特集 早川ゴム「J-PARCでの実績活かし放射線環境ゴム製品など多彩な製品提供」

2016年6月30日

特集のロゴ(仮) 今年原産協会会員に加入した早川ゴムは、ゴム事業を幅広く手掛ける中、大強度陽子加速器施設(J-PARC)用のゴム製緩衝材およびシール材を日本原子力研究開発機構と研究開発したことをきっかけに、放射線環境ゴム製品を多種揃えている。同社を支える2氏に話を伺った。(中村真紀子記者)

小川浩司常務取締役/営業本部長=写真左
佐藤和彦東京支店土木用止水材グループリーダー=写真右

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<幅広いゴム事業分野で活躍、独自の特徴持つ製品も揃える>
 早川ゴムは1919年に広島県で創業し、現在97年目で、次回の東京オリンピック開催前年に100周年を迎える予定だ。当初はゴム草履の製造からスタートし、1937年には、トラックやバスの大型タイヤをもう一度ゴムの原材料に戻していく再生ゴム事業を開始した。今でこそエコやリサイクルという言葉も当たり前の時代になってきたが、弊社では第二次世界大戦の前から続けている。履物事業からは1971年に撤退したが、1961年頃より、工業用品や建設資材を展開していった。
 現在の主な製品用途としては、まず、ダム、トンネル、地下鉄、共同溝、下水道、浄水場、配水池など土木分野で止水材、都市部のパイプライン接合部の防食材料などがある。
 また、ビル、マンション、集合住宅、病院、学校、体育館などの屋上防水事業も手掛けており、これから移転する豊洲市場など大型商業施設の大屋根にも使用されている。産業用資材としては、エアコンなどの家電関係をはじめ、住宅や住宅設備の防音や制振の分野で広く使われている。
 特徴的な製品としては、コンクリートが固まると同時にゴムが反応接着する「サンタックスパンシール」や、電卓などのディスプレイで文字や絵を鮮やかに引き立たせる機能性微粒子「ハヤビーズ」、墓石、石碑の彫刻の際使用するサンドブラスト用保護シート「サンタックS・CS」などがあり、多彩な製品を揃えている。
 今回原産協会の会員となったのは、土木資材関係商材製品を扱う中で、放射線に対応できるようなゴム素材を開発したことがきっかけになっている。

<高放射線環境でも劣化しない耐放射線ゴムの開発>

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放射線を照射しても劣化を最小限にとどめる耐放射線ゴム(左)


 日本原子力研究所(現:日本原子力研究開発機構/JAEA)と高エネルギー加速器研究機構 (KEK) でJ-PARCを茨城県東海村で建設する際、陽子加速器のような非常に放射線量の高い環境下でも十分耐えうる劣化しないゴムの開発を請け負った。一般のゴムは高線量の放射線が当たると、本来柔らかく伸びるはずがカチカチの備長炭のように固くなり圧力をかけるとパキッと割れてしまうため、全く本来のゴムとしての機能を果たさなくなってしまう。JAEA、KEKとテーマ毎に高崎の量子応用研究施設などで共同研究開発を行い、放射線の高い環境下では他のゴムは固くなって当然伸び率も落ちるが、当社開発の放射線環境ゴムは、20MGyでも劣化を最小限に食い止めてゴムとしての物性値を維持できるということが評価実証された。J-PARCでは構造物同士の動きに追従できる耐震ジョイントと、超電導磁石大型真空加速器のアウトガス対応としてOリングが採用されている。J-PARCが完成してから東日本大震災が起こり、その後の調査では構造物に使用された耐震ジョイントは全く問題がなく、大きな地震があっても機能を果たせるということが実証される結果となった。
 福島第一原子力発電所事故後の対応としては、直後に汚染水処理施設向けのパッキン材が採用された。また、主剤と硬化剤を混ぜ合わせて時間が経つと硬化する液状ゴムは、汚染水タンクが漏水した時に周りに流し込むことで、中からの汚染水流出を防ぐ止水効果及び周辺の防錆効果を目的に使用されており、人が入れないところにこの液状ゴムを入れて水を止めることなどが検討されている。またこのゴムは排水処理をせずに水の中でも固まるのが特徴となっており、水に沈殿した状態で底部まで到達して硬化し、その後のゴムの溶解もない。
 放射線遮蔽ゴム2000シリーズでは、ゴムの中にかなり重みのある重金属を粉状にしてゴムの中に均一に練り込み、放射線遮蔽効果をもたせている。X線を利用した医療機器や検査装置などのメーカーで鉛の代用として引き合いが来ている。なかなか加工が難しく近年環境負荷が高いとされる鉛同等の密度を有し、加工性の良さと柔らかさを持ち合わせ遮蔽もできるため、採用例が徐々に増えてきている。
 事故の後、除染土の運搬などに使う耐放射線フレコンバッグ製品をはじめ関連製品を「NEW環境展」や「RADIEX(環境放射能対策・廃棄物処理国際展)」に2~3年続けて出展した。高放射線環境下での使用に耐えられる弊社製品は、材料交換回数を減らせることになり、作業員の被曝量低減にもつながる。また一度使用された材料は他に持ち出しも出来ないので、廃棄物低減の面でも貢献でき、これから福島第一原子力発電所事故の収束に向けて、出番があるかもしれない。その他にもJAEAからの紹介により、各業界、企業からの弊社製品の引合いも増えており、耐放射線環境下でも使用できる材料としての認知度も上がってきている。
 福島第一原子力発電所事故は、国内で起きた事故として類を見ない。あれだけ現場の方が苦労されているので、何とか手助けになりたいと社長はじめ社員一同が考えており、弊社の製品が収束のお役にたてればと願っている。また、技術は必ず継承されていくので、若い人たちがこうした技術を基にまた次の製品を開発したりしてくれることを期待している。

<新しいことに積極的に挑戦していく社風で後継者を育成>
 弊社は、後継者育成が課題になっている。経験者から技術やノウハウを伝承していくのは本当に難しい。ほぼ同世代同士での社内勉強会などは活発にやっている。また、技術者も営業担当と一緒に顧客の元へ行き、直接声を聞きに行くことを大切にしている。営業マンというフィルターを通してではなく、自分の耳で聞き、自分の目で見て、自分の手で触れるという実体験の数を増やしていき、何を要求されているのか顧客ニーズを肌で感じてほしい。
 また、当然日頃から自身の担当する顧客のテーマ推進や課題には第一に取り組んでいるが、それとは別に自由研究的に自分たちの仲間で全然違う研究に取り組むこともできる。年に1回技術発表会があってそれぞれ成果を発表するが、このように働きながら研究できるような風土もあり、自分のスキルを上げるために、いろいろな先輩から話を聞いたり、研究用に試験機具を使えたり、成果を発表したりできる環境がある。
 弊社は、高放射線環境用ゴム材料の開発で2013年にゴム協会賞を受賞し、少しでもニーズがあるところには探究心を持ってチャレンジしていこうという社風がある。たまに変わったことを研究している研究者もおり、こうした社内環境が受賞につながったと考えている。今後も創造力を活かした技術で、世の中に必要とされ顧客に喜ばれ信頼される製品を提供していきたいと考えている。