インタビューシリーズ 特集「第5次エネルギー基本計画:原子力はどう取り組んでいくか」 第6回

2018年11月9日

第6回:髙本 学 日本電機工業会 専務理事

 

人材確保や技術の維持にむけた政策の明確化が必要
       原子力発電所の新規・リプレース、新型炉開発など着実に

 

 本インタビューシリーズでは、第5次エネルギー基本計画(以下、基本計画)を踏まえた今後の取り組み等について各関係機関にお聞きしているが、今回は日本電機工業会(JEMA)の髙本学専務理事に今回の基本計画の受け止めと、今後の取り組みなどについて伺った。同氏は、各メーカーとしては技術維持や人材確保が喫緊の課題であると指摘するとともに、原子力分野における我が国の国際貢献への展開を考えても、原子力発電所の新増設やリプレースを政策として明確化し必要な技術開発を進めることが重要との認識を示した。

 

-今回の基本計画では、2030年エネルギーミックスについては前回をほぼ踏襲する形だが、2050年エネルギーシナリオではCO2削減目標を2013年時点から80%削減というかなり野心的な目標達成を目指すものとなっている。貴会としては、どのように受け止めたかお伺いしたい。
 今回の基本計画で、2030年度の依存度が22%~20%とされた原子力が、これまで同様、エネルギー需要構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源として位置付けられたことは評価したい。原子力事業については、電力全面自由化の進展、もんじゅ廃炉と高速炉開発計画方針決定などの環境変化を踏まえ、我が国のエネルギー環境政策、原子燃料サイクル政策、原子力事業の健全性を確保するための制度整備が重要課題として認識されているものと考える。
 CO2の排出80%削減というのはかなり高い目標と考えるが、2050年までの長期目標に向けた取り組みとしてエネルギー源構成のベストミックスをめざしながら、再生可能エネルギーの最大限の導入努力や、必要に応じて原子力への依存度を上げていくべきと考える。
 そのためには、国民の理解が必要となる。安全性を前提に、高い安定供給性、経済性を有する原子力発電が、国民生活及び経済・産業の維持に必要であることを、国民に対し改めて明確に示し、理解の促進を図っていくべきであると考えている。
 JEMAでは、原子力が今後も有効なエネルギー源として利活用されるために、その社会受容性を把握、分析することが、今後のメーカーとしての取組みを考えていく上でも重要と考え、2015年度に慶應義塾大学SFC研究所 遠藤典子特任教授が立上げられた「エネルギー・環境問題の社会受容性に関する研究」事業に弊会から研究を委託するなどの取り組みを行っている。 

 

-今回の基本計画でも、福島第一原子力発電所の事故の経験を踏まえ、原子力への依存度を低減する姿勢が示された。貴会では、今回の基本計画への意見の中で、原子力政策の再構築について、原子力発電所の新設・リプレースを明示すべき等の意見を表明されている。改めて、その論点についてお考えを伺いたい。
 原子力発電は、エネルギー需要構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源に位置付けられていることに変わりはない。さらに2050年においても実用段階にある脱炭素化の選択肢とされている。
 ただ、現状では原子力発電所の新規制基準への適合性審査にPWR/BWR合せて5年間で27基が申請されているが、再稼働したのはPWRの9基のみである。電力の安定供給性、経済性向上に寄与する原子力発電所の再稼働について、原子力規制委員会は長期化している審査の効率を向上させるため、進め方の見直しや審査体制を充実させるなど最大限の努力・工夫を図るべきと考える。
 また、「長期エネルギー需給見通し」における原子力の発電量を達成するためには、申請されたプラントだけでは困難な状況にある上、再稼働したプラントもやがては運転期間が40年に達してくる。未申請プラントの再稼働検討、建設中プラントの再開、新増設など原子力の発電量確保に向けた方策を検討するべきである。
 さらに、原子力の継続的な安全性向上のために人材確保は重要な要素である。人材を育成するには、やはり机上で考えるだけでは足りない。実プラントに携わることが育成に繋がるので、設計/建設/メンテナンス等のプロジェクト実務を経験することが技術の維持やグローバルな貢献にも繋がる。人材は製品、品質上、重要であり、実プロジェクトで補っていかなくてはならないので、政府等にも今後、新規およびリプレースに関する政策の明確化を望みたい。
 なお、2050年およびそれ以降の電源構成比率を考えれば新設の検討が必要となるが、審査および建設期間を考えると現実的な規制上の措置が必要で、米国等の運用状況も踏まえ、審査中に40年に達したとしても審査を継続し、許認可が行えるようにすべきである。

 

-原子力発電所の再稼働の加速と新設、リプレースに向けての理解を得るため、安全性向上を通じた社会の信頼回復が重要課題だが、さらなる安全性向上に向けた取り組みや現在の規制に関してお伺いしたい。
 まず現在の規制に関して申し上げると、原子力規制委員会には、事業者が十分な安全確保を実効的かつ合理的に行われるよう監視、規制する役割があり、安全規制を原子力安全確保に有効なものにするよう望みたい。そのため、各ステークホルダーとの対話を闊達に行い、適宜規制の在り方を継続的に見直し、最適化するべきである。また、原子炉安全専門審査会など法律に基づく審査会を規制プロセスに関与させ、科学的専門性を持った審査を継続すべきと考える。
 次に、さらなる安全性向上に向けた取り組みに関してであるが、自主的かつ継続的な安全性向上のため、原子力事業者だけでなく、産業界全体が連携して現場の安全性向上に結びつけていくため、原子力エネルギー協議会(ATENA)が今年7月に発足した。限られたリソースで、より効果的に原子力の安全性向上と発電量確保の両立ができるよう、規制制度や技術的課題を整理し、規制当局と共有していくこととしている。
 JEMAとしてもATENAの活動を支援していくにあたって、スペック(仕様)を作り提案していくというメーカーの役割を念頭におき、現実的で高い安全性を確保するためにメーカー間で統一感をもった議論ができるよう調整するなどの役割を果たしたいと考えている。

 

-貴会は基本計画への意見の以前に、エネルギー政策に対する意見提言のなかで、原子力エネルギーの増大を指摘されている。昨今、海外でも開発が検討されている小型モジュール炉など、安全性を高めた新型炉開発・新技術開発についてお考えを伺いたい。
 小型モジュラー炉(Small Modular Reactor, SMR)については、ご指摘の通り世界中で検討されている。概ね300MW以下の電気出力で、工場において建設の大部分を実施できるように設計された革新的な原子炉のことを指す場合が多いが、特に送電系統の弱い地域・国においては、SMRのニーズが高いと考えられている。
 JEMAでは原子力に対する日本の今後の長期的な取り組みを検討するにあたり、実情把握を目的に米国やカナダ、英国を対象とした調査を行った。SMRのメリットの認識は各国共通しているが、開発・導入に関わる政策やプロジェクト、更には進捗状況には相違があるようである。
 今後、国内においても原子力事業者のニーズを確認しながら進めていくことになると考える。事業者のニーズに適合するような安全性・経済性に優れた新しい概念のプラントについても検討していきたい。
 先に申し上げた海外調査で、各国は検討段階から規制側も巻き込んで実用化時期の早期化を目指していることを踏まえ、我が国でも、早い段階から規制側にも関与していただきたいと考える。

 

-これまで伺った諸課題に取り組むためには、人材確保がますます重要となってくる。また原子力発電所の安全確保のためにも国内サプライチェーンの技術力維持が欠かせない。さらに次世代を中心としたエネルギー問題に関心を持ってもらう必要もある。貴会としてのお考えや取り組みについてお伺いしたい。
 原子力発電技術には、既存炉の運転と廃炉だけではカバーされない原子炉の安全性の維持・向上に必要な技術分野がある。リプレース・新増設を行うことが、日本の国力維持に必要な原子力に関するフルセットの技術・人材の維持につながるものと考える。
 また、原子力発電所の安全はプラントメーカーだけでなく、安全上重要な機器の製造・保守を取り扱う原子力特有の技術を持つサプライチェーンによって支えられている。きちんとした品質を確保するにはきちんとしたサプライチェーンの確保が必要であり、そのためにやはりある一定のビジネス、仕事の規模が必要になってくる。福島第一原子力発電所の事故以降、原子力産業は再稼働の停滞により厳しい経営状態が続き、受注辞退、事業撤退する企業が拡大しつつある現状で、国は原子力発電が将来も重要な電源であることをエネルギー政策で明確にし、リプレース・新設のための技術開発を進めるべきと考える。
 人材確保の活動として、JEMAでは学生に関心を持ってもらうことを目的に原子力プラントメーカーの紹介冊子を発行している。また学生に電機業界全体への興味を持ってもらうため、国内各大学・高専において「電機業界説明会」を開催したり、学校の先生を対象とした理科教育活動を行ったりしている。

 

-我が国は福島第一原子力発電所事故の経験を踏まえ、原子力発電の安全対策が施された技術やさらには効率よいエネルギー技術の提供により国際貢献することが、アジア諸国等から期待されているが、どのようにお考えか。
 原子力のみならず電機の分野でも我が国の技術は高いレベルにある。それをグローバルに展開し国際貢献に寄与する支援の活動は本当に大事だと考えている。JEMAはそのような活動をミッションの柱のひとつに掲げているので、原子力の分野を含めて今後もより効果的な活動のあり方を検討していきたい。
 原子力分野においては福島第一原子力発電所の事故の教訓を反映し高い安全性を備えた技術をもって、増大する世界のエネルギー需要に応え、地球環境の維持に応えることが、我が国の責務であると考える。
 JEMAではそのような観点から、原子力発電新規導入国をめざすアジア諸国をはじめとする各国の要望に応じ、人材や安全性向上など基盤整備事業を実施している原子力国際協力センター(JICC)が行なう海外の要人や官僚、実務者向け教育や見学会などの活動を支援している。

以 上

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