【21】フランスの原子力開発事情と原賠制度

 今回は、米国に次いで第2位の原子力大国であるフランスの原子力開発事情と原賠制度についてQ&A方式でお話します。

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(フランスの原子力開発事情)
フランスは世界第2位の原子力大国ですが、原子力開発はどのように進んできましたか?また、現在どのような状況ですか?
a1
  • フランスでは政府主導のもと、政府出資企業が中心となって原子力開発が進められてきましたが、今では米国に続いて世界第2位の原子力発電大国であり、2010年1月1日現在、59基6,602万kWの原子力発電所が運転中、総発電電力量に占める原子力の割合も例年7割を超えています。
  • フランスの最初の商用原子力発電は、プルトニウム生産、兼発電炉として開発され、1958年に運転開始されたガス冷却炉(GCR)ですが、その後PWR型軽水炉に切り替えられ、一本化されました。
  • フランスは日本同様にエネルギー資源がほとんど存在しないため、第一次石油危機をきっかけとして原子力によりエネルギー自給率を上げ現在は電力の輸出国となっています。
  • 1993年以降、フランスでは新規発注は停滞していましたが、国内のリプレースや海外市場向けに第3世代原子炉である欧州加圧水型炉(EPR)が開発され、フランス国内では2007年12月にフラマンビル3号機の建設に着工、2012年に運転が開始される見込みです。
  • 近年では、新規原子力導入国と原子力協力協定を締結し、積極的な援助・協力を行うなどして、国を挙げて原子力プラント輸出を推進しています。

【A1.の解説】

 フランスの原子力開発はフランス原子力庁(CEA)が主導し、原子炉製造および原子燃料サイクルはCEAが8割を出資するAREVA社(持株会社)のAREVA NP社(旧フラマトム社)およびAREBA NC社(旧コジェマ社)が携わり、発電所運転はフランス電力公社(EDF)が担当するというように、政府出資企業を中心に政府主導のもとで原子力開発が進められてきました。

 AREVA NP社の前身であるフラマトム社は、米国ウェスチングハウス社の資本・技術が入ったコンソーシアムでしたが、炉型をPWRに一本化、標準化したうえで、資本の国産化、技術の国産化に成功し、現在では世界有数の原子炉メーカーとなっています。

 フランスは日本同様にエネルギー資源がほとんど存在せず、石炭や石油は輸入に頼っているため、1973年の第一次石油危機をきっかけに原子力による電源開発を推進し、1973年には24%であったエネルギー自給率が1990年には50%にまで到達し、原子力はエネルギーの自立と安定供給に大きく寄与するものとなりました。その後、電力需要の伸びが鈍化している中でも原子力発電所の建設が順調に進んだため、現在は国内需要を上回る発電設備を持っており、イタリア、ドイツ、スイスなどの近隣諸国に相当量の電力を輸出しており、地球温暖化防止にも大きな貢献をしています。

 核燃料サイクルの一環として早くから高速増殖炉の開発に着手し、1974年に原型炉フェニックス(FBR、25万kW)が運転を開始しましたが、社会・共産・緑の党による反原子力連立政権の発足に伴って1998年には世界初の商業規模の実証炉スーパーフェニックス(FBR、124万kW)が閉鎖されました。ただし、フェニックスは現在試験や研究のために引き続き運転されています。
 核融合分野では、CEAはトカマク試験装置などによる各種の研究を進めるとともに国際的な研究開発である国際熱核融合実験炉(ITER)計画に参画し、現在、国際的な組織・ITER国際核融合エネルギー機構のもと南フランスのカダラッシュにおいてITER建設が進められています。

 また、日本で発生する使用済み燃料の再処理の再処理は、その大部分をフランスやイギリスに委託していますが、フランスではノルマンディー、ラ・アーグ再処理工場で処理され、ガラス固化体として日本に戻されてきます。

 フランスでは1993年にシボー2号機が発注されて以来、新規発注は停滞していました。しかし、2020年に設計寿命を迎える既存の90万kW級PWRのリプレースや、欧州、米国、アジア等の海外輸出市場向けとして、第3世代原子炉である欧州加圧水型炉(EPR、160万kW)が開発され、オルキルオト3号機(フィンランド)、フラマンビル3号機(フランス)として2012年に運転が開始される見込みとなっています。

 またフランスは、ベトナム、ブラジル、ヨルダン、トルコ、エジプト、アラブ首長国連邦、インド、アルゼンチンなどの新規原子力導入国と原子力協力協定を締結しており、積極的な援助・協力を行うなどして、国を挙げて原子力プラント輸出を推進しています

q2
(フランスの原賠制度)
フランスはOECDの主要国であり、原子力損害賠償に関わるパリ条約に加盟していますが、同国の原賠制度はどのようになっていますか?
a2
  • フランスの原賠制度は加盟しているパリ条約を基本としており、各国の裁量に委ねられている部分を国内法で規定しているのが特徴で、運転者への責任集中、無過失責任、責任限度額、損害賠償措置、国の補償など、原賠制度の基本的な原則はパリ条約と国内法を組み合わせて規定されています。
  • 国内法は、「原子力分野における民事責任に関する1968年10月30日の法律No.66-943 」が根幹となってその後に数回にわたる法改正が行われています。最新では2006年6月13日に改正され、2004年のパリ条約追加議定書(改正パリ条約)およびブラッセル補足条約・追加議定書に対応するようになっていますが、この改正法の発効には改正パリ条約の発効が要件とされています。
  • したがって、現時点で適用される法律では、運転者の賠償責任限度額は約9,150万ユーロ、ブラッセル補足条約に基づく国の補償限度額は約38,110万ユーロとなっていますが、改正パリ条約が発効すると運転者の責任限度額は7億ユーロに、さらにブラッセル補足条約・追加議定書が発効すると国の補償限度額は15億ユーロに、引き上げられます。

【A2.の解説】

 フランスの原賠制度はパリ条約、ブラッセル補足条約を基本として成り立っており、条約において各締約国の裁量権限に委ねられている部分を「原子力分野における民事責任に関する法律」として国内法で規定しているのが特徴です。用語の定義、適用範囲、運営者への責任集中、損害賠償措置、免責事項、裁判管轄、準拠法などについてはパリ条約(改正議定書を含む)に規定されているため、国内法では特に規定されていません。なお、改正パリ条約及びブラッセル補足条約・追加議定書は未だ発効しておりません。

2006年6月13日に改正された法律は、改正パリ条約が発効しなければ適用されませんが、その主な事項は以下の通りです。

・ 法律の目的(第1条)

▽この法律は1960年のパリ条約、1963年のブラッセル補足条約、1964年、1982年お飛び2004年のこれらの条約の追加議定書で各国の裁量に委ねられた措置を規定する。

・ 適用範囲(第2条)

▽ 適用の対象は、個人及び法人であって、パリ条約等の適用範囲に含まれる。

・ 原子力損害の定義(第3条)

▽ 原子力損害はパリ条約の規定(改正パリ条約の第1条aのⅦに規定される損害:死亡・身体障害、財産の滅失・毀損、経済損害、環境損害、防止措置費用など)が適用される。

・ 運転者の責任限度額(第4条)

▽ 運転者の責任限度額は同一の原子力事故につき7億ユーロ。ただし、リスクが限定的な場合には7,000万ユーロに減額される。

・ 国の補償(第5条)

▽ 運転者の責任限度額を上回る部分はブラッセル補足条約(追加議定書)に定めた15億ユーロを限度に国が補償する。

・ 財務的保証(第7条)

▽ 運転者は責任限度額を保険等によって財務的保証を行い、これについて、所管大臣の承認を受けなければならない。
▽ 規定された条件に基づき、運転者の保険等の財務的保証は国の保証に代替される。

・ 国の負担(第8条)

▽ 被害者が、保険者、その他財務的保証者、運転者のいずれからも補償を受けることができない場合には、4条に定めた額を限度として、第5条の範囲で国が負担する。

・ 輸送(第9条)

▽ 原子力物質の輸送に関する運転者の責任限度額は8,000万ユーロ。ただし、フランス領土を通過する際で、パリ条約の適用されない輸送の場合には12億ユーロ。
▽ 財務的保証を保険者等が発行する証明書により証明しなければならない。

・ 身体障害の損害リストの作成(第10条)

▽ 身体障害の損害に関しては、被曝症状を有する被害者のリストが作成される。

・ 賠償金の支払い(第11条)

▽ 被害者に対して暫定的もしくは確定的に賠償金が支払われると、第4条、第5条に定められた責任限度、補償限度を理由として賠償金が取り戻されることはない。

・ 補償の配分方法(第13条)

▽ 法律によって規定された損害賠償の総額が犠牲者の損害全体を補償できないおそれが明らかである場合、4条及び5条で定められた額の補償の配分方式を定めるものとする。

・ 求償の方法(第14条)

▽ 被害者は保険者、その他保証者に対して直接賠償請求できる。

・ 時効、除斥期間(第15条)

▽ 賠償請求権は、原子力事故の日から、死亡・身体障害に関しては30年以内、その他の原子力損害に関しては10年以内に行使しない場合に、消滅時効または除斥期間の適用を受ける。

・ 社会保障、労働災害・職業病補償に関する法律などとの整合(第16条)

▽ この法律は、社会保障、労働災害・職業病補償に関する法律などによる原則に相反するものではない。

・ 専属裁判管轄権(第17条)

▽ 原子力損害がフランス領土において発生した場合、又はパリ条約の適用により裁判管轄権がフランスの裁判所に与えられた場合には、パリ上級裁判所が専属裁判管轄権を有する。

・ ブラッセル条約の失効・破棄(第22条)

 ブラッセル条約の失効もしくはフランスの同条約の破棄の場合には、第5条に定める8億ユーロを限度とする国の補償責任はフランス領土で発生した損害に対してのみ適用される。改正パリ条約の発効からブラッセル補足条約・追加議定書の発効までの期間における国の保証責任も同様とする。

 上記の改正法の発効には、改正パリ条約の発効が必要となりますが、さらに改正法の発効3ヵ月後には4条、7条、9条、9-1条および9-2条に規定される運転者の賠償責任が措置される必要があります。

 フランスはパリ条約、ブラッセル補足条約、ジョイントプロトコールに加盟しており、2006年の改正により国内法は上記条約のほか未発効の改正パリ条約(2004年議定書)にも沿うような内容を整えていますが、損害賠償措置における保険等の財務的保証(環境損害を含む7億ユーロという巨額なもの)を得ることが難しい等の事由により、他の改正パリ条約の署名国と同様に改正議定書の批准は行われていません。また、当然とも言えますが、ウィーン条約/改正ウィーン条約、補完基金条約(CSC)には加盟していません。

 なお、その他の国際枠組みとしては、原子力安全条約、使用済み燃料安全管理・放射性廃棄物安全管理合同条約、原子力事故早期通報条約、原子力事故または放射線緊急事態における援助条約(原子力事故援助条約)、核不拡散条約(NPT)、包括的核実験禁止条約(CTBT) 、核物質防護条約改定条約に加盟しており、IAEA保障措置協定(自発的協定)、追加議定書も締結しています。

 また、フランスにおいては損害賠償措置の財務的保証の役割を担うフランス原子力保険プールが組織されており、我が国をはじめ世界各国の保険プールとの間で原子力保険に関わる再保険取引を行っています。

○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。

最新版の冊子「あなたに知ってもらいたい原賠制度2012年版(A4版324頁、2012年12月発行)」をご希望の方は、有料[当協会会員1,000円、非会員2,000円(消費税・送料込み)]にて頒布しておりますので、(1)必要部数、(2)送付先、(3)請求書宛名、(4)ご連絡先をEメールでgenbai@jaif.or.jpへ、もしくはFAXで03-6812-7110へお送りください。

『あなたに知ってもらいたい原賠制度2013年度版』

 シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」のコンテンツは、あなたの声を生かして作ってまいります。まずは、原子力損害の賠償についてあなたの疑問や関心をEメールで genbai@jaif.or.jp へお寄せ下さい。

お問い合わせ先:地域交流部 TEL:03-6256-9314(直通)