【19】韓国の原子力開発事情と原賠制度

 今回は、日本海を挟んで我が国に最も近い国の1つである韓国の原子力開発事情と原賠制度についてQ&A方式でお話します。

q1
(韓国の原子力開発事情)
韓国の原子力開発はどのような状況ですか?
a1
  • 1978年に最初の原子力発電所が運転を開始し、現在は20基1772万kWが運転中、8基960万kWが建設中、4基560万kWが計画中です。
  • 欧米企業の技術導入を基に国産化・標準型炉開発が進められており、2012年に完全国産化を達成する計画がたてられています。
  • 自国の原子力発電所建設だけでなく、1990年代以降、IAEAへの協力や、他国へのコンサルタント契約などを通して国際展開への努力が続けられており、2009年にはアラブ首長国連邦(UAE)の原子炉建設計画で4基の建設と運転を受注しました。

【A1.の解説】

 韓国は1956年に米国と原子力協力協定を締結、1962年に初の研究炉TRIGA-MARKⅡが臨界を達成し、1978年に初の原子力発電所である古里1号機が運転を開始しました。現在では20基1,772万kWの原子力発電所が運転中、8基960万kWが建設中、4基560万kWが計画中で、一次エネルギー供給の約15%、総発電設備容量の約25%、総発電電力量の約35%を原子力が占めています。

 韓国は1991年に北朝鮮と「朝鮮半島の非核化と平和構築のための宣言」に署名し、再処理施設、濃縮施設の保有を放棄しており、また、外国に再処理を委託することも米国の同意を得られる見通しが立たないため、使用済燃料は2016年まで原子力発電所のサイトに貯蔵することを決定しています。しかしながら2016~2018年までに各発電所の貯蔵施設が満杯になってしまうという差し迫った状況もあり、2014年の韓米原子力協定改定に向けて、これまで禁止されてきた再処理への道を開くことを交渉において強く要求しています。

 韓国は、原子力関係の制度や法令、基準等の多くを日本から取り入れていますが、原子力発電開発は米、加、仏などの欧米企業と連携し、それを自力更新する形で進めてきました。1970年代に完成品受け渡し契約の形から始まり、1983年に策定した「原子力発電所標準化計画」や2008年に策定した「第一次国家エネルギー基本計画」などに沿って加圧水型軽水炉(PWR)の国産化・標準型炉開発を進め、2012年に完全国産化することを目指しています。韓国の原子力発電所における2000年以降の設備利用率は、世界平均の79%を大きく上回る90%超を毎年達成しており、世界トップクラスの稼働率が維持されています。

 また、1990年代以降、韓国は国際原子力機関(IAEA)等への協力、中国とのコンサルタント契約や原子力発電所建設の受注、トルコとのコンサルタント契約など、国際展開への努力を続けてきましたが、李明博政権になってからは特に積極的な動きを見せており、2009年にはアラブ首長国連邦(UAE)の原子炉建設計画で4基の建設と運転を受注しました。これを踏まえて示された「原子力発電輸出産業化戦略」(2010年1月)では、2030年までに累計80基の受注を目標としています。
 なお、現在までに、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、エジプト、フランス、インドネシア、日本、ヨルダン、カザフスタン、モンゴル、ロシア、アラブ首長国連邦、英国、ウクライナ、米国、ベトナム、アルゼンチンとの間で二国間原子力協定等を結んでいます。

q2
(韓国の原賠制度)
韓国の原賠制度はどのようになっていますか?
a2
  • 韓国の原賠制度は日本の制度と良く似たものとなっています。
  • 日本の制度と大きく違う点は、原子力事業者の責任限度額を設けている点や、賠償措置額が日本の30分の1程度である点などです。
  • 韓国は原子力損害賠償に関する諸条約に加盟していませんが、現行法は、原子力損害の定義や責任限度額の点などにおいて、改正ウィーン条約やCSCに対応することができるものとなっています。

【A2.の解説】

 韓国は原子力開発を始めるにあたり、技術は欧米から取り入れましたが、制度や法令、基準等の多くを日本から取り入れています。原賠制度も日本の「原子力損害の賠償に関する法律」を参考に「原子力損害賠償法」が作られてきましたが、現行法は国際条約の加盟を視野に入れた内容となっています。

 2002年1月1日より施行されている韓国の現行の原賠制度において、日本の制度と異なるのは、主に以下の点です。

  • 賠償措置額は500億ウォン(約37億円)であり、日本の1200億円と比べて極端に少なく(約30分の1)、中国の3億元(約38億円)と同程度である。
  • 賠償措置額を超える原子力損害が生じた場合、必要と認められる場合は政府が原子力事業者に対して必要な援助を行う(第14条の2)のは日本と同様だが、原子力事業者の責任は無限責任ではなく、3億SDR(約379億円)までの有限責任となっており、改正ウィーン条約や補完基金条約(CSC)に対応可能となっている。(第3条の2)
  • 第2条2項において、「原子力損害」の定義に以下二種類の費用が追加されており、改正ウィーン条約に対応可能となっている。
     ▽重大な環境の損傷を原状復帰するために災害措置法等の関係法令による措置計画に従って取った、又は取らなければならない措置の費用
     ▽原子力事故を発生させる重大かつ緊急の危険がある場合にこれによる損害や費用の発生を防止したり最小化するために、災害措置法等の関係法令による措置計画に従ってとった防止措置費用(防止措置による追加的な損失又は損害を含む)
  • 生じた原子力損害が、「国家間の武力衝突、敵対行為、内乱又は反乱による場合」は、事業者の責任が免責となり(第3条)、この条件は改正パリ条約、改正ウィーン条約、CSCの全てに適合する。我が国では「異常に巨大な天災地変」も免責となるため、CSCにしか対応してない。
  • 原子力損害の賠償責任は原子力事業者に集中されているが、資材の提供や役務の提供を行った者を含む第三者に故意や重大な過失があった場合には、その者に対して求償できる(第4条)。故意だけでなく重大な過失の場合も求償権を認めるのが我が国との違い。
  • 原子力損害賠償の請求権は10年経過すると時効により消滅する。ただし身体障害、疾病発生及び死亡による原子力損害賠償の請求権の消滅時効は30年となっている(第13条の2)。この条件は改正パリ条約、改正ウィーン条約、CSCの全てに適合する。我が国では不法行為の消滅時効は20年であるため、CSCにしか対応してない。

 韓国は原子力損害賠償に関する諸条約(パリ/改正パリ条約、ウィーン/改正ウィーン条約、補完基金条約(CSC))には加盟していませんが、2001年に改正され2002年1月1日より施行されている現行法は、原子力損害の定義や責任限度額の点などにおいて、改正ウィーン条約やCSCに対応することができるものとなっています。

 なお、その他の国際枠組みとしては、原子力安全条約、使用済み燃料安全管理・放射性廃棄物安全管理合同条約、原子力事故早期通報条約、原子力事故または放射線緊急事態における援助条約、核不拡散条約(NPT)、包括的核実験禁止条約(CTBT)、核物質防護条約改定条約に加盟しており、IAEAの保障措置協定、追加議定書も締結しています。

*平成22年9月15日現在のレートによる。

○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。

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