IAEAが2050年の原子力予測発表 ―― 5年連続で予測を上方修正

2025年10月7日

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国際原子力機関(IAEA)は9月15日、世界の原子力発電の中長期的な傾向を分析した最新報告書「2050年までの世界のエネルギー・電力・原子力発電予測」(第45版)を公表し、5年連続で原子力発電の見通しを上方修正しました。IAEAのR. グロッシー事務局長は「年次予測が着実に増加していることは、原子力が不可欠であるという世界的な合意が高まりつつあることの証左」としたうえで、「原子力はすべての人々にとって、クリーンで信頼性が高く、持続可能なエネルギーを実現するために不可欠」と強調しています。

新たな見通しによると、高予測ケースでは、世界の原子力発電設備容量は2024年末時点の3億7,700万kWeから2050年までに9億9,200万kWeと2.6倍に増加する見通しです。一方、低予測ケースでも約50%増の5億6,100万kWeに達すると予想されています。IAEAは、2011年の福島第一原子力発電所事故以来初めて2021年に年次予測を上方修正、それ以降、高予測ケースにおける原子力発電設備容量の見通しは、2021年の7億9,200万kWeから25%増加しています。また近年、世界的な注目を集める小型モジュール炉(SMR)については、2050年までに高予測ケースでは今後追加される設備容量(6億7,600万kWe)のうちの24%、低予測ケースでは今後追加される設備容量(3億2,000万kWe)のうちの5%を占めると見込まれています。

IAEAによると、近年では多国間開発銀行などの金融機関や大手テクノロジー企業の間で、SMRを含む原子力支援への関心が高まっています。これらの多くは、2023年12月のCOP28で発表された「原子力3倍化宣言」を支持しており、また世界銀行を含む多国間開発銀行との原子力政策に関する関与が、前向きな変化をもたらしているとIAEAは分析しています。

さらにIAEAは、現在運転中の原子力発電所の約3分の2が30年以上、約40%が40年以上運転している現状をふまえ、今後多くの新規建設が必要になると指摘。既存原子炉の運転期間延長は、低炭素電力確保の最も費用対効果の高い方法であり、大規模な原子力フリートを有する複数の国や地域で、運転期間延長を支援するための取組みが進行中です。また、長期運転に向けた経年化管理プログラムの実施例が増えているほか、電力自由化市場において既存炉の競争力を支援するための、新たな政策措置も実施されつつあるとしています。


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*高予測ケース:低予測よりも野心的だが、妥当かつ技術的に実現可能。 高予測では、各国の気候変動政策や原子力の利用拡大に関する国の意向も考慮

*低予測ケース:現在の市場や技術、資源動向が継続し、原子力発電に影響を及ぼす法律や政策、規制に追加の変更がないと想定。さらに、特定国の原子力発電目標が必ずしも達成されるとは想定していない

2024年の世界の原子力発電開発動向(2024年末時点)

  • 運転中:417基・3億7,700万kW
  • 送電開始:6基・680万kW
  • 建設中:62基・6,440万kW
  • 建設開始:9基・1,010万kW
  • 退役(閉鎖):4基・290万kW
  • 原子力発電量:2兆6,700億kWh(前年比2.8%増)
  • 原子力シェア:8.7% (前年9.2%)

図1.世界各国の原子力発電量と原子力シェア(2024年)

世界の原子力発電予測概観

  • 2024年末時点の世界の運転中原子力発電設備容量3億7,700万kWeと比較して、低予測ケースでは2050年までに約50%増の5億6,100万kWeに、高予測ケースでは2.6倍の9億9,200万kWeに達する。予測には出力増強も加味されている。小型モジュール炉(SMR)は、2050年までに高予測ケースでは今後追加される設備容量(6億7,600万kWe)のうちの24%、低予測ケースでは今後追加される設備容量(3億2,000万kWe)のうちの5%を占めると推定されている
  • 世界的に、石炭が依然、発電の主要なエネルギー源であり、2024年の全発電電力量の約3分の1を占めている。発電に占める石炭のシェアは、1980年以降ほとんど変化していないが、世界第2位の発電源である天然ガスのシェアは、同期間にほぼ倍増している
  • 低炭素電力の供給源としては、水力が最大で、原子力は第2位である。原子力は2024年、世界の発電電力量の約9%を占めた。近年、風力と太陽光の利用が増加しており、その合計シェアは2024年に約15%に達した
  • 2050年までに世界の最終エネルギー消費量は約3%減少する一方、発電量は2024年水準から倍増すると予測されている

表1. 世界の原子力発電規模予測

図2. 世界の原子力発電規模予測

図3. 世界の原子力発電規模予測(閉鎖と新規建設)

原子力をめぐる昨今の背景

  • 原子力発電は、確立された安定的かつ給電可能な低炭素技術である。世界の多くの地域において、クリーンで確実なエネルギー源の確保は、原子力発電への関心を高める主要な政策課題であり続けている。さらに、持続可能なエネルギーの未来への移行は、原子力発電の貢献なしには困難を伴うだろう。そのような未来を実現するためには、世界は豊富でクリーン、信頼性が高く持続可能なエネルギーを必要としている
  • 小型モジュール炉(SMR)は、原子力発電プログラムを開始または拡大する国々で引き続き大きな関心を集めている。原子力発電は、高温プロセス蒸気を必要とする産業用途など、排出削減が困難な分野の脱炭素化に貢献し得る
  • 近年、金融機関(例:多国間開発銀行)や大手テクノロジー企業から、SMRなどの先進技術を含む原子力支援への関心が高まっている。これらの大手テクノロジー企業の多くは、2023年12月のCOP28で発表された31か国による「2050年までに原子力発電設備容量を3倍に増やす」という公約を支持している。世界銀行を含む多国間開発銀行との原子力政策に関する関与が、前向きな変化をもたらしている
  • 現在、原子力発電所の約3分の2が30年以上運転しており、約40%が40年以上運転している。このことは、長期的には閉鎖を相殺するためにはかなり多くの新規建設の必要性が浮き彫りになっている。既存原子炉の運転期間延長は、低炭素電力確保の最も費用対効果の高い方法であり、特に原子力フリートの経年化が進む地域では重要である。大規模な原子力フリートを有する複数の地域や国では、運転期間延長を支援するイニシアチブが進行中である。長期運転に向けた経年化管理プログラムの実施例が増えている。また、電力自由化市場において既存炉の競争力を支援するための、新たな政策措置が実施されつつある
(参考)報告書で用いられている地域分類について
(参考)世界の原子力発電規模予測(IEA・WEO2024シナリオ、原子力3倍化宣言との比較)

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