【7】保険だけによらない賠償措置

 今回は、保険だけによらない賠償措置についてQ&A方式でお話します。

q1
(米国の賠償措置)
米国は原子力事故に備えて約1兆円に及ぶ損害賠償資金を準備していると聞きましたが、それはどのような仕組みなのですか?
a1
  • 米国の損害賠償措置の仕組みは日本と大きく違います。
  • 米国は第1次損害賠償措置として責任保険により3億ドル、第2次損害賠償措置として事業者共済である事業者間相互扶助制度により約99億ドル、合計約102億ドルを措置しています。
  • 事業者間相互扶助制度は、万一の原子力事故時に1原子炉・1原子力事故あたり最大9580万ドルの遡及保険料が全ての原子力事業者から徴収される仕組みとなっています。
  • なお、米国において、事業者の責任は措置額の約102億ドルを上限とする有限責任となっています。

【A1.の解説】

 第二次大戦後、米国において最初の原子力平和利用が行われるにあたり「巨額な賠償責任義務を負わされては、原子力事業は到底遂行できない」との民間事業者の声に応えて、1957年(昭和32年)にプライスアンダーソン法として原子力損害賠償制度が確立されました。

 この制度は当初、民間保険業界から得られる最大額である6000万ドルの保険付保を義務付けると同時に、それを越える損害は政府との補償契約により国家が5億ドルまで補償し、原子力事業者の責任を5.6億ドルに制限する、というものでした。

 しかし、この制度に対しては、原子力産業を過度に保護するものとの批判があり、1975年に1原子炉あたり最大500万ドルの事業者間相互扶助制度が導入されました。その後、1979年のTMI事故、1986年のチェルノブイリ事故を経て、1988年には責任制限額は72億ドル、事業者相互扶助は1原子炉あたり最大6300万ドルに引き上げられました。

 現在は第1次損害賠償措置として責任保険により3億ドル、第2次損害賠償措置として事業者間相互扶助制度により約99億ドル(1原子炉・1原子力事故あたり9580万ドル)、合計約102億ドルを措置しており、これが責任限度額となっています。

 なお、損害額が責任限度額を超える場合は、大統領が議会に補償計画を提出し、議会が必要な行動をとることになっています。

q2
(ドイツの賠償措置)
米国のように、責任保険以外の方法で賠償措置をとっている国は他にありますか?
a2
  • ドイツにも米国と似たような損害賠償措置の仕組みがあります。
  • ドイツにおいては、第一層損害賠償措置として責任保険による約2.5億ユーロ、第二層損害賠償措置として自家保険による約22.5億ユーロ、の合計25億ユーロ(約3300億円)が措置されています。
  • 自家保険では、万一の原子力事故時に責任保険で賄えなくなる約2.5億ユーロを超える支払を、原子力事業者が負担することとなります。
  • ドイツでは、米国と異なり事業者の責任は無限責任です。措置額の25億ユーロを超える賠償も事業者の責任となっています。

【A2.の解説】

 ドイツの原子力施設に対する原子力損害賠償責任は、原子力施設の運営者にあるとされており、第一層損害賠償措置では、責任保険によって約2.5億ユーロまでが確保され、第二層損害賠償措置では、運営者の賠償支払い義務は、これらの運営会社の親会社である各電力会社の資金的保証によって、約22.5億ユーロが担保される仕組みとなっています。

 また、責任保険の免責事由に相当するなど上記の賠償措置により填補されない場合には、最大25億ユーロまで政府が補償します。政府補償の適用対象となる事故には、「戦争危険」「異常かつ巨大な自然事象」「外国の原子力事故により国内で損害が発生した場合で、海外の事業者に損害賠償請求が出来ない場合、または補償額が少ない場合」等があります。

 なお、25億ユーロを越える部分の責任は、事業者による無限責任となる点は米国の制度と大きく違う部分です。

 日本においては、賠償措置額600億円(平成22年1月1日以降は1200億円)はその全額を責任保険付保により措置されています。責任保険の免責事由に相当する場合は、国との補償契約により補償されます。原子力事業者の賠償責任には限度額が設定されていないため、事業者は賠償措置額を超える損害についても、賠償責任を負うこととなる無限責任となっています。ただし、原子力事業者が賠償責任を果たせないような場合は、国会の議決により国が援助することになっています。また、異常に巨大な天災地変、社会的動乱によって生じた損害の場合には、原子力事業者の責任範囲外となり、国が必要な措置を行うこととなります。

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