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インタビューシリーズ 特集「第5次エネルギー基本計画:原子力はどう取り組んでいくか」 第1回

2018年10月2日

第1回:坂根正弘 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会分科会長(コマツ相談役)

 

エネルギー問題は長期的な視野で考えることが重要
当面は、再生可能エネルギーとともに原子力発電の活用が現実的な選択

 

 第5次エネルギー基本計画では、従来の2030年のエネルギーミックスのあり方など基本的な方針や政策が踏襲されるなか、2050年を見据え、エネルギー問題には長期的視点からの取組みの必要性が示された。
 このインタビューシリーズでは、エネルギー基本計画で示された課題と期待される対応について有識者に、また今後の取り組みについて関係機関に聞いていく。

 第1回は、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の分科会長として坂根正弘氏から、今般の基本計画の取りまとめを主導した立場から問題意識や対応すべき課題について伺った。

 

-エネルギー基本計画策定への検討を通じて、日本のエネルギー問題について改めて思うことは?

 エネルギーは、国民生活ならびにそれを支える経済活動になくてはならないもの。今年の夏は、これまでにない猛暑に襲われ、冷房のない生活は考えられなかったが、そのこととエネルギーがないと生活は成立しないのだということが頭の中で結びついた人はほとんどいないと思う。それだけ、エネルギーはあって当たり前になっている。
 また、原子力発電が殆ど停まっている現在、日本は化石燃料に依存している。その化石燃料は、将来途絶える可能性があることを認識する必要がある。
さらに、先進国である日本は、これから発展する途上国が将来のために使える資源の利用技術を高めるように協力するとともに、資源そのものを彼らに残す責任がある。

 

-今回は、初めて2050年という長期的視野も見据えた形でのエネルギー基本計画となりました。前回のエネルギー基本計画との違いあるいは、特に強調したい部分は。

 特筆すべきは、2050年に向けた長期展望を加えたこと。私はかねてから最終的に化石燃料が枯渇した後のエネルギーをどうするのか、ということを、地球的規模の視点で、人類の生存のためにも検討すべきであり、絶対に譲れない基本軸であると言ってきた。今回、並行して有識者懇談会による検討が行われ、長期的な展望を設定することができたのは大きな成果であると評価している。

 

-エネルギー基本計画の議論では、再生可能エネルギーの利用をもっと拡大すべきという点が強調されていたが。

 資源に乏しい島国日本が自前で活用できるエネルギーは、再生可能エネルギーと原子力発電に限られる。しかもこの二つのエネルギーはCO2を排出しないことから温暖化とエネルギー資源の枯渇の両方の問題解決につながる。
再生可能エネルギーについて、世界の趨勢から日本の対応が遅れているという指摘がある。しかし、電力系統の連繋システムが構築されている欧州と同じ土俵で議論することには無理があるのではないか。ドイツのように2020年代に原発をゼロにするといっても隣のフランスやチェコから原子力発電の電力を買えるといった電力の融通が臨機応変にできるわけではない。同じ島国である英国と比較しても、日本は対岸の中国、韓国、北朝鮮、ロシアとの間に連結網を作るにも、外交的なハードルを取り除く必要がある。また、海底ケーブルなどを敷設するにも膨大な投資が必要となる。
 それらを克服したとしても、未来永劫、エネルギーの安定供給が確保できるという保証はない。当面は、これらの条件を踏まえて、再生可能エネルギーと原子力発電の活用を行うことが現実的な選択である。

 

-エネルギー基本計画の中で、原子力に与えられた課題として、更なる安全性向上によるリスクの抑制が挙げられている。この点について、どのように考えておられるか?

 日本は、大変残念なことに福島第一原子力発電所事故を経験した。だからこそ、原子力の安全性を追求していかなければならない。福島での事故は核爆発ではなく全電源喪失により原子炉を冷却できなくなり、水素爆発が起きたわけだが、多くの国民は、原子力発電は核爆発を起こすと誤解している。しかし、仮にそうした誤解が解けたとしても、より原理的に安全な原子力発電を考えださない限り、原子力の比率を下げようという考えしかでてこないであろう。しかし、資源のない日本は原子力技術を手放すわけにはいかない。日本が将来を見据えて、経済的にも、科学技術的にも国際的地位を保ち、国民生活を守るためには再生可能エネルギーの普及を進めていくと同時に、原子力発電も安全性を高めながら活用していく必要がある。

 

-信頼を得るためには、廃炉や廃棄物処理・処分などのバックエンド問題への対処が必要となるが。

 原子力を利用する限り、放射性廃棄物処分について国民の理解を得ることが不可欠の課題となる。最終処分については、国際的に地層処分の科学的知見が認められているが、その理解のためには、更なる技術的課題解決とともに、理解活動の展開が重要。理解を進めるにあたっては、情報の提供のみに依拠することなく、相互対話など、理解を得る成功例を持つ諸外国の例を学びながら、日本の環境に即した形で関係機関一丸となった取り組みに期待する。
 どの民主主義国家もNIMBY(Not In My Back Yard)が一番難しい課題になる。即ち「その必要性はわかるが自分の裏庭だけは困る」といった反応。特に原子力発電の場合、本当の地元よりその周辺の反応である場合も多い。しかし、国家の防衛やエネルギーの安全保障にかかわる場合、まさに政治と行政がNIMBYを克服することは最大の責務である。

 

-エネルギー基本計画の中で、原子力分野において直ちに着手すべき課題として、人材・技術・産業基盤の強化が挙げられている。

 日本のエネルギー自給率は、福島での原子力発電所事故前は、20%程度であったが、現在は、約8%と言われている。資源のない日本が、エネルギーそのものを自給できないのであれば、せめて技術力の自給に努めなければならない。
 今、再生可能エネルギー普及に年間2兆円以上のFITを国民は負担しており、この大半が太陽光発電だが、原材料のシリコン、そしてその加工技術は中国依存になりつつある。エネルギー分野の技術力で、日本がリードしているのは、石炭火力と原子力発電の技術だが、今のような状況でこの分野に若い人が魅力を感じるだろうか?エネルギーの供給とCO2削減の課題は国の国際競争力と経済力を維持できることが確認できたうえで、初めて双方のバランスを議論できる。経済力を失うというような大きなリスクをとることはできないし、国がじり貧になってしまっては元も子もない。
 日本は、約60年という長い時間をかけて原子力技術を培ってきた。福島第一原子力発電所事故を経験したからこそ、小型原子炉をはじめ、安全性の高い次世代の原子炉の開発を目指し、研究を進める必要がある。日本は、自ら人材や技術を放棄することがあってはならない。

 

-先の質問にも関係することとなるが、原子力については、安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求が求められている。また、経産省も小型炉の開発について予算をつけるなど、国としても後押しする姿勢が見えてきた。

 これまで、原子力発電は核燃料サイクルを回すことによって、資源を無尽蔵に有効利用できるとみられていた。ウランも枯渇性資源であり、だからこそ高速増殖炉の実用化が期待されてきた。将来的には核融合というコンセプトにたどり着くのかもしれないが、その前段階では、より安全性の高い原子炉を追求しなければならない。
 我が国こそ、小型モジュール炉や高温ガス炉などあらゆる可能性を追求し、原子力の安全性についての技術開発の可能性を探り続けなければならない。

 

-最後に、2050年の日本を見据えて、日本のエネルギー、あるいは原子力産業に期待することは?

 日本は、2050年ごろには、人口が1億人を割り込むと予想されている。しかし、だからといって電力需要が下がるだろうか?自動車のEV化など世界共通の電動化へのニーズに加え、日本では高齢化率が上がり、生活への便利さを要求する傾向は高まると予想される。また、労働力を補うためのロボットなど機械化も進むだろう。
 しかも、先の質問でも答えたように、日本が近隣諸国とエネルギー需給で連繋網を設けるのは、難しい状況にある。国際的にも、日本は安全で便利、快適な国と評価されている。経済、技術力がそれを支えていることは明白である。しかし、安定して安価なエネルギー供給が根幹になければ、実現できない。
 そのためにも、再生可能エネルギーをより有効に利用することと、原子力技術の活用は、欠かせない。
 化石資源が枯渇するまでに世界と日本が取り組むべきことは①画期的再生可能エネルギー技術を開発、実用化し、化石資源の完全代替エネルギーを確保すること②それまでの間、原子力安全技術とサイクル技術に国を挙げて取り組むこと③新興国や途上国は化石資源保有国も多く、彼等に、より効率的な利用技術を開発し提供していくことである。
 この国は3.11(2011年)の前は京都議定書で世界の温暖化対策をリードし2009年のCOP15では当時の鳩山首相が2030年までに原子力発電の比率50%、再生可能エネルギーの比率20%を合わせてゼロエミッション70%を達成すると世界に発信して驚かせたが、今やゼロエミッション比率18%と全く逆行してきている。来年、日本で開催されるG20において安倍首相は「エネルギーと地球温暖化(パリ協定)」をメインテーマにしたいと発表されているので、ぜひ政府には原子力の問題から逃げずに全体最適論でこの国の意見集約を進めて欲しいと願っている。

お問い合わせ先:政策・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)