【29】原子力損害賠償支援機構法と原子力被害者早期救済法

 今回は、福島原発事故の損害賠償に関連する「原子力損害賠償支援機構法」と「平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律」(原子力被害者早期救済法)についてQ&A方式でお話します。

q1
(原子力損害賠償支援機構法)
原子力損害賠償に関する支援を行うために新たに設立された「原子力損害賠償支援機構」とは、どのようなものですか?
a1
  • ①原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施、②電気の安定供給、③原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営、を確保するため、損害賠償に関する支援を行うことを目的とした「原子力損害賠償支援機構」が平成23年9月12日に発足しました。
  • 「原子力損害賠償支援機構」(以下「機構」という)の業務に要する費用は、機構に対して原子力事業者が納付する負担金から充てられます。
  • 原子力事業者は、賠償措置額を超える原子力損害が生じた場合に、機構に対して原子力事業者への資金援助を申し込むことができます。
  • 機構は原子力事業者と共に作成した特別事業計画が主務大臣(※1)に認定された場合、政府から国債の交付を受け、特別資金援助のために国債の償還を請求できます。また、政府は機構の債務の保証をすることができます。
  • 特別計画の認定を受けた原子力事業者は、負担金の他に特別負担金を機構に納付します。機構は損益を計算し、繰り越した損失を埋めた残余の利益は国債の償還を受けた額の合計額に達するまで国庫に納付します。

(※1)主務大臣・・・内閣総理大臣及び経済産業大臣

【A1.の解説】

 「原子力損害賠償支援機構法」に基づいて平成23年9月12日に設立された「原子力損害賠償支援機構」は、賠償措置額を超える原子力損害が生じた場合において、原子力事業者が損害を賠償するために必要な資金の交付等を行うことにより、①原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施、②電気の安定供給、③原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営、の確保を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発達に資することを目的としたものです。国は、機構がこの目的を達することが出来るよう万全の措置を講ずることになっています。(第1条~2条)

 機構は、目的を達成するため、以下の業務を行います。

(負担金の収納)

 原子力事業者は、機構の業務に要する費用に充てるため、機構に対して負担金を納付しなければなりません。(第38条~40条)
 現在、原子力事業者12社が70億円を納付し、政府が出資する70億円と合わせて計140億円の資本金により機構が発足しています。

(資金援助)

 原子力事業者は、賠償措置額を超える原子力損害が生じた場合に、原子力事業者に対する資金の交付等の措置(以下「資金援助」という)を機構に対して申し込むことができます。(第41条~44条)

(特別事業計画の認定)

 資金援助にかかる資金交付に要する費用のために国債の交付を受ける必要があるときは、機構は申し込みを行った原子力事業者と共同して特別事業計画(経営合理化の方策、資金確保のための関係者に対する協力要請等の方策、資産及び収支の状況に係る評価に関する事項、経営責任の明確化のための方策、資金援助の内容及び額、交付を希望する国債の額その他資金援助に要する費用の財源に関する事項、等を記載したもの)を作成し、主務大臣(※1)の認定を受けなければなりません。その際に機構は、当該原子力事業者の資産に対する厳正かつ客観的な評価や経営内容の徹底した見直しを行うとともに、当該原子力事業者による関係者に対する協力の要請が適切かつ十分であるかどうかを確認しなければなりません。(第48条~51条)

(特別資金援助)

 機構は特別資金援助に係る資金交付を行うために必要な額に限り、政府が交付した国債の償還を請求できます。それでもなお特別資金援助に係る資金に不足を生ずるおそれがある場合、政府は必要な資金を交付できます。特別事業計画の認定を受けた原子力事業者は、負担金に特別負担金を加算した額を機構に納付します。(第48条~52条)

(損害賠償の円滑な実施に資するための相談その他の業務)

 機構は、資金援助を行った場合、原子力損害を受けた者からの相談に応じることや、資金援助を受けた原子力事業者から資産の買取を行うことができます。また、資金援助を受けた原子力事業者の委託を受けて賠償の支払いを行うことや、都道府県知事の委託を受けて仮払金の支払いを行うことができます。(第53条~55条)

(財務及び会計)

 機構は年度ごとに損益を計算し、利益を生じたときは前年度から繰り越した損失を埋め、なお残余があるときは積立金とします。損失を生じたときは積立金を減額して整理し、なお不足があるときは繰越欠損金とします。特別資金援助に係る資金交付を行った場合、残余があるときには国債の償還を受けた額の合計額に達するまで国庫に納付しなければなりません。(第59条)

(政府保証)

 機構は金融機関等からの資金の借入れや、原子力損害賠償支援機構債の発行をすることができます。政府は国会の議決を経た金額の範囲内において、この借入れや機構債の債務の保証をすることができます。(第60条~61条)

 なお、原子力損害賠償支援機構法には附則として検討事項が記されており、できるだけ早期に事故の原因等の検証、賠償の実施状況、経済金融情勢等を踏まえて、原子力損害賠償制度における国の責任の在り方や、事故収束に係る国の関与及び責任の在り方等について検討を加えるなどして、賠償法の改正等の抜本的な見直しをはじめとする必要な措置を講ずるものとされています。

「原子力損害賠償支援機構法」

q2
(原子力被害者早期救済法)
平成二十三年原子力事故の被害者に対して、国が行う応急対策に関する緊急措置はどのようなものですか?
a2
  • 平成23年原子力事故の被害者を早期に救済する必要があること、被害者への賠償の支払いに時間を要すること等に鑑みて、緊急の措置として、国による仮払金の支払いなどに関して定めた「平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律」(原子力被害者早期救済法)が作られました。
  • 国は、原子力損害の被害者に対して損害を填補するための仮払金を支払います。その事務の一部は、主務大臣(※2)又は都道府県知事の委託により、農協や漁協などの団体が行うことができます。
  • 国は、仮払金を支払ったときは、支払いを受けた被害者の賠償請求権を取得し、速やかに当該請求権を行使します。
  • 仮払金の支払いを受けた者は、確定した賠償の額が仮払金の額に満たないときは、その差額を返還しなければなりません。
  • 地方公共団体が原子力被害応急対策基金を設ける場合、国が必要な資金を補助することができます。

(※2)主務大臣・・・文部科学大臣及び特定原子力損害を受けた事業者の事業を所管する大臣その他政令で定める大臣

【A2.の解説】

 原子力損害を受けた被害者は主務大臣(※2)に仮払いの支払いを請求することにより、国から原子力損害を填補するための仮払金が支払われます。この仮払金の額は、原子力損害の概算額に10分の5を乗じた額となります。
 地方公共団体、農業協同組合、漁業協同組合、商工会議所などの団体は、仮払金の請求に必要な書類の作成等について援助を行うことになっています。また、仮払金の支払いに関する事務の一部は、主務大臣(※2)又は都道府県知事の委託により、農業協同組合や漁業協同組合などの団体が行うことができます。(第2条~8条)

 国は、仮払金を支払ったときは、支払いを受けた被害者から仮払金額までの賠償請求権を取得して、速やかにその請求権を行使し、原子力事業者への請求を行います。賠償額が確定した場合、被害者は賠償額が仮払金の額に満たなければその差額を返還しなければなりません。また、偽りなど不正な手段によって仮払いを受けた者は、仮払金の額に相当する額を徴収されます。(第9条~13条)

 原子力被害者早期救済法には、仮払いのほかに、地方公共団体が行う応急の対策に関する事業等に要する経費のための基金として原子力被害応急対策基金を設ける場合には、国が地方公共団体に対して補助することができる、という制度が規定されています。

「平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律」(原子力被害者早期救済法)

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