lights on with nuclear

 [JAIF]原産協会メールマガジン

JAIFロゴ
原産協会メールマガジン2月号
2014年2月25日発行

Index

■原子力政策推進活動

 □原子力発電に係る産業動向調査2013(2012年度調査)の概要
 □ 「サイエンスカフェ虹」勉強会開催を支援
 □「原子力人材育成ネットワーク」で年度報告会を開催

■情報発信・出版物・会合等のご案内

 □第47回原産年次大会開催のご案内

■会員との連携活動

 □第14回原産会員フォーラムを開催 -核セキュリティ対策の現状と課題についてなどで講演

■ホームページの最新情報

■原産協会役員の最近の主な活動など

■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【55】

■げんさんな人達(原産協会役・職員によるショートエッセイ)


本文



■原子力政策推進活動

□原子力発電に係る産業動向調査2013(2012年度調査)の概要
 
 当協会は2月19日、2012年度の原子力発電に係る産業動向に関するデータをとりまとめ、その概要を公表しました。調査対象は当協会会員企業および原子力発電産業に係る支出や売上、従事者を有する営利を目的とした企業で、対象企業数は486社、うち216社(電気事業者11社、鉱工業他205社)から回答を得ました。調査実施期間は、2013年7月~9月。

 今回の調査は、東京電力㈱福島第一原子力発電所事故後、一部のプラントを除いて原子力発電所が停止していた2012年度が対象です。また、前年度に引き続き原子力発電所の長期停止による立地地域への影響を把握する目的で、定量調査では「立地道県内における地元雇用者数」を調査したほか、アンケートによる定性調査では「原子力発電所の運転停止に伴う各社への影響」を継続調査しました。

 2012年度の原子力産業の動向をめぐっては、電気事業者の支出高が過去最低水準となったほか、鉱工業他の売上高、受注残高が落ち込む等、原子力発電所の運転停止により経営環境が大幅に悪化しているものと見られる結果となりました。アンケート調査による今後の見通しについても、大半の企業が今後も減少する見込みと回答していることから、多くの企業が今後も厳しい状況が続くと考えていることが伺えます。一方で、2013年度に比べて景況感、売上額ともに良くなる、増加、横ばいの回答も増加していることから、一部で業界環境の改善への期待も垣間見えます。

 原子力関係従事者数は電気事業者がやや減少、鉱工業他がやや増加となり、全体としては微増しています。原子力関係産業の地元雇用者数は電気事業者、鉱工業他ともに増加となりました。アンケート調査による売上以外への影響として、「雇用(人員)・組織体制」への影響を挙げる企業担当者が多いものの、調査時点では実際の数値には表れていません。

 また原子力発電所立地道県の企業との取引状況については、回答企業全体の約3分の1が立地道県の企業との取引があり、かつ取引額を減少させていることから、運転停止により立地道県の企業は売上減少の影響を受けていることが伺える結果となっています。原子力発電所の運転停止の長期化に伴い、地元経済への影響がさらに表れてくると思われます。

※なお本調査結果は、報告書として3月中旬に刊行予定です(販売価格:会員企業6,000円、非会員企業9,000円)。


【表1】主要調査項目の調査結果
http://www.jaif.or.jp/melmag_db/2013/0225doukou1.pdf

【図1】主要調査項目の2011年度比較
http://www.jaif.or.jp/melmag_db/2013/0225doukou2.pdf

【図2】原子力関係支出高、売上高、受注残高の推移(単位:億円)
http://www.jaif.or.jp/melmag_db/2013/0225doukou3.pdf

【図3】原子力関係従事者数の推移(単位:人)
http://www.jaif.or.jp/melmag_db/2013/0225doukou4.pdf


□「サイエンスカフェ虹」勉強会開催を支援 

 原産協会JAIF地域ネットワークは2月7日、青森県五所川原市内に於いて、五所川原市民の学習グループ 「サイエンスカフェ虹」(代表:境谷葉子氏)主催の勉強会の開催支援を行いました。(「サイエンスカフェ虹」は昨年新たにネットワークに参加したグループで今回初めて地域での勉強会開催支援を行いました。)

 この勉強会は、元財団法人 環境科学技術研究所の笹川澄子氏が講師を務め、前半は「私たちはなぜ勉強するのか」をテーマに話題提供を行った後、原子力の便宜とリスクについて参加者全員に意見を聞き “原子力について一方的ではなく多面的に考えてみましょう”と“報道等を鵜呑みにするのではなく、まず考える事が大切”、と呼びかけました。
 後半のワークショップでは、朝日新聞が主催する「高校生科学技術チャレンジ」(※)で、「折り紙を用いた多面体の切断・分割と空間の充填」をテーマとし、2010年度文部科学大臣賞を受賞した木村麻里さんの作品「連鶴・つなぎ鶴」に挑戦しました。
 この勉強会には五所川原市民の他、青森市や弘前市、六ヶ所村など近隣の市町村からも主婦層を中心に約30名の参加がありました。

※高校生科学技術チャレンジ(JSEC)とは
 高校生科学技術チャレンジ(Japan Science & Engineering Challenge、通称JSEC=ジェイセック)は、2003年に朝日新聞社主催で開始した科学技術の自由研究コンテスト。2011年よりテレビ朝日が主催に加わりました。対象は高校生と3年生までの高等専門学校生です。

   
勉強会の様子 



□「原子力人材育成ネットワーク」で年度報告会を開催 

 将来の原子力界を支える人材の育成・確保に向けた産官学連携の取組み「原子力人材育成ネットワーク」の平成25年度報告会が2月4日、都内で開かれ、関係者約80名が参加しました。

 ネットワークでは、高等教育、国内人材国際化、初等中等教育支援、実務人材育成、海外人材育成の5つの分科会で情報交換したり、国際・国内研修等を連携実施したりするほか、共通する課題等について検討しています。ネットワークには、現在、大学、高専機構、電力会社、メーカー、研究機関、関係団体、国等の71機関が参加しています。

 報告会では、各分科会に関係するさまざまな取組みについて活動状況が発表されたのを受け意見交換しました。

 このなかで、初等中等教育支援分科会からは、近畿大学原子力研究所の芳原新也先生(=写真右)より、同所で1991年から実施している熱出力1Wの研究炉(UTR-KINKI)を利用した学校教職員向けの実験研修会について発表がありました。1Wの研究炉に「間近で触ってみる」、「構造をぱっと見る」ことを通じ、放射線は制御できることを体感し、現場教育での先生方の授業実践に役立ててもらう意義が述べられました。研修会の累積受講者数は、校職員だけで約5,000人に上ります。受講を通じて、過剰な安心感や恐怖感の緩和、知識の体系化につながったなど、受講者にとって教育効果に実感があったものと評価しているとのことです。また、福島第一原子力発電所事故後は、研修会の参加希望者が増えているとのことでした。
 ところが、この小さな研究炉にも新規制基準が適用されます。このため、この炉は、今年上期に定期検査終了後は、規制をクリアするまで運転できなくなるということも説明されました。


 初等中等教育関係でもうひとつ発表がありました。
 国際原子力機関(IAEA)の中等教育専門家会議(昨年11月、ウイーン)に、ネットワークよりお願いして東京大学の飯本武志先生(=写真左)に参加いただきましたが、先生より、IAEAとしては、STEM(科学、技術、工学、数学)教育を推進するなかで、原子力・放射線について中高校生の早い段階から教えることが重要と考えているようだと説明されました。また、日本では、原子力・放射線教育について、授業等で使える、「はかるくん(簡易放射線測定器)」の普及活動が進んでいることや放射線副読本がすでに利用されていることなどから、これらの日本の進んだ取り組みがIAEAの検討の場でも役立つだろうと述べられました。ネットワークとしては、日本の放射線教育の経験を上手にIAEAにインプットしていきたいと考えています。

 報告会では、分科会の発表の後、「学生の原子力離れを防げるか」と題する討論を行いました。当協会が12月に大阪、1月に東京で開催した「原子力産業セミナー」の来場学生数、参加企業数の動向について、また、福島工業高等専門学校から、国内33高専連携によるインターンシップなどを通じた基礎技術者育成事業についてそれぞれ説明がありました。これを受けて、参加者からは、大学からも高専に出向いて優秀な学生の関心を喚起する必要を指摘する声や、電力供給などの社会的使命を示すべきといった意見もありました。


■情報発信・出版物・会合等のご案内

□第47回原産年次大会開催のご案内

 既報のとおり、当協会は本年4月15日~16日、「原子力への信頼回復 ─ 産業界の決意」を基調テーマに、第47回原産年次大会を東京国際フォーラムホールB7で開催します。

 年次大会では、エネルギー・原子力開発利用上の重要な問題についての意見発表や討論を行い、大会を通して得られた重要課題とその解決策を見出すための指針をとりまとめ、国や産業界への問題提起、さらに、マスメディア等を通じて広く社会へ発信することを目的としています。

 第47回原産年次大会広告
 http://www.jaif.or.jp/melmag_db/2013/022547ad.pdf

 第47回原産年次大会の情報は、随時ホームページにてご案内いたします。
 http://www.jaif.or.jp/ja/annual/47th/47th-annual_kaisai.pdf


■会員との連携活動

□第14回原産会員フォーラムを開催 -核セキュリティ対策の現状と課題についてなどで講演

 当協会は1月30日、「第14回原産会員フォーラム」を東京・東海大学校友会館で開催し、公益財団法人 核物質管理センター 理事長内藤香氏に「核セキュリティ対策の現状と課題」、また、元原子力委員会委員長代理ウィーン代表部大使遠藤哲也氏に「核燃料サイクルと日米原子力協定」と題してご講演をいただきました。

 内藤氏からは、核セキュリティ・核物質防護に関する国際規範、核物質防護体制、防護措置の強化、具体的な防護措置等の現状についてのお話があり、続いて、遠藤氏からは、1955年締結の日米原子力協定(個別同意制度)を1988年締結の現行協定(包括事前同意制度)に改訂するにあたっての難交渉に関する話の後、日本の原子力の現状等に照らし2018年の改訂に向けての課題等についてのお話がありました。

 講演会には約60名の会員が参加され、活発な質疑応答も行われました。

 講演資料は当協会の会員専用ページに掲載しております。
 https://www.jaif.or.jp/member/



■ホームページの最新情報

□原産協会HP(一般向け)の更新情報 (http://www.jaif.or.jp/ )

*国内、海外ニュースは毎週および随時更新しております。

・原子力産業セミナー2015報告書(2/24)
・第47回原産年次大会の参加登録について (2/21)
・プレスリリース「原子力発電に係る産業動向調査2013(2012年度調査)」(速報版)(2/21)
・創立記念日休日のご案内 (2/20)
・福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等の状況 (随時)
・福島地域・支援情報ページ (随時)
 地元自治体の動きやニュース、地元物産・製品等の情報を掲載中
・「日本の原子力発電所の運転・建設状況」を掲載 (随時)

□JaifTv動画配信

・第52回「汚染水の解決を探る」(11/20公開)
http://www.jaif.or.jp/ja/jaiftv/archive54.html

□会員向けHPの更新情報( https://www.jaif.or.jp/member/ )

・映画「パンドラの約束」の試写会のご案内 (2/13)
・第15回原産会員フォーラムの開催について 新着情報 (2/7)
・【日本の原子力発電所の運転実績】1月分データ (2/14)

□英文HPの更新情報( http://www.jaif.or.jp/english/ )

・Atoms in Japan:英文原子力ニュース(AIJ) (随時)
・Fukushima & Nuclear News (随時)
・Status of the efforts towards the Decommissioning of Fukushima Daiichi
 Unit 1-4 (随時)

[Information]

* Nuclear Power Plants in Japan as of February 17, 2014 (2/17)
* Nuclear Power Plants in Japan as of February 1, 2014 (2/3)
* [AIJ FOCUS] JAIF Chairman's New Year's Greeting (1/20)
* Stress Test and Restart Status (随時)
* Current Status before and after the earthquake (随時)
* Operating Records of Nuclear Power Plants (随時)
* Developments in Energy and Nuclear Policies after Fukushima Accident
 in Japan (随時)
* Trend of Public Opinions on Nuclear Energy after Fukushima Accident  
in Japan (随時)


[福島事故情報専用ページ] 「Information on Fukushima NuclearAccident」 (随時)


■原産協会役員の最近の主な活動など

[服部理事長]
2/4 H25年度原子力人材育成ネットワーク報告会 (於:飯野ビル4F カンファレンスセンター RoomB)
2/5 第9回原子力の自主的安全性向上に関するWG (於:経済産業省)
2/17 インフラシステム輸出に係る政策懇談会 (於:経済産業省)
2/19 プレスブリーフィング (於:第1会議室)
2/20~21 確率論的リスク評価(PRA)日米ラウンドテーブル (於:三田共用会議所)
2/20  新聞社科学部長と原産協会との会合 (於:第1会議室)
2/21 核物質管理センター理事会 (於:校友会館)
2/24 核不拡散科学技術フォーラム (於:JAEA)
2/25 第10回原子力の自主的安全性向上に関するWG (於:経済産業省)
2/26 CLSAジャパンフォーラムでの講演 (於:グランドハイアット東京)
2/27 原子力人材育成戦略会議 (於:第1会議室)
2/28 次代を担う若者たちによるエネルギーワークショッフ ゚(於:泉ガーデンコンファレンスセンター)

[佐藤常務理事]
2/4 H25年度原子力人材育成ネットワーク報告会 (於:飯野ビル4F カンファレンスセンター RoomB)
2/17 業種別企画委員会 (電力)
2/18 業種別企画委員会 (鉄鋼・エンジニアリング・燃料加工、重電機械)
2/19 プレスブリーフィング (於:第1会議室)
2/20 新聞社科学部長と原産協会との会合 (於:第1会議室)     
2/28 次代を担う若者たちによるエネルギーワークショッフ ゚(於:泉ガーデンコンファレンスセンター)


■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【55】

 今回は、このシリーズで今まで取り上げていない、7つの原子力既設国と3つの新規原子力導入国の原賠制度につき、その概要をお話します。

Q1.(原子力既設7カ国の原賠制度)
原子力既設国である カナダ、スペイン、スウェーデン、フィンランド、ベルギー、チェコ、ウクライナの原賠制度はどうような内容ですか?

A1.
 原子力既設国である カナダ、スペイン、スウェーデン、フィンランド、ベルギー、チェコ、ウクライナの原賠制度の概要は次の通りです。

1.カナダ
○最初の原子力責任法(原子力損害の民事責任に関する法律)は1970年に制定(1976年に施行)されて、現行法(Nuclear Liability Act, R.S.C.,1985,c.N-28)は1985年の改正によるものです。この法律は、「定義」、第1編「原子力事故に対する責任」、第2編「賠償に関する特別措置」、第3編「総則」の26条からなっており、その内容は原賠制度の基本的原則を充足するものです。その後、国際条約への加盟を視野に全面的な法改正を目指して、2007年以降に数度にわたり議会に改正案が上程されたものの、いずれも廃案に終わっています。
○その後、2013年12月初めにカナダ政府はIAEAの補完基金条約(CSC)に署名し、この批准に向けて、損害賠償措置額を7500万カナダドル(約69億円)から10億カナダドル(約926億円)に引き上げる、原子力損害の範囲を拡充する(経済的損害、環境損害、防止措置費用など)、賠償請求期間(除斥期間)を延長(10年から30年)するなどを盛り込んだ改正案を早期に議会に提出するとしています。

2.スペイン
○原子力損害賠償制度は、1964年原子力法の7章「民事責任」、8章「補償範囲」、9章「補償の請求」、10章「国の関与」の45~68条にその基本的事項が規定され、その後の改正を経て、現行の2007年改正法となっています。
○本法律には、原賠制度に関わる厳格責任・責任集中・免責事項(45条)、輸送時の責任(47、48条)、人身損害と財産損害に対する賠償方法(51条)、賠償限度額(52条)、損害賠償措置(56条)、賠償請求に関わる訴訟(65、66条)、賠償請求期限(67条)、賠償に関わる国の関与(68条)などが規定されており、原賠制度の基本的原則を満たしています。
○また、スペインはパリ条約及びブラッセル補足条約に加盟しており、2007年の国内法改正では、今後に発効する予定の改正パリ条約を充足するため、原子力損害の範囲の拡大や賠償措置額の7億ユーロ(約985億円)への引上げ等を盛込んでいます。

3.スウェーデン
○スウェーデンは、パリ条約及びブラッセル補足条約を1968年に締約し、その後も、1971年放射性物質の海上輸送に係るブラッセル条約やジョイント・プロトコールに加盟しています。
○1968年に上記条約を締約するため、原子力責任法(The Nuclear Liability Act, SFS 1968:45)を制定し、その後の国際条約の変更に合わせて数度の法改正を行っています。賠償措置額についても、1968年当初の5000万スウェーデン・クローネ(SEK)から現行の33億SEKに相当する3億SDR(約475億円)に引き上げられています。
○スウェーデンは2004年改正パリ条約及びブラッセル補足条約を未だ批准していませんが、この両条約を充足するには、国として1事故あたり最大60億SEK(約945億円)の補償が必要となります。
○また、1986年のチェルノブイリ原発事故に関連して、スウェーデンは事故によりスウェーデン国内で生じた経済的損失を補償する法律を制定して、緊急的な各種対策を構築するとともに、動物の死骸・農産物・ミルクを廃棄する、園芸地域を復興する、商業的な狩猟活動を止めるなどを強いられた被害者への補償として総額2億5000万SEK(約40億円)を配分しています。

4.フィンランド
○フィンランドは、従前よりパリ条約及びブラッセル補足条約やジョイント・プロトコールを批准していますが、さらに、最新の2004年改正の両条約に署名し、早期に批准するための法改正を2005年に行っています。
○これらの条約の下、フィンランドの現行の原子力責任法は、2005年6月に議会を通過し、大統領の署名を経て、改正法(493/2005)として制定されており、当然のことながら原賠制度の基本的原則を充足しております。この改正法には、2004年改正条約の改正事項が盛込まれて、政令により定められた日に施行するとされ、2004年改正条約が発効すると同時に施行されます。
○2005年改正法の主な改正点は、次の通りです。
・原子力損害の定義は、改正パリ条約1条に規定された通り。
・テロにより生じた原子力損害はこの法によりカバーされる。
・原子力施設の運営者は最低7億ユーロの保険カバーを求められる。運営者の責任は、原子力損害がフィンランド国内で発生し、15億ユーロ(約2112億円)まで補償されるブラッセル補足条約の限度を超える場合、無制限となる。
・核物質の輸送に関しては、低責任額を定めることができるが、8000万ユーロ(約113億円)を下回ることはできない。
・本法は、原子力事故時にその領域内にいかなる原子力施設も有しない非締約国の領域内で生じた原子力損害にも適用される。

5.ベルギー
○ベルギーの原子力エネルギー分野における第三者賠償責任に関する法律は、1985年7月22日に施行され、2000年7月11日に改正されています。この法律は、パリ条約及びブラッセル補足条約の内容を充足しています。
○1985年法及びその改正は、厳格責任、責任集中、責任額の制限、責任期間の期限の原則を規定しています。
・原子力施設の運営者の責任限度額は3億ユーロ相当額である120億ベルギーフラン(約420億円)(7条1項)とし、法令により低リスクの施設や輸送に関し、条約を満足する限りにおいて責任額を低減できる(7条2項)。
・運営者には、保険又はその他の資金的保証による賠償措置が義務付けられている(8条)。
・核物質の輸送中に関しても運営者の責任とするが、運送人に責任を移転することを排除しない(14条)。運送人は、資金的保証に対応する文書を保有する必要がある(15条)。
・賠償請求権は原子力事故の日から10年限度とし、この期限を超えた請求の場合には国が事故の日から30年を限度として補償する責任を負う。
○現在、2004年パリ条約及びブラッセル補足条約に加盟するため、法改正を準備中とされています。

6.チェコ
○チェコは、ウィーン条約及びジョイント・プロトコールに加盟しており、このために原子力法(原子力及び電離放射線の平和利用に関する法律No.18/1997)の第5章原子力損害に関する民事責任(32~38条)において、原子力施設の運営者への責任集中、保険付保の義務などを含むウィーン条約における基本的原則を組み込むとともに、国は運営者の賠償措置額を超えた損害に対する補償を行うと規定しています。
○原賠制度に関わる現行法の主な事項は、次の通りです。
・原子力損害に対する責任に関し、民事に関する一般法の規定は、チェコが加盟している国際条約、又は原子力法に規定していない場合に限り適用される(32条2項)。
・原子力施設の運営者は、チェコを法的に拘束するウィーン条約に基づき、原子力損害の責任を負う(33条1項)。
・原子力損害に対する賠償の範囲や方法は、損害賠償に関する一般法が適用される(34条1項)。
・原子力損害の定義には、防止措置や環境回復措置の費用が含まれる(34条2項)。
・原子力発電等の運営者の原子力損害に対する責任は、1施設あたり60億チェコ・コルナ(CZK)(約309億円)を限度とし、低リスク施設や輸送の責任限度は、15億CZK(約77億円)としている(35条)。
・原子力発電施設等の運営者には15億CZK以上、低リスク施設や輸送の場合には2億CZK以上の保険若しくはその他の方法による損害賠償措置を義務付けている(36条3項)。
・損害賠償請求が運営者の保険等による賠償措置額を超えた場合、国は運営者の責任限度額までを補償する(37条1項)。
・損害賠償請求の期限は、3年の消滅時効とし、原子力事故の発生から10年とされる(38条1項)。
○チェコは改正ウィーン条約に署名しており、これの批准に向けて原子力法の改正が検討されています。

7.ウクライナ
○ウクライナの原子力賠償制度は2001年12月13日に成立した「原子力損害と損害賠償措置の民事責任に関する法律(Law of Ukraine on civil liability for nuclear damage and its financial security)」に規定されており、この法律は11条及び附則から構成され、原子力損害に対する賠償支払方法、損害賠償措置、賠償の限度などを定めています。ウクライナは、1996年9月にウィーン条約及び2000年3月にジョイント・プロトコールを批准しており、また1997年9月には改正ウィーン条約及び補完基金条約(CSC)に署名しています。
○この法律の主な事項は、次の通りです。
・用語の定義:この法律における主な用語(原子力施設、原子力施設運営者、核物質、原子力損害等)は、「原子力利用と放射線安全に関する法律(Law of Ukraine on utilization of nuclear energy and radiation safety)」において定義される。(1条)
・他の法律及び国際条約との関係:この法律は、原子力損害の民事責任に関する事項を規定するもので、この法律の規定に該当するものが無い場合に限り、他の法律の規定が適用される。この法律の規定が、ウクライナが締結する国際条約の規定と異なる場合には、国際条約の規定が適用される。(2条)
・運営者の責任:原子力損害に関する原子力施設運営者の責任及びその根拠は、原子力利用と放射線安全に関する法及びウィーン条約に依る。(3条)
・賠償の損害及び支払方法:原子力損害はこの法律に基づき賠償され、金銭上の支払に限る。(4条)
・賠償の支払方法:原子力損害は、保険者の参加の下で運営者と被害者による賠償の合意、若しくは裁判所の判決に基づいて賠償される。賠償支払に関する提訴は、原告及び被告の所在地、若しくは損害を生じた場所のウクライナ裁判所とする。(5条)
・運営者の民事責任の制限:運営者の責任は、1原子力事故当たり1億5000万SDR(約237億円)相当の国内通貨を限度とする。運営者の責任は、死亡に対する場合には2000非課税最低賃金相当額、健康損害及び財産損害に対する場合には5000非課税最低賃金相当額(ただし、実際の損害額を超えない額)、を限度とする。争訟費用は賠償金に含まれない。(6条)
注:現在の最低賃金は17フリヴニャ(UAH)(=約190円)。
・損害賠償措置:運営者は、1原子力事故当たり1億5000万SDR相当額を限度に、原子力損害の責任を担保する資金的保証を確保するため、保険等による損害賠償措置を講じなければならない(強制保険)。国は原子力損害の民事責任に関する賠償措置を保証する。(7条)
・民事責任に関する強制保険:原子力損害に関する強制保険の対象は、運営者の責任となる金銭的な価値のある権益であり、訴訟費用等は含まれない。保険金の支払は、保険事故の発生から1ヶ月を超えない期間内に行う。国は強制保険の料率算出方法を制定する。強制保険を取扱う保険者は、この保険の許可を取得し、原子力保険プールの会員になる。(8条)
・強制保険に関する外国保険者の参加:強制保険を取扱う保険者は、外国の保険プールの会員である国外所在の保険者と再保険取引を行うことができる。(9条)
・賠償に関わる国の関与:損害賠償措置に基づき債務を担う者が破綻した場合、国は賠償支払のための資金を提供する。運営者である原告は国からの賠償に充てる資金を受け取るため、所定の書類を所管機関に提出し、当該機関は適切な書類の受領後1ヶ月以内に資金拠出に関わる決定を行う。国は資金提供に関わる求償権を取得し、資金提供日から5年間を有効とする。(10条)
・チェルノブイリ原発の運営者の責任に関する損害賠償措置の特例:国は、規定に基づきチェルノブイリ原発の運営者に損害賠償措置を提供する。(11条)
・この法律は公布の日から発効する。運営者は、法の発効から1年以内に、この法律に基づき原子力施設を運営するための許可を取得しなければならない。国は、発効後6ヶ月以内に、強制保険に関連する法令を始め、この法律に関わる規準、法令を制定する。(附則)
○この法律に関連する強制保険の規定として、2003年6月に制定の「原子力損害の民事責任に関わる強制保険の手続及び規則(Procedure and Rules of compulsory insurance against civil liability for nuclear damage)」があり、強制保険の役割、関連する法令及び国際条約、用語の定義、保険者の要件、強制保険の対象、保険の免責事項、保険の目的外項目、支払保険金の限度、保険の締結、契約者の権利及び義務、保険者の権利及び義務、保険金請求手続など36項目からなっています。


-----------------------------------------------------------------

Q2.(新規原子力導入3カ国の原賠制度)
新規原子力導入が計画されているアラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、カザフスタンの原賠制度はどうなっていますか?

A2.
 新規原子力導入が計画されているアラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、カザフスタンの原賠制度の概要は次の通りです。

1.アラブ首長国連邦(UAE)
○原子力損害賠償に関する規定は、UAE連邦法2009年第6号の原子力平和利用法(a Federal Law by Decree No.6 of 2009 concerning the Peaceful Uses of Nuclear Energy)の第10章「民事責任と罰則」の57条に定められています。
・原子力損害に係る民事責任は、国の締結した国際条約や協定及びこれらに関連する法令に基づいて決定される。
・原子力運営者(the Operator)は、原子力施設の操業に関し、人身及び財物に生じた如何なる損害に係る賠償責任も負う。
○UAEは、2012年5月に改正ウィーン条約を批准し、さらに2012年8月にジョイント・プロトコールにも批准しています。
○その後、UAEは、最初の原子力発電所バカラ1号機が2012年7月に建設着工(2017年に操業開始の予定)したことを受けて、2012年10月にIAEAの協力の下で国際基準に沿って策定した新たな原子力賠償法案を公表しています。
・原子力施設運営者は、原子力事故により生じた原子力損害に対する責任を無過失かつ集中して負い、その責任限度は凡そ25億UAEディルハム(約698億円)若しくは6億9400万ドルに相当する4億5000万SDR(約711億円)とする。
・運営者は、4億5000万SDRまで保険若しくはその他の資金的保証を義務付けられている。

2.トルコ
○トルコはパリ条約及びジョイントプロトコールに加盟していますが、改正パリ条約(未発効)については、署名しているものの未批准の状況にあり、批准に向けて国内法の整備が進められています。
○原子力損害賠償に係る規定は、2007年11月に制定された「原子力発電所の建設及び操業に関する法律No.5710」の5条(認可・許可・責任)に僅かながら見られます。
・企業(原子力発電所を建設、電気を発電及び販売する会社)は原子力発電所の建設中に生じた如何なる損害の賠償に対する保険を付保する必要があり、加えて企業は、原子力発電所の操業中に生じる輸送、貯蔵、廃棄物の廃棄に係るあらゆる費用や原子力発電所の稼動の最終段階における廃炉に係る費用に対処するため、1kWh当たり0.15セントの分担金を義務付けられる(5条4項)。
・放射性物質及び放射性廃棄物の輸送中、若しくは原子力発電所において、原子力事故が発生した場合、パリ条約及び改正条約やその他の国内法及び国際条約の規定が適用される(5条5項)。
また、1983年12月19日の法令No.83/74045において、原子力施設の運営者は保険若しくはその他の資金的保証を強制されています。
○さらに、2013年には原子力損害賠償に関する特別法が検討されており、早晩、制定されるものと予想されます。

3.カザフスタン
○カザフスタンの原子力損害賠償に係る規定は、原子力利用法(1997年4月17日制定)の一部に規定されています。この利用法は、原子力利用分野における公共に関わる法律上の根拠、原則を明示し、国民の健康・生命を保護、環境の保全、核不拡散や放射線安全の確保を目的としています。
○この法律は、7章25条から構成されており、第1章「総則」、2章「原子力利用分野に係る国の組織」、3章「原子力利用の活動に係る条件」、4章「原子力利用分野における物品及び用役の輸出入」、5章「国民・公共団体・組織の権利・義務」、6章「原子力利用分野に係る権利侵害法上の責任」、7章「国際条約」となっています。
○この法律の原子力損害賠償に係る規定の主な内容は次の通りです。
・原子力施設の運営者は、核物質の適切な取扱いのみならず、施設の安全、電離放射線源、設置場所に関して、全面的な責任を負う(18条1項)。
・運営者は、原子力施設を利用する活動の全ての段階で安全を確保するため、十分な資金、資材、技術、人材を要請される。運営者は、原子力施設等の操業停止、地域の再耕作、放射性廃棄物の埋設、緊急事態による移転、及び国民・団体の財産のみならず国民の健康・生命や環境損害の賠償のために、諸対策を計画し、資金を準備しなければならない(18条2項)。
・運営者は、原子力を利用する設備の担当者が受けた個人の線量を記録し、賠償の権利の行使を確保する(18条3項)。
・国民・公共団体・企業は、原子力事故、放射線事故によって生じた損害に関し、その事故の責任を負う運営者によって賠償される権利を有する(21条)。
・原子力利用分野の権利侵害に関する法令・規則等に係る国民及び官吏の有罪や事故につながる設定条件及び必須条件は、国の法律に従い責任を決定される(23条1項)。
・原子力利用の事柄に関し、偽り情報の拡大のみならず、情報提供の不公正な拒絶、情報の意図的歪曲や隠匿に対して、公的組織やメディアを含む、組織の首脳は法律に従って責任を負うものとする(23条2項)。
・原子力利用の規定の適用の問題に関する紛争は、裁判所により裁定される(23条3項)。
・国の所管部署による解決は、国の法律に基づく命令に対して上訴できる。上訴の申立は国の所管部署により執られた解決の効果を停止できない(23条4項)。
・原子力施設の誤操作の結果、国民の死亡のみならず健康に生じた損害は、国の法令に基づき考察された犠牲者、医療看護費、利益の損害につき、責任を負う運営者によって全面的な賠償がなされる(24条1項)。
・被害者は、原子力設備の誤操作の責任を負う者に対して、財物損害や出費及び救助・移転等に関わる全面的な賠償を法令に基づいて請求する権利を有する(24条2項)。
・原子力設備の誤操作の責任を負う者は、土地の再耕作や土壌の自然肥沃度の回復に係る費用を含め、土地、水、植物相、動物相に生じた損害に対する賠償を定めた規定による(24条3項)。
・国が批准した国際条約の規定が国内法に制定した規定と異なる場合、国際条約の規定が適用される(25条)。
○カザフスタンはウィーン条約及び改正ウィーン条約に加盟しています。


(円換算は2014 年2 月25 日の為替レートによる)

◇    ◇


○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。

最新版の冊子「あなたに知ってもらいたい原賠制度2012年版(A4版324頁、2012年12月発行)」をご希望の方は、有料[当協会会員1000円、非会員2000円(消費税・送料込み)]にて頒布しておりますので、(1)必要部数、(2)送付先、(3)請求書宛名、(4)ご連絡先をEメールで genbai@jaif.or.jp へ、もしくはFAXで03-6812-7110へお送りください。

シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」のコンテンツは、あなたの声を生かして作ってまいります。原子力損害の賠償についてあなたの疑問や関心をEメールで genbai@jaif.or.jp へお寄せ下さい。


■げんさんな人達(原産協会役・職員によるショートエッセイ)


歴史をみる目

・最近、日中や日韓関係が悪化していて、歴史認識をめぐるさまざまな議論も目立ちますが、人によって、歴史の見方には色々な価値観が入るので、多様な見方があることを率直に認めることがまず大事なことだと思います。

・日本のことを言えば、つい数十年前までは武威を重んじる軍事国家で、2度にわたり対外侵略戦争を仕掛けた国という見方もできる。もうすっかり平和な国民、平和国家になったと信じて疑わないのは案外日本人だけかもしれません。

・また、創立して半世紀程度の新国家で、内実は多民族国家、しかも国境を越えた交易ネットワークを世界的に張り巡らせている民族をも包絡した国、中国についてはそういう見方もできます。海を舞台に多様な広がりをもつ東アジアは国という概念だけでとらえられない面があります。

・クニと読めば、故郷、領国、国家などいろんな言葉を表しますが、政治的な場面では自国の優越性など、対立を生む価値観を想起させやすい言葉なので注意が必要です。この言葉が歴史のなかでどう解釈され、織り込まれているのか踏まえる必要がありますが、ともすれば近代以降の国の概念で過去の歴史を見てしまうことも多いのではないでしょうか。

・近代以降、科学技術の発展と相まって、大きな戦争の悲劇が繰り返されました。科学技術の飛躍的な発展の一方で、国と、それを含む文明間の衝突が激化しています。歴史の教訓に学び、歴史を見る目の多様性を理解しないと、これからも悲劇が繰り返されるように思います。

・日本を含む東アジアの歴史については、近隣の国の成り立ちなどを学びながら、過去の歴史を振り返れば、優劣とか勝ち負けでなく、実に多様で広がりのある世界へと視界がひらけていくように思います。   (T.H)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

◇創立記念日の休日ご案内◇  

 来る3月7日(金)は、日本原子力産業協会創立記念日の休日として、事務局の通常業務を休ませていただきますのでご了承ください。


◎「原産協会メールマガジン」2014年2月号(2014.2.25発行)
発行:一般社団法人 日本原子力産業協会 政策・コミュニケーション部(担当:木下、八十島)
〒105-8605 東京都港区虎ノ門 1-2-8 虎ノ門琴平タワー9階
TEL: 03-6812-7103 FAX: 03-6812-7110
e-mail:information@jaif.or.jp
新規配信、配信の解除、メールアドレスの変更は下記まで。

◇新規登録ページ:
https://reg18.smp.ne.jp/regist/is?SMPFORM=pin-ldtik-cc6555e741f6caf8356cc448231abaa8
◇情報変更・配信停止は、melmag@jaif.or.jp までお寄せ下さい。
Copyright © 2013 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved