時間ほど議論した。高専ではクラス替えせずに5年間同じ40人の学生と勉強しており、体育以外では他学科の学生と一緒に授業を受けることもない。この時のワークショップでは他学科の学生とともに議論を行ったので、初対面の学生もいる中で緊張しながらも、だんだんと自由に自分の意見を出せるようになり、新鮮だったようだ。
 福島県も学生の教育に貢献したいということで、一昨年から主に資金面や講師および場所の手配などで協力いただいている。県の除染対策課(現環境創造センター)は、仮置き場の見学や、ディスカッションなどを含めたリスクコミュニケーションの授業を担当している。

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パネル説明をする福島高専生

Q:福島高専の国際的な取り組みについても教えてほしい。
A:福島高専では、国際的に活躍できる人材の育成に重点を置いている。特に文系学科はTOEICの平均点も高く英語力に定評があるが、工学系でも積極的に学生を海外に連れて行き、経験を積んでもらいたいと考えている。廃炉についてもっと学びたいという思いから、JAEAで1週間勉強した後に、スウェーデンのスタズビック社などで1か月ほど研修に参加する学生もいる。
 今回の廃炉国際フォーラムには外国からの参加者も多く、学生たちは片言の英語ながらも頑張って説明している。このような場に参加して外国の方と話す機会を持ち、フォーラムの聴講やパネル展示で海外の技術について触れることで、「もっと勉強しなくては」という気持ちになってもらいたい。
 隣のブースでパネル展示をしていたキュリオン社とは、2015年11月に廃炉関係の人材育成に関する覚書を結んだ。米国での約1週間の同社インターンシップには、2015年9月に男子学生4名が、2016年3月には女子学生5名が参加した。米国カリフォルニア州アーバインとワシントン州リッチランドのキュリオン社施設を訪れ、放射性物質の分離除去技術や、ガラス固化技術、廃棄物安定化技術などの装置を見学したほか、廃止措置の土地利用として自然環境回復が進められている様子も視察した。また、同社の計らいでフェイスブック社やグーグル社などのオフィス見学という貴重な機会も提供していただいた。帰国後は、参加者それぞれが学んだことを福島でも伝えていくことが大事だとして、今回のパネル展示やネットでの発信などに取り組んでいる。

Q:これからの福島を担う若者たちに対して、どのようなことを望んでいるか。
A:福島高専には素直で真面目な学生が多い。中学を卒業して福島高専に入り、工学を学びたい気持ちはあるが真っ白な状態で、将来どのような道を目指すか一生懸命考えている。進路についてもしっかりした夢や知識を持って、周りの意見に流されずに自分の意思で決めていって欲しい。
 個人的には1人でも多くの学生に廃炉や環境回復に関わってもらいたいと思っているが、それぞれの人生であり、廃炉に関わることだけが全てではない。廃炉や福島第一原子力発電所の状況に関し、現場とは乖離したインターネットなどからのイメージではなく、きちんと現場を見て正確な知識を持ち、自ら判断できる若者に育ってもらいたい。福島県内でさえ今だにタイベックと全面マスクを着用しないと福島第一原子力発電所に入れないと思っている人たちが多いが、実際に視察に行くとほとんどの場所が普通の服装で行動できる。現場を見ると見方が変わる。色々な人の話を聞き、きちんとした知識を持って、自分で判断できる若者が増えることが、結果的に福島の復興にもつながっていくと思う。

<取材後記>
 フォーラムのパネル展示では、米国でのインターンシップに参加した学生から「まだ課題も残っているが、今後福島第一原子力発電所でも取り入れてほしい技術が沢山あった」、「土地利用については元に戻すばかりでなく、新たな技術活用の場としていくことも一案だと思うようになった」などの声が聞かれ、廃炉について自分たちで考えていこうとする姿勢が伝わってきた。廃炉ロボコンなどの新しい取り組みにも今後注目していきたい。(中村真紀子記者)