原子力利用拡大国と温室効果ガス排出削減

2018年9月10日

 

 

 

 

 

 

一般財団法人 日本エネルギー経済研究所

下郡 けい

 

第2回では、日本の温室効果ガス排出削減に関する国際的な約束の履行には、2030年度エネルギーミックスの達成が必須であるということを解説した。最終回となる今回は、主に原子力利用拡大国について、温室効果ガス削減に向けた取り組みの中で原子力発電をどのように位置づけているのかを見てみよう。

 

まずは、堅調な原子力発電の拡大を進める中国とロシアに注目する。2018年1月1日時点で、中国は3,566万kW(37基)、ロシアは2,794万kW(31基)の原子力発電設備容量を保有し、米国、フランス、日本に次いで世界第4位と第5位となっている。2018年8月時点において、中国は新たに5基の運転を開始しており、その設備容量はすでに日本を抜いて世界第3位となっている。また、建設中・計画中の設備容量をみると、中国は4,835万kW(45基)、ロシアは2,475万kW(24基)と他の原子力発電導入国と比較して規模が圧倒的に大きい。

国際エネルギー機関による世界エネルギーアウトルック2017年版によると、中国の原子力発電電力量は2016年の約0.2兆kWhから2040年には約1.1兆kWhまで拡大する(新政策シナリオ、設備容量は2040年に145百万kW)と見込まれ、年平均成長率は7.1%と非常に高い(図1)。ロシアの場合、原子力発電電力量は2016年の約0.2兆kWhから2040年に約0.25兆kWhへと拡大する(新政策シナリオ、設備容量は2040年に34百万kW)と予測されている(図2)。

 

図1 中国の原子力発電電力量見通し(出所)IEA, World Energy Outlook 2017

図2 ロシアの原子力発電電力量見通し(出所)IEA, World Energy Outlook 2017

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中国が2016年9月に提出したパリ協定に基づく国別約束(NDC)では、低炭素エネルギーシステムの構築として、原子力発電の安全で効率的な開発という言及がなされている。NDCでは、2030年まであるいは可能であればそれより早い段階でCO2排出量をピークアウトさせることを掲げ、発電電力量の10%を原子力発電(110基)によって供給し、2030年までに一次エネルギー消費に占める非化石燃料の割合を約20%まで引き上げることが提示された。また、2016年3月にとりまとめられた第13次5カ年計画では2020年までに運転中58百万kW、建設中30百万kWとすることを掲げている。ロシアは、2015年4月に約束草案(INDC)を提出し、自主的目標として温室効果ガスを2030年までに1990年比25~30%削減すると設定したが、原子力発電に関する具体的な言及はなされていない。しかし、現在および将来の電源構成において約20%を担う原子力発電は、CO2排出量削減のための一つの手段として活用されていると言える。

 

なお、欧州、特に西欧諸国は、野心的な温室効果ガス削減目標を掲げる国々が多い。その中には原子力発電を以前から利用している国もあり、例えばイギリスやフランスは目標達成のため原子力発電の利用を継続するとしている。一方、ドイツは福島第一事故を経て2022年までの脱原子力を決定した。ドイツは長期エネルギー目標として、2020年から2050年まで10年ごとの温室効果ガス排出削減目標(1990年比)を掲げている。2016年11月に策定されたClimate Action Plan 2050では、2030年のセクター別温室効果ガス削減目標として、エネルギー部門について約60%減(1990年比)が掲げられた。また、2020年までのCO2排出削減目標として、ドイツは1990年比40%減を掲げているが、Climate Action Report 2017(2018年6月閣議決定)において、現状では2020年までのCO2排出削減量が約32%にとどまる見込みであることが公表された。報告書では、目標未達成の原因として予期せぬ経済成長と人口増加が指摘されている。エネルギー需要が増える一方でゼロカーボンエネルギーの一つである原子力発電の供給量が減少し、また自由化された電力市場で石炭火力発電の競争力が高まった結果、温室効果ガスの排出量増加がもたらされたと言える。ドイツが掲げる野心的な長期エネルギー目標達成のためには、特に発電部門における脱石炭が不可欠である。2018年6月、石炭委員会が閣議決定を受けて立ち上げられ、どのように脱石炭を実現するかについてのマスタープランを年末までに策定することとなった。原子力発電の継続的な利用を進める国も然ることながら、利用を取りやめることとした国の温室効果ガス排出削減に向けた取り組みも冷静に分析することが肝要である。

 

表1 各国の温室効果ガス排出量削減目標(1990年比)

(*)中国の削減目標は、GDPあたりの二酸化炭素排出量
(**)エネルギー転換法(2015年)では、2025年までに原子力比率を75%から50%へ低減することを目指すとしたが、目標の見直しが決定されている。
(***)なお、アメリカ(原子力発電は継続的に利用する方針)が2016年に提出したNDCでは、2020年に2005年比17%減、2025年に2005年比26~28%減という目標が示されている。
(出所)各国INDCおよびNDC、政策文書

 

表1に示されるように、各国は地球温暖化対策として積極的な温室効果ガス排出削減目標を掲げており、今後も、世界的な流れとして温室効果ガス削減対策は強化される傾向にあると言える。長期的な温室効果ガス削減対策として、発電部門のCO2排出量を削減することは各国に共通する課題である。発電部門の脱炭素化に向けて、再生可能エネルギー電源の開発や利用促進と合わせて、原子力発電の果たしうる役割に再度注目する必要があるだろう。

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