福島第一原子力事故後の安全性向上への取り組みの動向(国内編)

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 福島第一原子力事故発生を受け、現在も続く事故収束、廃炉・汚染水対策、被災地復興、また、新たなエネルギー政策の検討、安全規制行政改革、事業者による安全対策、さらには、原子力防災を巡る立地地域との関係など、原子力産業新聞では随時取り上げてきた。その中から、ここでは、国内で現在運転中の原子力発電所に関する安全性向上に向けた動きについて、オンサイトの取組に絞り、九州電力川内原子力発電所1号機再稼働までをたどる。

事故直後の緊急安全対策から、新知見を踏まえ強化された地震・津波対策
 福島第一原子力事故を踏まえ2011年3月30日、当時の原子力安全・保安院は、各電力会社に対して、津波により全交流電源、海水冷却機能、使用済み燃料貯蔵プール冷却機能を喪失したとしても、炉心損傷等を防止できるよう、緊急安全対策の実施を指示した。これにより、各原子力発電所では、短期的な取組として、電源車・ポンプ車等の資機材配備、緊急時の対応マニュアルの整備、訓練実施などが図られた。例えば、四国電力の伊方発電所では、海抜32メートルの高台に、大容量電源車4台、仮設の水中ポンプ28台などを配備し、万一のときにも電源や冷却機能を確保できる体制を整えた。
 さらに、各電力会社では、中長期的対策として、大容量非常電源の設置、津波に対する防護措置などを、近年中に完了すべく実施計画を策定した。東北電力の女川原子力発電所では、2012年度初頭の完成を目指し、海面からの高さ約17メートル、全長約600メートルの防潮堤の工事を開始したが、さらなる安全性の向上を目指すため、地震・津波をより厳しく想定し、海面から29メートルの高さまでかさ上げされることとなった。工事完了は2016年3月の予定だ。さらに、女川原子力発電所では、全交流電源喪失に備え、空冷ディーゼルエンジンの4,000kW級大容量電源装置を高台(海抜52メートル)に設置している。東日本大震災で多くの送配電設備が被災した同社では、「自然災害後の地域社会の復旧・復興の足かせとなってはならない」との思いから、各種安全対策の強化を図っている。
 また、中部電力の浜岡原子力発電所は2011年5月、文部科学省地震調査研究推進本部の「30年以内にマグニチュード8程度の想定東海地震の発生する可能性が87%」との評価を理由に、国から停止要請を受け、運転中の4、5号機を停止した。同社は2011年7月、2012年内の完了を目指す津波対策を公表し、その中の浸水防止対策として、発電所前面の海抜10~15メートルの砂丘堤防に加え、福島第一原子力発電所での津波遡上高も考慮し、海抜18メートル、発電所の敷地に沿って総延長は1.6キロメートルの防波壁の設置工事を開始した。その後、内閣府の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」が公表した巨大津波(海抜19メートル)に対しても、浸水防止効果をより一層高めるため、同社は2012年12月、防波壁をさらに海抜22メートルにかさ上げするなどの強化策を公表した。この防波壁は、地震や津波に粘り強い新たな構造形式を採用しており、原子力発電所の津波対策として先進的な取組で、安全性の向上に大きく寄与するものと評価され、「平成26年度土木学会賞」を受賞している。

万一シビアアクシデントが発生した場合の対応
 さて、原子力安全・保安院は、このような緊急安全対策の適切な実施により、炉心損傷等の発生防止に必要な安全性が確保されていることを確認したのだが、2011年6月に政府がIAEA閣僚会議に対し取りまとめた報告書では、シビアアクシデントを防止する対策に加え、万一シビアアクシデントが発生した場合の対応に関する措置についても課題があげられた。各電力会社では、これら指摘事項も踏まえ、作業環境、所内通信手段、放射線管理、水素爆発防止、がれき撤去など、安全確保対策を確実にするための各種措置を進めた。
 同年7月より、設計上の想定を超える地震、津波に対し、どの程度の安全裕度を有するかを評価する「ストレステスト」が進められ、2012年9月の原子力規制委員会発足までの間、一次評価、二次評価のうち、一次評価が計30基の原子炉について、原子力安全・保安院に提出され、関西電力大飯発電所3、4号機、四国電力伊方発電所3号機の3基が、同院の審査を終了し、原子力安全委員会に報告、いわゆる「ダブルチェック」に移った。その後、大飯3、4号機について、2012年3月、同委員会による確認が終了した。結果として、「ストレステスト」の一次評価が完了したのはこの2基のみとなった。当時、福島第一原子力発電所事故後、運転中だった発電炉は定期検査入りに伴い順次停止し、2012年5月、最後の1基北海道電力泊発電所3号機が停止して、国内で運転中の発電炉はゼロとなる。これに先立ち、同年4月、「ストレステスト」の一次評価が完了した大飯3、4号機については、政治判断となる「原子力発電所に関する四大臣会合」による検討が開始され、「『安全』かつ『必要』な場合のみ再起動」との考え方に基づき運転の要否が諮られ、2基合わせて再稼働が決定、事故後唯一再稼働した原子力発電所となった。

新たな規制基準が施行、再稼働に向け適合性の確認へ
 原子力規制委員会は2012年9月の発足後、重大事故への対策を規制の対象と位置付けることとした改正原子炉等規制法の趣旨に則り、新たな安全基準策定に着手した。地震や津波などの共通要因により、安全機能が一斉に喪失し、その後のシビアアクシデントの進展を食い止めることができなかった福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、新規制基準では「深層防護」を基本とし、共通要因故障をもたらす自然現象などに係る想定の大幅引き上げと、それに対する防護対策を強化することとした。また、万一シビアアクシデントが発生した場合に備え、その進展を食い止める対策、さらに、テロとしての航空機衝突への対策も要求している。講じるべき防護措置は「炉心損傷防止」、「格納機能維持」、「ベントによる管理放出」、「放射性物質の拡散抑制」という多段階にわたり、電源喪失時に備えた可搬設備での対応を基本とし、恒設設備との組み合わせや、バックアップ施設などによりさらに信頼性を向上させることを求めている。新安全基準策定基本方針
 2013年7月の新規制基準施行を受け、再稼働するためには、その適合性の確認が求められるわけだが、同月中に、北海道電力泊発電所1~3号機、関西電力大飯発電所3、4号機、同高浜発電所3、4号機、四国電力伊方発電所3号機、九州電力玄海原子力発電所3、4号機、同川内原子力発電所1、2号機の計12基、いずれもPWRが先行して、原子力規制委員会への審査申請がなされた。審査の進む間、大飯3、4号機が同年9月、定期検査入りに伴い停止し、再び国内で運転中の発電炉はゼロとなった。これまでのところ、計25基の審査が申請されており、そのうち川内1、2号機、高浜3、4号機、伊方3号機の計5基の審査が終了(設置許可)している。

各発電所で緊急時対応の訓練、大規模自然災害を想定した拠点整備など
 九州電力川内原子力発電所1、2号機は、新規制基準に係る適合性審査途上の2014年2月、原子力規制委員会より「大きな問題はクリアできた」として、優先的に審査を進めるプラントと位置付けられ、以降、同年9月の審査終了まで先陣を切り、2015年8月11日に1号機が再稼働(発電再開)に至った。同所では、シビアアクシデントを想定、例えば、非常用ディーゼル発電機を含めた全電源が失われ、原子炉に冷却するためのポンプが使えない深刻な事態を想定し、「移動式大容量発電機」(海抜28メートルの高台に配備)を起動する訓練や、電気を送るためのケーブルのつなぎこみ訓練を毎月行っている。1号機原子炉起動に先立つ7月27~30日に実施された訓練については、原子力規制委員会による保安検査が行われ、委員からは、現場の緊張感や士気高揚が評価されている(=写真、原子力規制委員会提供)。NRA_5471
 大地震によって重大事故が発生した場合に備え、緊急時対応の拠点となる免震構造の建物の設置も進められている。中国電力島根原子力発電所では、2014年10月に日本海を見下ろす海抜約50メートルの高台に免震重要棟を新設した。この施設は、基礎と建物の間に設置した積層ゴムなどの免震装置を備えており、地震の強い揺れを大幅に低減する構造となっているほか、原子炉建物外部に放射性物質が漏えいする事態をも想定し、作業員の被ばくを低減するよう、建物の周囲には放射線を遮る巨大なコンクリート壁も設置されている。
 また、東日本大震災で津波によるガレキなどが道路を塞ぎ作業の妨げとなった経験から、東京電力柏崎刈羽原子力発電所では、障害物の除去訓練が行われているほか、発電所屋外で重大事故が発生した際に、電源車や消防車など緊急車両が確実に必要な場所にたどり着けるよう、アクセスルート多重化の取組も進められている。
 このように各原子力発電所では、福島第一原子力発電所事故の教訓から、さらなる安全性・信頼性の向上を目指した取組を進めており、同時に、緊急事態を想定した訓練を日常的に実施し、対応能力の習熟に励んでいるのだ。そして、電力各社では、こうした安全性向上の取組について情報発信にも努めている。例えば、関西電力では、ウェッブサイト上で高浜発電所における安全対策を、わかりやすい動画で紹介している。
〈動画〉「原子力発電所を特別公開!~高浜発電所~」
https://www.youtube.com/watch?t=25&v=6DBVsJnbNis

事業者横断的な安全性向上の取組
 福島第一原子力発電所事故を受け、政府事故調、国会事故調ともに報告書公表が出そろった2012年半ば、事業者横断的な安全性向上の取組に動きが出てきた。技術基盤の整備、自主保安活動の促進を掲げ2005年に設立された日本原子力技術協会が、2012年11月に、「二度とこのような事故を起こしてはならない」という原子力産業界の総意に基づき、事業者から別の立場で、安全性向上活動を評価し提言・勧告を行う「原子力安全推進協会」として新たに発足した。
 また、事業者による自主的・継続的な安全性向上について検討する資源エネルギー庁のワーキンググループが2014年5月に提言をまとめたのを受け、同年10月、電力中央研究所内に「原子力リスク研究センター」が発足した。同センターでは、研究所がこれまで蓄積してきた知見や技術を基盤として、確率論的リスク評価(PRA)を活用し、プラントに与える影響や対策を研究・評価し、安全性向上に役立てていく。
 さらに、防災対策でも、2015年度の本格運用組織の設置に向け、電気事業連合会が日本原子力発電敦賀総合研修センター内に設置している「原子力緊急事態支援センター」において、資機材整備や要員養成が進められており、事業者間の相互協力の仕組みができつつある。

〈参考〉各電力会社の安全性向上の取組紹介ウェッブサイト
北海道電力 http://www.hepco.co.jp/ato_env_ene/atomic/safety_improve/safety_point.html
東北電力 http://www.tohoku-epco.co.jp/electr/genshi/safety/
東京電力 http://www.tepco.co.jp/kk-np/safety/index-j.html
中部電力 http://hamaoka.chuden.jp/provision/index.html
北陸電力 http://www.rikuden.co.jp/genshiryoku/anzentaisaku.html
関西電力 http://www.kepco.co.jp/corporate/energy/nuclear_power/anzenkakuho/
中国電力 http://www.energia.co.jp/anzen_taisaku/
四国電力 http://www.yonden.co.jp/energy/atom/ikata/index2.html
九州電力 http://www.kyuden.co.jp/torikumi_nuclear.html
日本原子力発電 http://www.japc.co.jp/safety/index.html
電源開発 http://www.jpower.co.jp/ohmasp/index.html

安全性向上経緯(日本)2段