インタビューシリーズ 特集「第5次エネルギー基本計画:原子力はどう取り組んでいくか」 第8回

2018年12月12日

第8回:高橋 明男 日本原子力産業協会 理事長

 

2050年にCO2の80%削減を達成するには、原子力発電は不可欠
安全性向上の取組みを続け、電力の安定供給に寄与することで、原子力への信頼確保を

 

 本インタビューシリーズでは、第5次エネルギー基本計画を踏まえた今後の取り組み等について各関係機関からお聞きしている。最終回は原産協会の高橋明男理事長に原子力産業界として、原子力への理解促進にむけた活動や将来を見据えた人材育成や確保への取り組みなどについて聞いた。
 高橋理事長は、地球環境問題や電力の安定供給の面でも有用な原子力の活用のため、社会的信頼の獲得が課題であり、高レベル放射性廃棄物問題、人材の育成と確保、さらに世界の一歩先をいく新たな技術開発の必要性について説いた。

 

-今回のエネルギー基本計画では、原子力については、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に重要なベースロード電源と位置付けられた。そのことについて、どのように受け止めているか?

 原子力は3E(安定供給、経済性、環境保全)の何れの点でも優れており、特に大量の電力を安定的に供給できることから重要なベースロード電源との認識が示されたと理解している。このことは、原子力発電の果たすべき責任は重く、安定運転と更なる安全性向上に努め社会の信頼を獲得しなければならない事を示していると受け止めている。
 日本は2030年度に2013年度比で温室効果ガスを26%削減することを国際的に約束しているが、この約束を守るためには、再生可能エネルギーは総発電電力量の22~24%、原子力発電は22~20%を担わなければならない。原子力発電の場合、この役割を果たすためには30基程度の稼働が必要で、その1/3ほどを運転期間延長しなければならないと思われる。現在再稼働は9基にとどまっているが、原子力稼働によるCO2削減効果は大きいことから、残るPWRとこれまで再稼働のないBWRの早期再稼働が望まれる。ちなみに国際エネルギー機関(IEA)の2017年版報告によればkWh当たりの我が国のCO2排出量は原子力発電比率が70%を超えるフランスの排出量に比べ10倍以上(2015年実績)である。
 地球温暖化問題を考えれば2030年のCO2削減目標は通過点で、我が国の次の目標である2050年にCO2の80%削減を目指さなければならず、これを達成するためには再生可能エネルギーと原子力発電の最大限の活用が欠かせない。原子力発電所は計画から発電開始まで時間を要することから早期に新増設、リプレースが進むことを期待している。

 

-原子力利用への理解を得るために欠かせないのが、高レベル放射性廃棄物処分の課題解決となる。このことについてはどのようにとらえているか?


 高レベル放射性廃棄物の処分の問題については「現世代が責任を果たすことが重要」との認識のもと、時間を要する課題であるがその取り組みは着実に進められていると受けとめている。我が国では1999年に地層処分が科学的に適切な方法との核燃料サイクル機構の技術報告書が公開され、その後国会で「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が成立し、それを受け2000年に実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立された。昨年には経済産業省により「科学的特性マップ」が公表され、今年11月には、これまでに蓄積されてきた科学的知見や技術を統合して、安全な地層処分を実施できることを包括的に説明した「包括的技術報告書」がNUMOにより作成され公表された。
 国とNUMOは現在、対話型全国説明会を精力的に進めている。説明会の進め方なども参加者の声を反映しながら改善を重ねており、一層充実した対話となることを期待している。原産協会も国民の関心と理解が深まるよう引き続き協力していきたい。
 なお、海外ではフィンランドで既に2016年に処分場の建設が開始されており、スウェーデンでも近く建設許可が発給される見通しである。

 

-中国やロシアは、原子力の海外展開の分野で野心的に活動している。そういう情勢の中で、国際協力や国際貢献の面で、日本の原子力産業界としてはどのように取り組んでいかれるか?

 日本は福島第一原子力発電所事故を経験したが、今なお日本の品質や技術力等に対する海外からの評価は高い。日本はこれまで57基の商業炉を建設、運転してきており、この経験と技術、管理運営能力は卓越しており、世界に貢献できると信じている。我が国のプラント建設におけるセールスポイントは「on time on budget」であるが、近い将来海外でこれを証明する機会が訪れることを期待している。
 世界では31ケ国・地域で443基が運転され、63基が建設中である(2018年1月1日現在)。原子力発電所の建設、運転は徐々に先進国だけの特別な技術ではなくなってきており、技術立国で原子力先進国の日本は世界の一歩先を行く技術開発を進める必要があるのではないか。
 また、世界からは日本による人材育成に対する協力への期待も大きい。現在、産官学78機関が参加する原子力人材育成ネットワークの海外人材育成分科会で人材育成の協力について検討している。具体的には国際原子力機関(IAEA)との協力による新規導入国の人材育成があげられる。
 なお、フランスや中国などと二国間の会合や、日中韓台による東アジアフォーラムなど多国間の枠組みで、安全性向上等共通の課題について議論しており、今後も引き続き協力して課題の解決に取り組んでいきたい。

 

-福島の復興、さらなる安全性の向上、高レベル放射性廃棄物処分など、これから長期にわたる取り組みが必要となる中で、それに対応する人材の確保が重要となる。また、2050年に向けた安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求などのために国際的にも活躍できる人材の育成も必要となる。


 少子高齢化を迎える日本では原子力分野のみならず人材の確保・育成は国家として大きな課題となってきている。なかでも原子力発電はプラント建設から廃炉、フロントエンドからバックエンド等、幅広い分野で長期にわたり継続的な人材確保・育成が欠かせない。
 原子力人材育成ネットワークは、これまで主に人材確保・育成にかかわる情報共有や海外の人材育成、海外で活躍できる人材育成などに取り組んできたが、今後は日本全体として整合性の取れた形でより効率的・効果的に人材確保・育成を推進するための戦略が重要となる。こうした戦略策定を担い、全体を統括する司令塔機能を備えるよう来年4月よりネットワークの組織を改組することとした。また、人材育成と研究開発の一体的な推進や国内外の叡智を結集して革新的な研究開発につながるよう、産官学の連携体制についても検討することとしている。
 さらに次世代の原子力技術を担う人材の確保には原子力に対する社会的受容性の向上が欠かせない。このため、原産協会としては原子力の理解はもとより放射線についても理解度向上に取り組んでいる。具体的には、学校や教える立場の教員の皆様を支援するため放射線に関する科学的知見の提供などに努めており、こうした活動をこれからも地道に継続してまいりたい。

 

-エネルギー基本計画では、2030年までの政策対応として、原子力について、いかなる事情よりも安全性をすべてに優先させると共に社会的信頼の獲得に努めていくことが重要とされている。その中で原子力産業界としての対話、広報など情報発信については、どのようにお考えか?

 原子力の社会的信頼獲得は業界全体の最重要課題の一つであり、当協会もこれまで工夫をこらして情報発信に努めてきた。しかしながら、各種メディア等の調査結果からも社会の信頼獲得や福島の風評被害の払拭について期待通りの成果が上がっているとは言えず、これまでの取り組みを見直してみる必要があるのではないかと考えている。例えばDAD(Decide:決めて、Announce:発表して、Defend:正当化する)システムと言われる進め方に偏っていなかったか、社会の皆様の関与は十分だったのか、協働できるような対話を行ってきたか等について検証し、今後信頼の獲得をどう進めたらよいかについて広く皆様のご意見を聞き、原産協会内でも検討を深めたいと考えている。社会の価値観が多様化しエネルギーへの関心や情報入手手段も様々な中で、社会の動静などを見ながら常に工夫しなければならない問題だと考えている。
 また、情報発信を始めこうした取り組みは原産協会だけでは難しく、関係団体や事業者とも連携をとって役割分担しながら全体として効果的かつ効率的に進められるように努めていきたい。

 

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