パリ協定と日本のCO2削減目標との関係

2018年8月9日

 

 

 

 

 

 

一般財団法人 日本エネルギー経済研究所

下郡 けい

 

第1回で解説したように、原子力発電の運転継続は、発電部門CO2排出量の削減に効果があると言える。日本は、2014年4月に閣議決定された第4次エネルギー基本計画を踏まえ、2015年7月に長期エネルギー需給見通しを策定した。これが、いわゆる「2030年度のエネルギー需給構造(エネルギーミックス)」であり、一次エネルギー供給構造に加えて、2030年度の電源構成も示された(図1)。このエネルギーミックスは、日本が国連気候変動枠組条約事務局に提出した温室効果ガス排出削減目標の基礎となっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

図1 2030年度の電源構成
(出所)資源エネルギー庁「長期エネルギー需給見通し」

 

日本は、2015年7月に約束草案(Intended Nationally Determined Contribution: INDC)を策定した。INDCは、各国が定めた2020年以降の温暖化対策に関する目標であり、日本は、2030年度に2013年度比26%削減という目標を掲げている。2015年11月~12月に開催されたCOP21において採択されたのがパリ協定であり、2016年11月に正式に発効した。日本も批准手続きを経て締約国となっている。日本のINDCが2030年度エネルギーミックスを基礎に作成されているということは、エネルギーミックスを実現することが国際的な約束の履行にも直結していることを意味している。

ただし、2000年以降の原子力発電電力量の実績と2030年度エネルギーミックスに相当する原子力発電電力量を並べてみると、その実現が容易ではないことは明らかである(図2)。

 

 

 

 

 

 

 

図2 原子力発電電力量の実績と2030年度目標
(出所)電力調査統計、資源エネルギー庁「長期エネルギー需給見通し」

 

2030年度のエネルギーミックス達成のためには、設備利用率を70~90%と想定すると、約30~35百万kWの原子力発電設備容量が必要となる。2018年7月時点で運転可能な(営業運転中を含む)原子力発電設備容量(注1)は約39百万kWであるが、営業運転を再開したもの(注2)は9基で約9百万kWにとどまっている。また、福島第一原子力発電所事故後の関連法改正によって、原子炉の運転期間は原則40年とされたが、1回に限り最長20年延長することも認められた。仮に、2018年7月時点で運転期間延長の認可を原子力規制委員会から受けた原子炉以外のすべての既設炉が運転期間40年で閉鎖するとなると、2030年度の原子力発電設備容量は約24百万kWとなり、30~35百万kWには届かない。これは、2030年度目標を達成するために、既設炉の安定的な稼働のみならず、一定数の既設炉の運転期間延長が必要となることを示している。すべての既設炉が運転延長した場合、約39百万kWの設備容量が維持されることとなるが、その場合においても、実際にどれだけの原子炉が発電を行っているかを見通すことは難しいと言える。なお、すべての既設炉が運転延長した場合でも、新たな原子炉が設備容量に加わらない場合、原子力発電設備容量は2035年頃から減少を始め、2050年には約21百万kWとなると考えられる(図3)。

 

 

 

 

 

 

 

 

図3 既設炉設備容量の推移見通し
(出所)日本エネルギー経済研究所


(1) 廃止決定が公表されたプラントを除く既設プラント。
(2) 高浜3・4、大飯3・4、伊方3、玄海3・4、川内1・2の合計9基。

 

政府は、2017年8月からエネルギー基本計画の改訂作業に着手し、2018年7月に第5次エネルギー基本計画が閣議決定された。新たな基本計画は、2030年度のエネルギーミックス目標を維持した上で、その確実な実現へ向けた取り組みの強化と2050年のエネルギー転換・脱炭素化に向けた挑戦を盛り込んでいる。新たな基本計画の下でも、また日本が国際的に約束した2030年の温室効果ガス排出削減目標を達成するためにも、既設炉の速やかな再稼働と運転期間延長および、それらの安定的な運転が必要であると言えよう。そのためには、事業者による原子力発電所の安全性向上の取り組みのほかにも、原子力規制委員会による合理的な規制運用が求められる。
第1回、第2回と日本の原子力発電について概説したが、次回は、諸外国における温室効果ガス削減に向けた取り組みと原子力発電の関係に焦点を当てる。

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