インタビューシリーズ 特集「第5次エネルギー基本計画:原子力はどう取り組んでいくか」 第2回

2018年10月16日

第2回:渕上隆信 全国原子力発電所所在市町村協議会 会長

 

リプレースや新増設を含む原子力政策の明確化を
立地地域でも「原子力発電所が次第に遠い存在に」と危機感

 

 第2回は、原子力発電所の立地自治体の視点から、全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)の渕上隆信会長(敦賀市長)に、第5次エネルギー基本計画への問題認識と今後の課題を中心にお話をうかがった。
 渕上会長は、今回の基本計画でも立地自治体が期待した表現にならなかったと指摘、時間が経過するうちに立地自治体においても「原子力発電所が次第に遠い存在になりつつある」との危機感を示した。そのうえでリプレースや新増設を含め「今後の政策を明確にしてほしい」と強調した。

 

-第5次エネルギー基本計画(以下、基本計画)でも原子力発電は引き続き重要なベースロード電源に位置付けられたが、期待される役割を果たすには課題が多い。

 基本計画の策定は、結果からいえば、私たちの期待した点をしっかりと表現していただけなかったとの思いがある。今回は2050年までの展望も議論され盛り込まれたが、長期的な視野に立った時に地元の自治体がこれでやっていけるのかという不安が残ったというのが正直なところだ。立地自治体は日本のエネルギー確保の一翼を担ってきたが、今後、現実問題として日本のエネルギー問題を含めてやっていけるのか、疑問符がついた状態だ。
 福島第一原子力発電所の事故から7年が経った。リプレースや新増設は立地地域にとって重要な問題であり、国の方針が明確にならないと動けず、苦しい状況のまま時間が経過している。自治体の首長選挙の際には原子力の問題をめぐって地元や自治体が矢面に立つこともある。国の政策に協力し応援する立場だがいつしか悪者のイメージを持たれるというジレンマも抱えている。国がもう少し立地地域の立場を踏まえて今後の政策を明確にしてほしい。次の基本計画が策定される3年先まで、私たちが待つことができるかどうかおぼつかないというのが正直な気持ちだ。
 また、事故直後に発電所が停止して立地地域は経済的にも厳しい状況となったが、7年の間、何とかしのいできた。エネルギー供給の一翼を担うという矜持をもって応援してきたはずが、苦しい状況が常態化し、周辺地域との微妙な関係もあって、立地地域でありながら原子力発電所が次第に遠い存在になりつつあるのではないかと懸念している。

 

-基本計画を実現するうえでも、安全面や防災面の対策強化などを通じて原子力発電に対する社会の信頼回復に取り組むことが重要と思うが、いかがお考えか。

 安全性の向上は絶対に必要なことであり、官民がきちんと取り組む必要がある。また防災対策については、立地地域にとっては避難道路等のインフラ整備が大事な問題だ。一刻も早く避難できるようにとの要望もあるが、地震や津波に起因して原子力災害が発生し、周辺に被害が生じるまでのタイムスパンを想定し、地域全体として円滑に安全に避難できるような準備と実効的な防災計画を備えることが大切だと思っている。また今後の課題として、地震や台風といった複合的な災害も検討する必要があるであろう。
 耐震安全性の問題については、立地地域の私たちの立場からすれば、「原子炉の設置から廃炉になるまでの期間に安全なのかどうか」、が重要だ。しかし、活断層の評価については学術的な議論を深めるばかりで明確な判断基準を示さない状況では、物事が前に進まない。工学的な見地から、施設の耐震裕度や想定される地震等を評価し、国が合理的に判断する仕組みを作ってほしい。

 

-環境負荷の少ない原子力発電の特性についても社会の理解をより一層進めるべきという意見もある。

 最近、ドイツのエネルギー情勢について聞く機会があった。ドイツでは風力発電を中心に再生可能エネルギーを拡大したが、風力発電は稼働安定性が低いのでベースロード電源にはならない。そこで供給安定性を補完するため褐炭の火力発電所を稼働したという。風力発電を導入したことで電力料金が上った一方、そのぶんの二酸化炭素は削減された。しかし褐炭の火力発電で補完したぶんの二酸化炭素排出量が増えた。電気料金は値上がりし二酸化炭素も期待したような削減につながっていないのがドイツの現状だという。ドイツから来日された方にも聞いたところ、「現状はそうだと思う」と肯定された。だから間違った情報ではないだろう。こうした海外の事例は広く国民に知ってもらうべきだ。
 日本でも再生可能エネルギー発電を促進する賦課金が電力料金に上乗せされているが、こうしたコスト負担についてよく認識されていない方も多いのではないか。我が国における電源ごとのコスト負担についてもよく国民に周知してもらいたい。
 さらに言えば原子力発電所が停止したことで、2016年度までに石炭や石油の焚き増し料金が15~16兆円も余分にかかっているという。それ自体が日本の国力を下げていることについては議論がほとんどなされていない。7年間を総括して原子力発電の役割を評価し直すことが必要ではないかと思う。

 

-高レベル放射性廃棄物の処分についての課題解決も重要課題であり、全国的に科学的特性マップを政府が公表し、議論を展開する予定だが、立地地域の立場としてはどのように受け止めているか?

 この問題は、まず国民的な議論をきちんとする必要があると考える。まずは国が前面に出て、ていねいに説明して政策を前に進めることが重要だ。高レベル放射性廃棄物について、どう始末をつけるかは国の責任で進めるものと認識している。

 

-全原協では政府の原子力政策の明確化を要望されてきたが、今回の基本計画の策定を踏まえて今後どのような問題意識で活動されるお考えか。

 国民の皆さんが原子力に理解を示して応援していただく状況にならないと、立地している自治体も、なかなか頑張るというところにいかない。
 全原協の会長に就任し4年目になるが、会長になった当初は福島県の復興が重要な課題だった。現在は福島の復興と、福島第一原子力発電所の事故の知見を反映して安全性を向上させた原子力発電所の再稼働、リプレース、新増設という二つの課題に取り組んでいる。
 全原協では、基本計画の策定に対し要望をまとめ表明することを念頭に置き、むつ市や六ケ所村にも正会員になってもらった。原子力発電の分野だけでなく原子燃料サイクル分野の課題についても議論する体制を強化したもので、検討を重ねてまとめた要望書を国に提出し、これらの意見の基本計画への反映を求めたが、残念ながら十分な結果にはならなかった。
 今後は、全原協が今年で50周年という節目にあたることもあり、総会には関係省庁の担当官だけでなくエネルギー関係の議連の国会議員にも出席をしてもらうことを考えている。今後の原子力政策について話を聞き、忌憚のない意見交換を通じ議員各位から国の政策を応援する姿勢を明確にしてもらえればと期待している。

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