lights on with nuclear

 [JAIF]原産協会メールマガジン

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原産協会メールマガジン7月号
2013年7月25日発行

Index

■原子力政策推進活動

 □理事長コメント『新規制基準施行に際して-これからの原子力規制委員会に望 むこと-』を発表
 □AFP通信社による服部理事長インタビュー動画の配信
 □中学理科の先生による「放射線授業・支援実践報告会」を開催
 □エネルギーおよび高レベル放射性廃棄物についての対話集会を開催(於 芝浦工業大学)

■国際協力活動

 □フィンランド原子力施設視察とロシア国際フォーラムATOMEXPO-2013原産協会参加団を派遣

■情報発信・出版物・会合等のご案内

 □第47回原産年次大会開催のご案内

■原産協会からのお知らせ

 □組織改編のお知らせ

■ホームページの最新情報
■原産協会役員の最近の主な活動など
■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【51】
■げんさんな人達(原産協会役・職員によるショートエッセイ)

本文

■原子力政策推進活動

□理事長コメント『新規制基準施行に際して-これからの原子力規制委員会に望 むこと-』を発表

当協会は7月8日、新規制基準施行にあたり、理事長コメント『新規制基準施行 に際して-これからの原子力規制委員会に望むこと-』を発表しました。 詳細はこちらをご覧ください。 http://www.jaif.or.jp/ja/news/2013/president_column17_130708.pdf



□AFP通信社による服部理事長インタビュー動画の配信

 7月8日の原子力規制委員会による新規制基準の施行に先駆けて、5日にフランスの国際的通信会社、AFP通信社が当協会の服部拓也理事長にインタビューが行なわれました。
 取材では、新規制基準について、原子力産業界への影響や、原子力規制委員会とのコミュニケーションなどについて質問がありました。

 最終的にフランス国内で配信されたビデオ(46秒)を紹介します。なお、英語版も配信された模様です。

 ここでは、冒頭の「日本の規制当局が、原子力規制に関する新基準を施行した。」というナレーションに続いて、「全ての電力会社は、原子力発電所が新しい規制基準に適合しているかどうか、証明されなければならない。もし、合致しないものがあったとすれば、法律違反ということになってしまうわけです。」という服部理事長のコメントが紹介されています。
 また、原子力の別の専門家の見解として原子力資料情報室の伴英幸共同代表の、「新しい基準は世界一厳しいものとは思わない。もっと国際的な基準に近づいていくべきである。」とのコメントが述べられています。

インタビュー動画(ビデオ版46秒)はこちらからご覧いただけます。
http://www.youtube.com/watch?v=EJLMRYRM5QI



□中学理科先生対象の「放射線授業・支援実践報告会」を開催

 当協会は、全国中学校理科教育研究会(全中理)の後援により、(1)中学校における放射線教育の普及支援(2)放射線教育支援地域コーディネーター構想の普及--の2つを目的に、中学校の理科の先生方を主な対象とする「放射線授業・支援実践報告会」を6月22日、東京の虎ノ門で開催しました(=写真)。

 同報告会には土曜日の午後の開催にもかかわらず、中学校の理科の先生や、教育委員会関係者、放射線授業をサポートしている原子力関係者等、発表者・事務局を含め、40人の参加があり、活動報告に熱心に耳を傾け、真摯な質疑応答が繰り広げられました。

 学習指導要領はほぼ10年ごとに改訂されていますが、平成24年度から、中学理科(3年生)で、「放射線にも触れる」こととなりました。このため、理科の教科書には、発行会社によって半頁~2頁程度、放射線について記述されるようになりました。
 ところが、40歳より若い先生方は、ご自身が学校で放射線について学んだことがないという実情があります。また、福島原子力発電所事故により、放射線についてどのように生徒たちに教えたらよいか悩んだり、教えることをためらったりする先生方もあるということです。

 このため当協会では、先生方が授業で放射線について教えるための参考になるよう、この報告会を企画したものです。また、教育現場と外部機関の連携の橋渡し役として、コーディネーターを配置する構想を「原子力人材育成ネットワーク初等中等教育支援分科会」事務局として当協会が提案しており、報告会で紹介しました(=下図)。


その他の発表の概要は次のとおりです。
○ 八王子の若手教員:教員研修会で学んだ後、放射線について教えているが、震災後は生徒の関心が安全にあるため、放射線についてどこまで解説するか課題と考えている。
○ 横浜の若手教員:震災後、同市が文部科学省放射線副読本をもとに教材を作成し、教員研修、児童・生徒への授業実施を全小中学校に指導したことを受けて授業をした。
○ 郡山のベテラン教員:震災後、放射線から身を守り助け合って暮らすことをめざした授業を行い生徒に発表させ、他教科とのコラボも行った。各地に招かれ放射線授業実践について講演しており今回が30回目となり、今年は韓国でも講演した。
○ 仙台の中学校長:震災前から放射線授業を行っていた。現在は教員を指導する立場にあり、今年初めに教員研修会を実施したが、同市では震災後も放射線教育にあまり関心が高くない。福島とは温度差がある。
○ 美浜のエネルギー環境教育支援員:同町では震災前からエネルギー環境教育を全小中学校で推進している。教育支援員として、学校の先生を訪問し、情報提供したり相談にのったりしている。但し、周辺町には広がっていない。
○ 全中理会長:今後の放射線授業は、基礎知識、影響、利用を含め、気をつけて使っていこうと教えるために学活、総合、理科、技術家庭等で扱いたい。

 このほか、日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門 研究主席の小林泰彦氏から、「放射線利用の最新技術~工業、農業、医学利用に共通する放射線作用の基本原理とは~」と題する特別講演をいただきました。

 当協会としては、今回の報告会開催を通じて得られた教育関係者等とのつながりを大事にして、今後の活動に結びつけていきたいと考えています。


□エネルギーおよび高レベル放射性廃棄物についての対話集会を開催(於 芝浦工業大学)

 当協会は、東京電力福島第一原子力発電所の事故により大きく損なわれた、原子力に対する社会からの信頼の回復への一助とするため、将来を担う若い世代である大学生を中心に、エネルギーの問題、高レベル放射性廃棄物の処分問題について意見交換する活動を行っています。7月6日、芝浦工業大学(東京都江東区)において、工学部3年生の授業の一環として、約100名の学生に「一緒に考えませんか。エネルギーのこと!廃棄物のこと!」と題した対話集会(意見交換会)を開催しました。
昨年に引き続き2度目の開催となる芝浦工業大学での対話集会は、これまで原産協会と交流のあった東京工業大学特任准教授の大場恭子先生のご協力により実現しました。

 当協会からは、まず、エネルギー問題について、①エネルギーセキュリティ、②環境、③経済性、の3つの観点から日本で原子力発電が行われてきたことについて説明を行い、活断層および地震の概要の話も含め、今後、原子力発電をどのように進めるかに関係なく解決しなければならない課題となっている『高レベル放射性廃棄物の地層処分』についての情報提供を行い、その後、学生からの質問に応答する形で意見交換を行いました。

 エネルギーや原子力発電に関しては、「自分の実家の近くに浜岡原子力発電所があるが、今、原子力発電所の稼動が停止しているが、今後はどうなるのか教えてほしい」、「原子力発電において、燃料費から人件費、そして最終的に処分する費用など、トータルでかかった費用と、電気料金からの収入と比べた場合、本当に採算がとれるのか」、「今、止まっている原子力発電所は、今後、すべて稼動させる必要があるのか。今、電力が止まっている訳ではないので、動かす必要があるのかわからない」、「原子力発電所の周辺地域の方々は、万が一何かが起こった時の補償などを考えていると思うが、その対策はできているのか」などの質問が出ました。

 また、高レベル放射性廃棄物処分問題に関しては、「高レベル放射性廃棄物を有効利用する技術はあるのか教えてほしい」、「高レベル放射性廃棄物の地層処分事業は、ビジネスとして成り立つのか」、「原子力発電所はこれからも稼動していくので、これに伴って高レベル放射性廃棄物も発生すると思うが、1つの地下処分場の施設で、何年間分の廃棄物を処分できるのか。施設の容量は、どのくらいになるのか」、「ガラス固化体での1万年の加速試験とは、どのようなことなのか教えてほしい」、「原子力発電所の建設から発電までは、たくさんの人がかかわっており、廃棄物の管理を行うことでも事業が発生し、雇用が生まれてくるが、1000年先に原子力発電よりも有効であるエネルギー源が見つかった場合、廃棄物の事業があるために、エネルギー転換政策が難しくなるようなことはないのか」など、エネルギーと廃棄物に関する質問が出されました。

 原子力の利用を含むエネルギー問題、未だに処分場の場所が決まっていない高レベル放射性廃棄物処分の問題については、まだまだ十分な議論が行われたとは言えない状況にあります。原産協会では、このような対話集会(意見交換会)を、次の世代を担う若者(大学生)や地域で活躍するオピニオンリーダー的な方々を対象として、今後も積極的に行っていこうと考えています。

対話集会の様子



■国際協力活動

□フィンランド原子力施設視察とロシア国際フォーラムATOMEXPO-2013原産協会参加団を派遣

 当協会は6月23日~30日、服部理事長を団長として、フィンランド原子力施設視察とロシア国際フォーラムATOMEXPO-2013参加団を派遣しました。

 フィンランドでは、オルキルオト原子力施設を訪問し、TVO社より、TVO社およびオルキルオトに立地する原子力施設の概要、および建設中のオルキルオト3号機の説明を伺いました。またPosiva社より、フィンランドの使用済燃料の最終処分計画、および建設中の高レベル放射性廃棄物地下処分場実験施設(ONKALO)の説明を伺いました。その後、運転中のオルキルオト1号機、低・中レベル地下最終処分場を視察し、バスにて建設中のオルキルオト3号機と高レベル放射性廃棄物地下処分場実験施設(ONKALO)の外観を見学しました。

 オルキルオト1号機は、Asea Atom社製のBWRで、日本国内のBWRと異なり、オペフロプラグがなく、トップヘッド上部を冠水させた水遮蔽方式を採用していました。オルキルオト3号機については、現在AREVAがEPRを建設中ですが、運転開始が2014年から2016年に延期になるとの見込みとのことです。3号機は約75%完成しているとのことで、現在は4号機の入札に注力している様子が伺えました。低・中レベル地下最終処分場は、深さ60~100mのところにサイロを2つ設置し、コンクリート容器に入れた廃棄物を格納するという厳重な方法でした。ONKALOは、バス移動による施設周辺とトンネル入口までの見学でしたが、アクセストンネルは地上からの深さ約440m、全長約5kmに到達しており、現在最終処分場としての施設の建設並びに処分の許可のための岩盤の性質の最終確認、キャニスタによる処分技術の研究のために使用されているとのことです。

 ロシアでは、サンクトペテルブルクにおいてIAEA閣僚会議が開催されるのにあわせ、ATOMEXPO2013が開催され、両会議に参加するとともに、ATOMEXPOのプレナリーセッションである産業界フォーラムにて、服部理事長がパネリストとして登壇しました。また、ロスアトムのキリエンコ総裁と会談を行うとともに、中央先進訓練研究所(CICE&T)サンクトペテルブルク支部を訪問しました。

 今年で第5回となるロシア国営原子力企業ロスアトム主催の国際フォーラムATOMEXPO-2013は、「21世紀の原子力産業:持続可能な発展のための責任あるパートナーシップ」をテーマに、プレナリーセッションには42カ国からの参加がありました。プレナリーセッションでは、服部理事長が登壇したほか、IAEAビチコフ事務局次長、WNAリーシング理事長、CEAベアール局長、ロスアトム コマロフ副総裁、AREVAウルセル社長、ECファロス局長、中国核工業集団公司(CNNC)ペイゲン副総経理などが登壇し、「21世紀の原子力技術」、「21世紀における原子力の地理的拡大」、「原子力発電所建設への投資呼び込み」をテーマにパネル討論を行いました。

オルキルオト原子力発電所 低・中レベル放射性廃棄物処分場トンネル
ATOMEXPOプレナリーセッション 服部理事長パネル討論登壇


 IAEA閣僚級会議には、主催者であるIAEA天野事務局長とホスト国の露ROSATOMキリエンコ総裁をはじめ、米DOEポネマン副長官、仏CEAビゴ長官、越商工省ホアン大臣、印シンハ原子力委員長、OECD/NEAエチャバリ事務局長、WANOレガルド議長、WNAリーシング事務局長等、多くの要人が参加し、各国の閣僚演説では、多くの国が安全向上に努めながら原子力発電を継続または新規に進めていくと表明し、福島事故直後の停滞感は払拭され、原子力推進への盛り上がりを感じました。

 中央先進訓練研究所(CICE&T)は、国営原子力企業ロスアトムおよび外国の原子力関係従事者、管理者、専門家等の訓練、専門的育成を行うための教育センターで、1967年に設立され、オブニンスクに本部があり、モスクワ、サンクトペテルブルク、エカテリンブルクに支部があります。今回訪問したサンクトペテルブルク支部は、主に建設訓練を行うとともに、地域コミュニケーションおよび国際協力を行っています。また、浮体式原子力発電所のフルスケール・シミュレーターが設置されている様子を視察しました。今後も、わが国の原子力人材育成の参考とすべく、連携を深めていく予定です。

IAEA閣僚会議の様子
CICE&T訪問 浮体式原子力発電所フルスケール・シミュレーター

 



■情報発信・出版物・会合等のご案内

□第47回原産年次大会開催のご案内

 当協会は来年4月15日(火)~16日(水)、第47回原産年次大会を東京国際フォーラムホールB7で開催します。

 本大会は世界の原子力産業界にとって最大のイベントのひとつであり、国内外から広く関係者の参加を得て、当協会が毎年春に開催しているもので、原子力分野に限らない幅広い分野の専門家約1,000名が国内外から一堂に集まります。
 
 年次大会では、エネルギー・原子力開発利用上の重要な問題についての意見発表や討論を行い、大会を通して得られた重要課題とその解決策を見出すための指針をとりまとめ、国や産業界への問題提起、さらに、マスメディア等を通じて広く社会へ発信することを目的としています。
 
 第47回原産年次大会の情報は、随時ホームページにてご案内いたします。
 http://www.jaif.or.jp/ja/annual/47th/47th-annual_top.html



■原産協会からのおしらせ

□組織改編のお知らせ

 当協会は、平成25年7月1日より、事務局内組織を改編しました。
 今回の改編は、各部の役割を明確にするとともに、ガバナンスを確実に行い、部を越えた横断的な取り組みをより円滑に実施することを目的としています。
 今後の当協会の事業運営に当たっては、当協会の強みを生かし、「地域」「国際」「人材」を業務の柱として、わが国の原子力をめぐる課題に対して、これまで以上に積極的に活動してまいる所存です。
 つきましては、今後とも倍旧のご支援を賜わりますようお願い申し上げます。

新体制および電話番号等は下記の通りです。
http://www.jaif.or.jp/paper_db/member-melmag/20130701jaif.pdf


■ホームページの最新情報

□原産協会HP(一般向け)の更新情報 ( http://www.jaif.or.jp/ )

*国内、海外ニュースは毎週および随時更新しております。
・第10回原産会員フォーラム(テーマ別会合)の開催について (7/10)
・理事長コメント『新規制基準施行に際して-これからの原子力規制委員会に望 むこと-』(7/8)
・「英国の原子力産業の動向(報告書)」(7/5)
・日本原子力産業協会事務局の組織変更について(7/1)
・第28回日台原子力安全セミナーへの参加ご案内(6/28)
・【アジア原子力情報】サイトに「モンゴルの原子力発電導入準備とウラン鉱 業」(2013年改訂版)を掲載 (6/24)
・「平成25年度定時社員総会」における今井敬・原産協会会長挨拶(6/20)
・福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等の状況 (随時)
・福島原子力発電所に関する環境影響・放射線被ばく情報 (随時)
・福島地域・支援情報ページ (随時)
 地元自治体の動きやニュース、地元物産・製品等の情報を掲載中
・「日本の原子力発電所(福島事故前後の運転状況)」を掲載 (随時)
□JaifTv動画配信 ( http://www.jaif.or.jp/ja/jaiftv/index.html )
・「第50回 英国の新規原子力プロジェクト-ウェールズ編」(7/1公開)
・「第49回 英国の新規原子力プロジェクト」(6/26公開)
□会員向けHPの更新情報( https://www.jaif.or.jp/member/
・【日本の原子力発電所の運転実績】6月分データを掲載(7/9)
□英文HPの更新情報( http://www.jaif.or.jp/english/
・Atoms in Japan:英文原子力ニュース(AIJ) (随時)
・Fukushima & Nuclear News (随時)
・Status of the efforts towards the Decommissioning of Fukushima Daiichi Unit 1-4 (随時)
・Environmental effect caused by the nuclear power accident at Fukushima Daiichi nuclear power station (随時)
[Information]
* Nuclear Power Plants in Japan (In operation and under construction) as of July 8,2013 (7/12)
* JAIF President's Comment on Enforcement of the New Regulatory Standards(7/8)
* "The UK Nuclear Industry" (Full Report)(7/5)
* Stress Test and Restart Status (随時)
* Current Status before and after the earthquake (随時)
* Operating Records of Nuclear Power Plants (随時)
* Developments in Energy and Nuclear Policies after Fukushima Accident in Japan (随時)
* Trend of Public Opinions on Nuclear Energy after Fukushima Accident in Japan (随時)


[福島事故情報専用ページ] 「Information on Fukushima NuclearAccident」 (随時)


■原産協会役員の最近の主な活動など

[今井会長]
7/25 理事懇談会(於:原産協会 会議室)

[服部理事長]
7/17  エネ庁 第1回原子力の自主的安全性向上に関するワーキンググループ(於:経産省)
7/23 第28回日台原子力安全セミナー(於:如水会館)
7/25 理事懇談会(於:原産協会 会議室)
7/28~7/31 第21回国際原子力工学会議(ICONE21)での講演(於:中国 成都)

[佐藤常務理事]
7/23 第28回日台原子力安全セミナー(於:如水会館)
7/25 理事懇談会(於:原産協会 会議室)


■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【51】

我が国の原子力損害賠償制度の課題(2)原子力損害に関する賠償処理の特徴

Q1.(原子力損害に関する賠償処理の特徴)
今回の原発事故における原子力損害賠償の処理では、一般の不法行為の損害賠償の処理と比べてどのような違いがありますか?


A1.
・大規模な原子力事故により放射性物質が漏出し、広範な地域の汚染が長期間にわたって継続すると、多様な形態の損害が膨大な数に亘って発生することになります。これに対して迅速かつ公平に賠償するためには、一般の不法行為の損害賠償と同様の賠償処理では対応しきれません。
・そのため、原賠法に基づいて原子力損害賠償紛争審査会(紛争審査会)がまずは原子力損害賠償に関わる一般的な指針を策定し、これを参考にして当事者間での自主的な賠償問題の解決を促しています。
・次に、自主的に解決できない紛争については紛争審査会のもとで設置される原子力損害賠償紛争解決センターが和解の仲介を行うとともに、和解事例を基に総括基準を公表しています。
・指針や総括基準は、大量の案件を迅速に処理するために損害の類型や項目、損害額の算定方法等をなるべく定型化し、損害算定基準を策定することで被害者の請求の目安とするとともに、早期の和解を可能にするため加害者側にも協力を求めるものです。
・また、地域や業種でのつながりの深い多数の被災者が賠償を請求することから、賠償額に差が出ると被災者間に不公平感が生じるおそれがあります。こうした懸念を回避し、公平な賠償を実現することも指針や総括基準の役割です。
・さらに、裁判外紛争解決手続きを積極的に活用できるように、時効に対する配慮がなされています。


【A1.の解説】
 大規模な原子力損害が発生すると、広範な地域で多数の被害者が発生し、またその損害形態は多様で期間も長期的になります。そのため、こうした損害に対する被害救済を迅速・公平に処理する必要があります。このような大規模な損害の賠償処理は他の事故では想定しにくく、原子力損害の賠償には一般的な損害賠償とは異なる特殊な処理が求められます。

1.当事者による自主的な賠償処理を助ける仕組み
○賠償責任の明確化と紛争解決機関の設置
原子力損害の賠償責任は「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)に基づく責任集中により請求先が一元化し、無過失責任により立証も容易になっています。原子力損害の賠償に関する紛争については公的な紛争解決機関として原賠法第18条に基づき「原子力損害賠償紛争審査会」(紛争審査会)が設置されることが特徴として挙げられます。
○紛争審査会による指針
紛争審査会は、被害者と加害者の間に立って中立的な立場から「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」を策定します。指針は、原子力事業者が責任を負うべき「原子力損害」の範囲について、社会通念上、原子力事故から当該損害が生じるのが合理的かつ相当であると判断される範囲のものとして、損害の類型と項目が示されたものです。
福島原発事故の賠償においては、多数の被害者の生活状況等が損害の全容の確認を待つことができないほど切迫しているという事情に鑑みて、原子力損害に該当する蓋然性の高いものから順次指針として策定されました。
○指針等を参考とした賠償交渉
指針は法的拘束力を持ちませんが、福島原発事故において東京電力は指針を尊重するとしており、この指針を参考に当事者同士による賠償交渉が実施されています。ただし指針は一定の類型化が可能な損害項目や範囲を示したものであり、全ての損害が示されているわけではないため、指針で示されていない損害については、個別具体的な事情に応じて損害の有無や損害額を判断しなければなりません。こうした問題について被害者と原子力事業者との合意が成立しない場合には最終的には裁判所の司法判断を仰ぐことになります。

2.原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介
○紛争が生じた場合における和解の仲介制度
多数の被害者がそれぞれ裁判を起こさなければ原子力損害賠償に関する紛争を解決できないとすれば、被害者個人にとっても、また社会にとっても多大な費用が必要となり、迅速な救済はできません。そのため原子力損害の賠償に関する紛争については、原賠法第18条2項一号に基づき紛争審査会が和解の仲介を行います。
福島原発事故の賠償においては和解の仲介の手続きを円滑かつ効率的に行うために「原子力損害賠償紛争解決センター」(紛争解決センター)が設置されました。これは弁護士で構成される仲介委員が、事情を聴取し、中立、公正な立場から和解案を提示することにより、当事者間の合意形成を後押しして紛争の解決を目指すものです。
○総括基準の策定
福島原発事故の賠償においては、和解仲介の申立件数の増加に伴い、共通の考え方に基づく和解案の作成に向けて、多くの案件に共通する論点について、指針を個別の和解仲介事案に適用するための総括基準が順次公表されています。

3.迅速かつ公平な賠償処理のための工夫
○損害の類型や項目、算定方法の定型化
原子力損害賠償では同じコミュニティーに属するつながりの深い多数の個人や、同じ業界に属する多数の企業が被害者として賠償を受けることになります。本来、損害賠償は個別の事情によってその算定が変わりうるものですが、他方で多数の被害者について個別の事情を詳細に確認し認定する作業は膨大な労力と時間がかかる上、それによって生じた賠償額の差異が、結果として被害者間に不公平感を与えてしまう恐れがあります。そこで、指針や総括基準ではこうした認定作業を簡略化しつつ、同じような被害者を公平に扱うための工夫が必要となります。
 福島原発事故の賠償では大量の案件を迅速に処理するために、指針や総括基準において損害の類型や項目、損害の算定方法等をなるべく定型化し、また損害算定基準を示すことで、被害者の請求の目安になるように配慮しています。また、早期に和解できるよう仲介手続における審理も極力簡素化されています。その他、加害者側にも適切な対応を促して協力を求めることで審理の促進が図られています。しかし、それでも紛争解決センターにはこれまで大量の申立てがなされており、こうした審理促進に向けた努力にもかかわらず、審理にはある程度の時間がかかっているのが現状です。
○消滅時効への対処
不法行為による損害賠償の時効は損害及び加害者を知った時から3年なので(民法723条)、紛争解決センターにおける和解仲介の途中で時効が経過しまった場合、現行制度では時効は中断されず、もしも和解仲介手続が打ち切られた場合にその後に裁判で争うことが困難になってしまいます。その結果、和解仲介手続の利用を被害者が躊躇し、被害者にとって利点のある和解仲介制度の活用が十分に行われない可能性があります。そのため、和解仲介の途中で時効が経過した場合でも裁判で終局的な解決を図ることができるようにすることにより、和解仲介制度の活用を促進するため、平成25年6月5日に「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律」(原賠ADR時効特例法)が施行されました。しかし、この法律の適用は紛争審査会が和解の仲介を打ち切った場合に限られており、それ以外の未請求の被害者等については時効適用の可能性が全て排除されたわけではないため、更なる対処を求める声もあります。


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Q2.(原子力損害に関する賠償範囲の特徴)
今回の原発事故における原子力損害賠償の賠償項目、賠償範囲は、一般の不法行為の損害賠償と比べてどのような違いがありますか?
 

A2.
 放射線は人間の五感で認知することができず、低線量放射線被曝についての健康影響の評価も定まっていません。そのような放射性物質の特性による損害が広範囲かつ長期的に広がる大規模な原子力損害に対する損害賠償もまた過去に例がありません。そこで、今回の原発事故における損害賠償の処理にあたっては、一般的な損害賠償とは異なる事情を踏まえたうえで、以下のように損害の項目や範囲が考慮されています。
・これまでの学説や判例で必ずしも定まっているとはいえない風評被害や間接被害等についても因果関係を認め、指針に具体的な産品や地域を示して損害範囲を定型化しています。
・身体損害を伴わない精神的損害は一般の不法行為ではあまり認められませんが、これを損害として認め、指針に具体的な対象者を示して損害額も定型化しています。
・政府指示に基づかない自主的な避難による損害も賠償すべき損害と認め、また自主的避難を行った者の生活費増加費用等と自主的避難を行わずに滞在し続けた者の精神的苦痛等の損害を同額としています。
・営業損害の算定方法は合理的な複数の算定方法があることを認め、いずれの算定方法を選択したとしても合理的と推認しています。
・被災者の生活や事業の再建を急ぐことにより、被害者が損害を回避することの結果として賠償金の受け取りが減ってしまうという現実的な事情に鑑みて、回避した損害のうち一定額を非控除とすることにより被害者の生活や事業の再建を促す工夫がなされています。
・避難指示区域内の財物に賠償については、帰還を希望する場合も、移住を希望する場合も賠償上の取り扱いを同一とし、財物、精神的損害、営業損害、就労不能損害等幅広い損害項目について賠償金の一括払いを可能とすること等により、住民の生活再建のための十分な金額を確保するよう配慮が為されています。


【A2.の解説】
 原子力損害の賠償は、広範な地域の多数の被害者に対して迅速・公平に実施する必要があります。福島原発事故の損害賠償では、多数の被害者に対して納得感のある賠償内容を提示して早期に紛争を解決するため、一般の不法行為の損害賠償とはやや異なる項目や範囲をもって損害が認定され賠償が実施されています。

○直接的な因果関係を持たない経済被害(風評被害や間接被害)
福島原発事故では、広域に渡って実際に放射性物質による農水畜産物の汚染が発生しました。そのため、報道等により広く知らされた事実によって、商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念した消費者又は取引先により、当該商品又はサービスの買い控え、取引停止等をされたために生じた被害(いわゆる風評被害)については、直接の汚染が無かったとしても指針において因果関係が認められました。この被害は、必ずしも科学的に明確でない放射性物質による汚染の危険を回避するための市場の拒絶反応によるものと考えられ、このような回避行動が合理的といえる場合には、賠償の対象となるという考え方に基づくものです。このような被害による損害は、報道機関や消費者・取引先等の第三者の意思・判断・行動等が介在するという点に特徴があり、一定の特殊な類型の損害であると言えます。
また福島原発事故では、原子力損害が生じたことにより第一次被害を受けた者と一定の経済的関係にあった第三者に生じた被害(いわゆる間接被害)についても、第一次被害者との取引に代替性がない場合には、本件事故と相当因果関係のある損害と認められました。

○生命・身体的損害を伴わない精神的損害
生命・身体的損害を伴わない精神的苦痛は、名誉毀損などを除いては一般の不法行為による損害として認められることはあまりありません。しかし福島原発事故では長期にわたる避難生活を余儀なくされた被害者が多数発生したため、自宅以外での生活や行動の自由の制限等を長期間余儀なくされ、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛については、指針において賠償すべき損害と認められました。また、避難せずに避難区域の近隣で滞在を続けた者に関する放射線被曝への恐怖や不安、これに伴う行動の自由の制限等により、正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛についても指針において賠償すべき損害と認められました。
なお、精神的損害の損害額は、避難に伴う生活費の増加費用と合算した一定の金額をもって損害額と算定するのが合理的な算定方法とされました。

○自主的避難に係る損害
政府による避難指示等に基づかずに行った避難(自主的避難)については、避難を余儀なくされたわけではなく自主的な判断で行われたものであり、放射性物質による健康影響の点においても、事故と損害との因果関係が必ずしも明確ではありません。しかし、事故を起こした発電所の状況が安定していない状況下で、避難指示等対象区域との近接性、政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報、事故の居住する市町村の自主的避難の状況等の要素が複合的に関連して、放射線被曝への恐怖や不安を抱いたことには相当の理由があり、その危険を回避しようとして自主的避難を行ったことについてもやむを得ない面があります。そのため、事故と自主的避難に係る損害との相当因果関係の有無は最終的には個々の事案ごとに判断すべきものではありますが、損害賠償の紛争解決を促すため、指針において賠償が認められるべき一定の範囲(地域、金額の目安等)が示されました。
自主的避難の事情は個別に異なり損害の内容も多様ですが、地域の同じコミュニティーに属する住民については、自主的避難を行った者や滞在を続けた者等に対して公平に賠償し、可能な限り広くかつ早期に救済するという観点から、対象地域を示した上で、そこに居住していた者に少なくとも共通に生じた損害として具体的な損害額の目安が示されました。そのため、自主的避難を行った者の生活費の増加費用、精神的苦痛、避難に要した移動費用を合算した損害額と、滞在を続けた者の精神的苦痛、生活費の増加費用等を合算した損害額を同額と算定するのが合理的な算定方法とされました。

○営業損害の合理的算定方法の推認
事故が無ければ得られたであろう収入額の算定方法は、複数の合理的な算定方法が存在するのが通常であり、一般的な損害賠償の紛争であればその中から最も適切な算定方法が争われます。しかし原子力損害賠償の紛争処理においては大量の事案について早期に和解することが期待されるため、紛争解決センターにおける紛争処理においては、複数の合理的算定方法(例えば、前年度同期の額、前年度年額の12分の1に対象月数を乗じた額、左記いずれかの額の複数年度加重平均を含む平均値、左記の額に増収増益分の金額を足した額、資料等による推定額、等)についてはいずれも期待利益の予測方法であることから五十歩百歩であって決定的に優れた方法は存在しないのが通常であるとして、いずれの算定方法を選択したとしても特段の事情のない限り、仲介委員の判断は合理的なものと推定されるという総括基準が示されています。

○営業及び就業における中間収入の非控除
避難先における営業や就労は、将来の生活再建の見通しを立てなければならないという状況下で勤労に当てる時間の全部を当てることができず、また、重い精神的負担を伴うのが通常であることから、そのような営業や就労は一般に容易なものではなく、そこにおける収入はアルバイト的なものにすぎないのが通常であると考えられます。そのため、政府指示による避難者が、営業損害や就労不能損害の算定期間中に、避難先等における営業・就労によって得た利益や給与等は、特段の事情のない限り、営業損害や就労不能損害の損害額から控除しないものとする総括基準が示されています。なお、利益や給与の額が多額であったり、損害額を上回ったりする場合においては、多額であるとの判断根拠となった基準額(50万円)を超過する部分又は損害額を上回る部分のみを、営業損害や就労不能損害の損害額から控除するのが相当であるとされています。

○避難指示区域内の不動産等に関する賠償
避難住民の中には、できるだけ早く帰還して生活再建を希望する者や、新たな土地に移住することを選択する者など、様々な立場や考え方があり得ます。それを前提として、賠償が個人の判断・行動に影響を与えないよう、帰還した上での生活再建や、新たな土地における生活の開始など、それぞれの選択に可能な限り資する賠償を実施する必要があります。そのため、帰還を希望する場合も、移住を希望する場合も賠償上の取り扱いを同一とし、財物、精神的損害、営業損害、就労不能損害等幅広い損害項目について賠償金の一括払いを可能とすること等により、住民の生活再建のための十分な金額を確保するよう配慮が為されました。
例えば不動産の賠償については、帰還困難区域においては、事故発生前の価値の全額を賠償する(全損として扱う)こととし、居住制限区域・避難指示解除準備区域においては、事故時点から6年で全損とし、避難指示の解除までの期間に応じた割合分を賠償することとされています。
なお、一般的な損害賠償では、価値の全額を賠償するとその物や権利は賠償を行った者に代位する(民法422条)ことになりますが、東京電力は福島原発事故の原子力損害賠償に関する被害者の物や権利について代位しない意思を表明しています。


 

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○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。

最新版の冊子「あなたに知ってもらいたい原賠制度2012年版(A4版324頁、2012年12月発行)」をご希望の方は、有料[当協会会員1000円、非会員2000円(消費税・送料込み)]にて頒布しておりますので、(1)必要部数、(2)送付先、(3)請求書宛名、(4)ご連絡先をEメールで genbai@jaif.or.jp へ、もしくはFAXで03-6812-7110へお送りください。

シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」のコンテンツは、あなたの声を生かして作ってまいります。原子力損害の賠償についてあなたの疑問や関心をEメールで genbai@jaif.or.jp へお寄せ下さい。


       
■げんさんな人達(原産協会役・職員によるショートエッセイ)

東京の踊子

 この前出張で、ロシアとウクライナに行った。
ロシアでは、初めてのバレエ鑑賞を経験した。今まで40年弱の間、バレエに興味を持ったことも無かったが、意外にも「げんさんな人達」の中にはバレエ好きが多く、驚いた。詳しくは、3月号や4月号を見て欲しい。

 バレエは「踊り」と「音楽」で表現してくれて、「言葉」を使わないから理解しやすいかなと思っていた。しかし、最初から、演目の流れを知らないと、あんまり理解できなくて残念だった。そもそも、演劇やミュージカルと同じジャンルだろうと思っていたのが、間違いだった。
 帰国当初は、「くるみ割り人形」、「白鳥の湖」、「眠れる森の美女」などメジャーな演目は勉強しようと意気込んだが、実践にはいたっていない。

 やっぱり、鑑賞よりも実践の方が楽しいのでは、と思い、ウクライナではダンスをした。ところが、アラフォーの私より、アラコキのボスの方が動きに切れがあり、結局、鑑賞することとなった。(蒲田の踊子)

<ロシアでのバレエ鑑賞> <ウクライナの船上にて>

<過去のメルマガ>
H25年3月号(http://www.jaif.or.jp/melmag_db/2012/0325.html#8)
H25年4月号(http://www.jaif.or.jp/melmag_db/2013/0425.html#8)


◎「原産協会メールマガジン」2013年7月号(2013.7.25発行)
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